4月1日──新しい介護福祉士が現場に立つ日に、私たちが伝えるべきたった一つのこと

,

今日、あなたの職場に「新しい仲間」がやってくる

4月1日。

介護の現場にとって、この日は特別な一日です。

新しいユニフォームに袖を通し、緊張した面持ちで出勤してくる新人たち。介護福祉士養成校を卒業したばかりの若者もいれば、異業種から転職してきた方もいるでしょう。

私は北海道介護福祉学校で非常勤講師として教壇に立っています。つい先日まで教室で一緒に学んでいた学生たちが、今日から「現場の介護福祉士」になる。その瞬間に立ち会えることは、教育者として何よりも嬉しいことです。

しかし同時に、胸の奥に不安もあります。

「あの子たちは、今日どんな一日を過ごすのだろうか」


「最初の一日」がその後のすべてを左右する

株式会社MCLで介護事業の経営管理に携わる中で、私はある事実に何度も向き合ってきました。

入職後3か月以内に離職する職員の多くが、「最初の一週間」に違和感を覚えているということです。

「思っていた雰囲気と違った」
「誰に聞いていいかわからなかった」
「放っておかれている気がした」

これは本人の問題ではありません。迎える側の問題です。

介護の現場は常に忙しい。人手が足りない中で業務を回している状況で、新人に丁寧に関わる余裕がないのは理解できます。けれど、だからこそ、最初の一日だけは別格に扱ってほしいのです。


伝えるべきは「技術」ではなく「存在の承認」

養成校で私が学生たちに最後に伝える言葉があります。

「あなたがそこにいることに、意味がある」

介護の仕事は、技術や知識だけでは続けられません。「自分はここにいていいんだ」「自分の存在が誰かの役に立っているんだ」という実感が、日々の原動力になります。

新人が現場に立った最初の日に、先輩職員がかける一言。施設長が見せる笑顔。利用者さんからの「よろしくね」という言葉。

これらはすべて、新人にとって「自分はここに迎えられている」というメッセージになります。

逆に、誰からも声をかけられず、何をしていいかわからないまま一日が終われば、それは「あなたはまだ戦力ではない」という無言のメッセージになってしまいます。


養成校と現場をつなぐ「最初の一日」

介護福祉士養成校では、2年間(あるいはそれ以上)かけて、介護の理念、技術、そして「人を支える仕事の意味」を教えます。

しかし正直に言えば、学校で教えられることには限界があります。教科書に載っている介護と、現場で目の前の利用者と向き合う介護は、まったく別の体験です。

だからこそ、学校で学んだ理念が現場で否定されない環境が必要なのです。

「学校では『利用者本位』と習ったのに、現場では『時間通りに回すこと』ばかり求められる」

こうしたギャップに直面したとき、新人は混乱します。そして、その混乱を受け止めてくれる先輩がいなければ、志を持って入職した若者は静かに心を閉ざしていきます。

養成校の教員として、そして介護事業の経営者として、私は「学校と現場の間」に立つ責任を感じています。学校で育てた芽を、現場で枯らさない。そのために、最初の一日の迎え方がどれほど重要かを、経営者や管理者の皆さんに伝え続けたいのです。


今日からできる3つのこと

新人を迎える現場の皆さんに、今日からできることを3つ提案します。

① 朝、名前を呼んで「おはようございます」と言う

当たり前のことに聞こえるかもしれません。しかし、忙しい現場では「新人がいることに気づかない」ということが実際に起こります。名前を呼ぶこと。それだけで、「あなたを見ています」というメッセージになります。

② 「困ったら誰に聞けばいいか」を明確にする

新人が最もストレスを感じるのは、「わからないことがわからない」状態です。すべてを教える必要はありません。ただ、「困ったらこの人に聞いてね」と一人の名前を伝えるだけで、新人の心理的な安全は格段に高まります。

③ 一日の終わりに「今日はどうだった?」と聞く

5分でいい。一日の終わりに声をかけてください。感想を聞くだけでいいのです。「ちゃんと気にかけてもらえている」という実感が、明日もここに来ようという気持ちにつながります。


人材不足の時代だからこそ、「迎え方」を変える

介護業界の人材不足は深刻です。採用に苦労している事業所は少なくありません。

しかし、採用よりも大切なのは「定着」です。せっかく入職してくれた人材が、最初の数か月で辞めてしまう。これは、本人にとっても、事業所にとっても、そして利用者にとっても、大きな損失です。

定着のカギは、給与や待遇だけではありません。「ここで働きたい」と思える職場の空気をつくることです。そしてその空気は、最初の一日に決まります。


新しい仲間へ──養成校の教壇からのメッセージ

最後に、今日から介護の現場に立つすべての新人の皆さんへ。

不安でいっぱいだと思います。覚えることが多すぎて、頭が真っ白になるかもしれません。先輩たちの動きが速すぎて、自分だけ取り残されている気持ちになるかもしれません。

でも、忘れないでください。

あなたが今日、介護の現場に立つことを選んだ。それだけで、もう十分にすごいことなのです。

介護は、人の人生に寄り添う仕事です。その第一歩を踏み出した今日という日を、どうか大切にしてください。

そして、迎える側の皆さん。今日という一日を、どうか特別な一日にしてください。あなたの一言が、一つの笑顔が、新しい介護福祉士の未来を照らすかもしれないのですから。

4月1日。介護の現場に新しい風が吹く日。

この風を、温かく迎えられる現場でありたい。私はそう願っています。


木下 浩志
NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長
株式会社MCL 取締役/管理事業部長
北海道介護福祉学校 非常勤講師