4月の人事異動が地域連携を試す──つながりを毎年つくり直す覚悟


4月──地域連携の「つながり」が一度リセットされる季節

4月になりました。

新年度の始まりは、介護の現場にとって希望の季節です。新しい職員が加わり、新しい事業計画が動き出す。フレッシュな空気が流れ込んでくる時期です。

しかし、在宅医療・介護連携コーディネーターとして地域に関わる私にとって、4月は「不安の季節」でもあります。

なぜか。それは、この時期、地域連携の「つながり」が一度リセットされるからです。


人事異動という「静かな断絶」

4月は人事異動の季節です。

病院の地域連携室の担当者が替わる。市役所の介護保険課の窓口が替わる。地域包括支援センターのセンター長が異動になる。ケアマネジャーが別の事業所に移る。

一人ひとりの異動は、組織にとっては通常の人事です。しかし、地域連携の視点から見ると、それは「顔の見える関係」の喪失を意味します。

千歳市で在宅医療・介護連携の活動に携わる中で、私は何度もこの現実に直面してきました。

「あの人に電話すれば、すぐに話が通じた」
「あの担当者は、制度の隙間にある困りごとを理解してくれた」
「あの先生とは、患者さんのことを率直に話し合えた」

こうした関係は、一朝一夕にはできません。何度も顔を合わせ、一緒に困難なケースに向き合い、時には意見をぶつけ合いながら、少しずつ築いてきたものです。

それが、4月の人事異動で一瞬にして途切れる。これは地域にとって、目に見えない大きな損失です。


「仕組み」だけでは連携は動かない

国は在宅医療・介護連携推進事業を通じて、地域の連携体制の整備を進めています。会議体の設置、情報共有シートの導入、研修会の開催。制度としての「仕組み」は着実に整ってきました。

しかし、現場で連携を動かしているのは、仕組みではありません。「人」です。

どれだけ立派な情報共有システムがあっても、「この人になら相談できる」という信頼関係がなければ、誰もそのシステムに本音を入力しません。どれだけ連携会議を開いても、参加者が互いの顔と名前を知らなければ、会議は形だけのものになります。

NPO法人ちとせの介護医療連携の会の理事長として、私は地域の多職種をつなぐ場づくりに取り組んできました。その経験から確信していることがあります。

連携の本質は、制度でも仕組みでもなく、「この人と一緒に仕事がしたい」と思える関係性にあるということです。


毎年つくり直す覚悟を持つ

「せっかく築いた関係が、異動でリセットされるなら、意味がないのでは?」

そう感じる方もいるかもしれません。実際、私自身もそう思ったことがあります。何年もかけて培ったネットワークが、4月の異動で崩れていく。その虚しさは、連携に関わる人なら誰もが知っているでしょう。

しかし、ある時気づきました。

「つくり直す」ことそのものに、意味があるのだと。

新しい担当者が来るということは、新しい視点が入るということです。前任者とは異なる経験や専門性を持った方が、地域に新しい風を吹き込んでくれることもあります。

大切なのは、「去年と同じ関係を維持しよう」とすることではありません。新しい顔ぶれで、今年の地域をどうつくるか。その問いに毎年向き合い続ける覚悟を持つことです。


千歳市での実践──「最初の一歩」を仕掛ける

千歳市では、NPO法人ちとせの介護医療連携の会を中心に、新年度が始まるこの時期にいくつかの取り組みを行っています。

1. 新任者向けの「顔合わせの場」をつくる

堅苦しい研修ではなく、地域で連携に関わる多職種が気軽に顔を合わせられる場を設けています。名刺交換をして、自分の役割と「困ったときに頼ってほしいこと」を一言ずつ伝え合う。たったそれだけのことですが、これが後々の連携に大きな差を生みます。

2. 前任者から「関係」を引き継ぐ

業務の引き継ぎはどの組織でも行われます。しかし、「地域の誰とどんな関係を築いてきたか」まで引き継がれることは稀です。私たちは前任者に対して、「この人には何かあったら連絡してください」「この先生は〇〇の件で協力してくれます」といった「関係性の引き継ぎ」をお願いしています。

3. 最初のケースを一緒に担う

新任の地域連携室担当者やケアマネジャーが最初に直面する連携ケースに、コーディネーターとして一緒に関わります。一つのケースを一緒に乗り越えた経験は、何回の研修よりも強い信頼関係をつくります。


地域連携は「積み重ね」と「つくり直し」の繰り返し

介護事業の経営に携わる立場からも、地域連携の重要性は年々高まっていると感じます。

単独の事業所だけで利用者を支えることはできません。医療機関、行政、地域包括支援センター、他の介護事業所、そして地域住民。多くの関係者が連携して初めて、在宅で暮らし続けたいという高齢者の願いを支えることができます。

株式会社MCLの経営管理に携わる中でも、「地域とのつながりが強い事業所ほど、利用者からの信頼が厚い」という実感があります。それは営業活動の成果ではありません。日々の連携の中で、「あの事業所なら安心して任せられる」という評判が自然と広がっていくのです。

だからこそ、4月の人事異動で関係が途切れたとき、「仕方がない」で終わらせてはいけません。新しい関係を築くことを、地域への投資として捉える。その意識を、経営者も管理者も持つ必要があります。


「顔の見える関係」から「腹の見える関係」へ

地域連携の世界でよく使われる言葉に、「顔の見える関係」があります。

しかし私は、それだけでは不十分だと考えています。目指すべきは、「腹の見える関係」です。

顔の見える関係は、お互いの顔と名前と役割を知っている段階。腹の見える関係は、お互いの本音や困りごと、組織の事情まで率直に話し合える段階です。

「うちの事業所、実は今月から職員が2人減って、新規の受け入れが厳しいんです」
「正直に言うと、この利用者さんのケース、うちだけでは対応しきれません」
「制度上はこうなっていますが、現場の実情としては難しい部分があります」

こうした本音を言い合える関係があってこそ、本当の意味での連携が生まれます。きれいごとだけの連携は、いざというときに機能しません。

腹の見える関係を築くには時間がかかります。しかし、その関係があるからこそ、地域の中で「この人を何とかして支えたい」という思いが共有され、制度の隙間を埋めるような柔軟な対応が可能になるのです。


4月の今だからこそ、一本の電話を

最後に、地域で連携に関わるすべての方へのお願いです。

今日、一本の電話をかけてみてください。

異動してきた新しい担当者に、「はじめまして、何かあったらいつでも連絡ください」と伝える電話を。あるいは、異動した前任者に、「今までありがとうございました。新しい職場でも頑張ってください」と伝える電話を。

たった一本の電話が、新しい連携の糸口になります。そして、その一本の電話の先に、地域で暮らす高齢者やそのご家族の安心があります。

地域連携は、誰かがつくってくれるものではありません。私たち一人ひとりが、今日の一歩を踏み出すことでつくるものです。

4月。つながりをつくり直す季節。

今年もまた、この地域の連携を、一つひとつ紡いでいきたいと思います。


木下 浩志
NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長
株式会社MCL 取締役/管理事業部長
北海道介護福祉学校 非常勤講師