4月は介護業界にとって特別な月です。新卒の介護福祉士や、異業種から転職してきた新人職員が現場に入ってくる時期。この受け入れ体制の良し悪しが、その後の定着率を大きく左右します。
私は株式会社MCLで介護事業の経営管理に携わりながら、北海道介護福祉学校で介護福祉士を目指す学生たちを教えています。養成校で学んだ学生が現場に出たとき、「思っていたのと違う」と感じて早期離職してしまうケースを何度も見てきました。
その原因の多くは、本人の資質ではなく、受け入れ側の体制にあります。
今回は、新年度を前に見直しておきたいOJT体制の3つのポイントをお伝えします。
ポイント1:「誰が教えるか」を明確にする
新人が現場に入ったとき、最も不安に感じるのは「誰に聞けばいいかわからない」という状況です。
小規模な事業所では、特定の指導担当を決めずに「みんなで教える」体制をとることがあります。一見すると手厚いように見えますが、実際には教える内容や方法がバラバラになり、新人が混乱する原因になります。
おすすめは、メイン指導者とサブ指導者の2名体制です。メイン指導者が日常的な業務指導を担い、サブ指導者がメイン不在時のフォローや、新人の相談相手になる。この体制を明文化しておくだけで、新人の安心感は大きく変わります。
指導者の選定にあたっては、経験年数だけでなく、「教えることに関心がある人」を選ぶことが重要です。ベテランでも教えることが苦手な職員はいますし、中堅でも丁寧に寄り添える職員はいます。
ポイント2:最初の1週間の「型」を決めておく
新人にとって最初の1週間は、その職場の印象を決定づける期間です。
ここで「とりあえず見ていて」「慣れたらやってみて」という曖昧な指示が続くと、新人は自分が歓迎されていないと感じてしまいます。
効果的なのは、1週間のスケジュールをあらかじめ作成しておくことです。
- 1日目:施設案内、利用者の紹介、基本的な1日の流れの説明
- 2〜3日目:指導者と一緒に業務を行い、手順を覚える
- 4〜5日目:指導者の見守りのもとで、一部の業務を自分で実施
大切なのは、このスケジュールを新人本人にも事前に共有することです。「今日は何をするのか」「いつ頃から自分で動くのか」が見えていると、新人は見通しをもって仕事に臨めます。
また、毎日15分でもいいので、振り返りの時間を設けてください。「今日やってみてどうだった?」「わからなかったことはある?」と声をかけるだけで、新人が抱える小さな不安を早期にキャッチできます。
ポイント3:「できたこと」にフォーカスするフィードバック
新人指導でありがちなのが、できていないことばかりを指摘してしまうことです。
もちろん、安全に関わることや利用者への対応で修正が必要な場面はあります。しかし、最初の1か月は特に、「できたこと」を意識的に言葉にして伝えることが重要です。
「利用者の○○さんへの声かけ、とても丁寧だったね」
「記録の書き方、前回より具体的になっていたよ」
こうした具体的なフィードバックは、新人の自信につながります。介護の仕事は成果が数字で見えにくい分、周囲からの承認が大きなモチベーションになるのです。
私が養成校の授業で学生に伝えていることの一つに、「最初からすべてできる人はいない」という言葉があります。これは新人本人だけでなく、指導する側にも当てはまります。完璧な指導を目指す必要はありません。新人と一緒に成長していくという姿勢が、結果的に最も良い教育になります。
受け入れ体制は「投資」である
新人の受け入れ準備には、時間と労力がかかります。日々の業務で手一杯の現場では、「そこまで手が回らない」という声も聞こえてきます。
しかし、受け入れ体制の不備による早期離職のコストは、準備にかけるコストをはるかに上回ります。採用にかけた費用、引き継ぎの手間、残った職員の負担増加――これらを考えれば、OJT体制の整備は経営判断としても合理的です。
4月まであと数週間。今からでも遅くはありません。まずは「誰が教えるか」「最初の1週間をどうするか」「どうフィードバックするか」の3点を、チームで話し合ってみてください。
新しい仲間を迎える準備は、既存の職員にとっても自分たちの仕事を見つめ直す良い機会です。新人の受け入れをきっかけに、職場全体がもう一段階成長する。そんな4月を迎えられることを願っています。
木下 浩志
NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長
株式会社MCL 取締役
北海道介護福祉学校 非常勤講師
