介護情報基盤が始まる――地域連携は「紙と電話」から「つながるデータ」へ


「あの情報、FAXで送ってもらえますか?」がなくなる日

在宅医療・介護連携コーディネーターとして活動していると、毎日のように耳にする言葉があります。

「主治医意見書のコピー、FAXで送ってもらえますか?」
「ケアプランの変更、まだ届いていないんですが…」
「認定調査の結果、電話で確認してもいいですか?」

地域の医療・介護連携は、いまだに「紙と電話」に大きく依存しています。千歳市でも、多職種が集まるサービス担当者会議や地域ケア会議の場では活発に情報交換が行われますが、日常業務での情報共有には課題が残っているのが現状です。

そんな中、2026年4月から「介護情報基盤」の運用が順次始まります。これは、地域連携のあり方を大きく変える可能性を持った仕組みです。


介護情報基盤とは何か

介護情報基盤は、全国医療情報プラットフォームの一部として国が整備する仕組みです。これまで紙や個別のシステムでバラバラに管理されていた介護関連情報を、電子的に一元化・共有できるようにします。

共有される情報は、主に以下の5つです。

  1. 要介護認定情報(認定調査票、主治医意見書を含む)
  2. ケアプラン
  3. 介護レセプト情報
  4. LIFE(科学的介護情報)
  5. 住宅改修費利用等の情報

マイナンバーカードを活用して本人確認を行い、市町村・介護事業所・医療機関・ケアマネジャー・利用者本人の間で、必要な情報を電子的にやり取りできるようになります。


地域連携の「何が」変わるのか

在宅医療・介護連携コーディネーターの立場から見ると、この仕組みが地域にもたらす変化は3つあると考えています。

① 情報の「タイムラグ」がなくなる

現在、要介護認定の結果やケアプランの変更が関係者全員に届くまでには、数日から数週間かかることがあります。FAXの送り忘れ、郵送の遅延、担当者の不在――こうした日常的なロスが、ケアの質に影響を及ぼすことも少なくありません。

介護情報基盤では、情報が更新された時点で関係者がアクセスできるようになります。「最新の情報を全員が共有している」という状態が、自然に実現されるわけです。

② 多職種連携の「共通言語」ができる

千歳市では、NPO法人ちとせの介護医療連携の会が中心となり、医師・看護師・ケアマネジャー・介護職・薬剤師・リハビリ専門職など多職種の連携を推進してきました。

しかし、連携の現場でしばしば課題になるのが「前提情報の共有」です。担当者会議の場で「この方の認定はいつ更新されましたか?」「主治医意見書にはどう書いてありましたか?」といった確認作業に時間を取られることがあります。

介護情報基盤が整備されれば、会議の前に関係者が同じ情報を確認した状態で臨めるようになります。限られた時間を、情報確認ではなく「この方にとって何が最善か」という本質的な議論に使えるようになるのです。

③ 利用者・家族の「安心」が増す

利用者やご家族にとって、自分の介護に関する情報がどこでどう管理されているのか見えにくいのは不安なことです。

介護情報基盤では、利用者本人もマイナポータルを通じて自身の介護情報を確認できるようになります。「自分の情報は自分で見られる」という透明性は、サービスへの信頼感を高めることにつながります。


事業所として何を準備すべきか

介護情報基盤は、準備が整った市町村から順次運用が開始されます。全国的な本格運用は2028年4月の予定ですが、今から準備しておくことをお勧めします。

1. 端末・ネットワーク環境の確認

情報を閲覧するためのパソコンまたはタブレット、安定したインターネット環境、マイナンバーカードを読み取るためのカードリーダーが必要です。

カードリーダーの導入には国の助成金(上限6.4万円)が用意されています。助成金の申請期間は2025年10月から2026年3月までとなっていますので、まだ申請していない事業所は早めにご確認ください。

2. セキュリティ対策の見直し

介護情報は個人情報の中でも特に機微な情報を含みます。端末の管理、パスワードポリシー、アクセス権限の設定など、基本的なセキュリティ対策を改めて確認しておく必要があります。

3. 職員への周知と教育

新しいシステムが導入される際に最も重要なのは、現場の職員が「なぜこの仕組みが必要なのか」を理解していることです。操作方法の研修だけでなく、情報共有がケアの質をどう高めるのかを伝えることが大切です。


千歳市の連携の「これから」

千歳市では、NPO法人ちとせの介護医療連携の会が中心となり、多職種連携の基盤づくりを進めてきました。定期的な研修会、事例検討会、顔の見える関係づくり――これらの積み重ねが、千歳市の医療・介護連携を支えています。

介護情報基盤は、こうした「人と人のつながり」を置き換えるものではありません。むしろ、対面で築いた信頼関係の上に、デジタルの利便性を加えるものだと私は考えています。

「顔の見える関係」と「データでつながる仕組み」。この両輪が揃ったとき、千歳市の地域連携はさらに一歩前に進むはずです。

介護情報基盤の導入に関するご質問や、地域連携に関するご相談がありましたら、お気軽にお問い合わせください。


木下 浩志
NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長
株式会社MCL 取締役
北海道介護福祉学校 非常勤講師