「求人を出しても応募が来ない」「せっかく採用しても3年以内に辞めてしまう」──こうした声を、介護事業所の経営者や管理者から毎日のように聞きます。
2026年の人材不足は、数字の上でも深刻です。厚生労働省の試算では、介護に必要な人材は2026年度に全国で約240万人。その確保に向けた処遇改善加算の拡充が進む一方、加算を取得するには「キャリアパス要件」を満たす必要があります。
今回は、私自身が介護事業所の経営に携わる立場から、小規模事業所でも取り組める「キャリアパス設計の実践的なアプローチ」を5つのステップに整理してお伝えします。
なぜキャリアパスが採用・定着に直結するのか
介護職員の離職理由で最も多いのは「職場の人間関係」ですが、2番目・3番目には「将来の見通しが立たない」「仕事内容に見合った給与がもらえない」が続きます。
つまり、職員は「この職場でどう成長できるか」「頑張れば報われるのか」が見えないから辞めるのです。キャリアパスはその「見通し」を可視化するツールです。制度として整備するだけでなく、職員一人ひとりが「自分の将来」として実感できるかどうかが鍵になります。
ステップ1:職位・等級の区分を整理する
まず、自事業所の職位(職員→主任→管理者など)と等級(1級〜5級など)を整理します。大切なのは、「どんなスキルや実績があれば昇格できるか」の基準を言語化することです。
よくある失敗は「なんとなく勤続年数で昇格している」状態です。年功序列が悪いわけではありませんが、それだけでは若い職員が「頑張っても変わらない」と感じ、モチベーションを失います。
実践ポイント:
- 職位は3〜5段階程度にシンプルに設定する
- 昇格要件には「資格取得」「研修受講」「目標達成」を組み合わせる
- 現在の職員が「どの等級に位置するか」を明示する
ステップ2:給与規程と連動させる
キャリアパスが「絵に描いた餅」にならないために、職位・等級と基本給を連動させる必要があります。処遇改善加算の算定要件でも、「賃金規程等による昇給の仕組みが整備されていること」が求められています。
「給与体系の整備は大変そう…」と感じる方も多いですが、すでに就業規則や給与規程がある事業所では、そこに等級別の基本給テーブルを追加するだけで対応できるケースがほとんどです。
実践ポイント:
- 基本給テーブルを作成し、等級ごとの賃金帯を設定する
- 昇給のタイミング(年1回など)と評価の流れを規程化する
- 就業規則・給与規程と実際の運用に乖離がないか確認する
ステップ3:資格・研修との連携を設計する
キャリアアップには、スキルの習得が不可欠です。介護福祉士取得、認知症介護実践者研修、ケアマネジャー資格などを「どの等級でどの資格を取得することが期待されるか」という形でマッピングします。
私が講師を務める北海道介護福祉学校でも感じますが、学生が就職先を選ぶ際に「資格取得支援があるか」「研修が充実しているか」を重視する傾向は年々強まっています。これは新卒採用の競争力にも直結します。
実践ポイント:
- 等級ごとに「推奨資格・研修」を一覧化する
- 資格取得費用の補助制度を設ける(全額・半額など)
- 研修受講を勤務時間内に位置づけ、受けやすい環境をつくる
ステップ4:面談制度で「個人のキャリア」と結びつける
制度を整えても、職員が「自分のこと」として感じなければ意味がありません。そのために重要なのが、定期的な個別面談です。
面談では、「今どの等級にいるか」「次のステップに進むには何が必要か」「本人がどうなりたいか」を対話の中で確認します。キャリアパスは「会社が決める道」ではなく、「本人と一緒に描く道」であることが大切です。
小規模事業所では管理者が面談を担うことが多いですが、月に1回15〜20分の面談でも、職員の定着率に大きな差が出ます。私の関わる事業所でも、面談を導入してから「辞めたいと思っていた」という職員が踏みとどまるケースが増えました。
実践ポイント:
- 面談は年2回以上(目標設定期と振り返り期)を基本とする
- 面談シートを活用し、記録として残す
- 「何を頑張ればよいか」を具体的に合意する
ステップ5:採用時に「成長できる職場」として見せる
キャリアパスが整うと、採用にも活用できます。求人票や面接で「当事業所ではこのように成長できます」と具体的に示せることは、大きな差別化になります。
特に若い世代は、「安定した職場」よりも「成長できる職場」を求める傾向があります。キャリアパス制度の概要を採用ページや面接資料に盛り込むことで、「ここなら将来が見える」と感じてもらえる可能性が高まります。
実践ポイント:
- 求人票に「キャリアパス制度あり」「資格取得支援あり」を明記する
- 面接時に等級制度の概要を説明する時間を設ける
- 先輩職員のキャリア事例(入職から現在まで)を伝える
まとめ:キャリアパスは「採用→定着→育成」の好循環をつくる
キャリアパスの整備は、一見「書類仕事が増える」と思われがちです。しかし、適切に設計されたキャリアパスは、採用力の強化・離職率の低下・人材育成の効率化という3つの効果をもたらします。
加えて、2026年6月からの処遇改善加算の算定においても、キャリアパス要件の充足は不可欠です。今から取り組むことで、加算取得と人材確保を同時に進めることができます。
実践のポイントまとめ:
- 職位・等級区分をシンプルに整理し、昇格基準を言語化する
- 給与規程と連動させ、「頑張れば報われる」仕組みを可視化する
- 資格・研修とのマッピングで、成長の道筋を示す
- 定期面談で「個人のキャリア」として実感してもらう
- 採用段階から「成長できる職場」としてアピールする
制度の整備に不安を感じる方や、どこから手をつければよいかわからない方は、ぜひお気軽にご相談ください。現場の実態に合った形で、一緒に考えていきます。
木下 浩志
NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長
株式会社MCL 取締役
北海道介護福祉学校 非常勤講師
