新人介護福祉士に伝えたい「現場で求められる力」──養成校の教壇から見える景色


4月、新たな一歩を踏み出す介護福祉士たちへ

4月──。北海道介護福祉学校を巣立った学生たちが、いよいよ現場での第一歩を踏み出す季節です。

私は非常勤講師として養成校の教壇に立ちながら、同時に株式会社MCLで介護事業の経営管理に携わっています。「教える側」と「受け入れる側」、その両方の立場から新人介護福祉士を見ていると、養成校で伝えるべきこと、そして現場が本当に求めている力が、少しずつ見えてきます。

今日は、この春から現場に出る新人介護福祉士の皆さんに向けて、私が伝えたい3つのことをお話しします。

1. 技術よりも先に「観る力」を磨く

介護の現場では、移乗や入浴介助といった身体介護の技術がもちろん求められます。養成校でも多くの時間を割いて実技を学びます。

しかし、現場で最初に差がつくのは、実は「観察力」です。

利用者さんの表情がいつもと違う。食事の量が少し減っている。歩き方にわずかな変化がある。こうした小さな変化に気づけるかどうかが、介護の質を大きく左右します。

技術は経験を積めば必ず上達します。しかし「観る力」は、意識しなければ身につきません。新人の皆さんには、最初の1か月は「今日、利用者さんのどんな変化に気づいたか」を毎日ノートに書くことをお勧めします。

2. 「わからない」と言える勇気を持つ

新人にとって最も怖いのは、「できない自分」を見せることかもしれません。先輩たちが忙しそうに動いている中で、「わかりません」と言うのは勇気がいることです。

しかし、介護の現場で最も危険なのは、わからないまま一人で判断することです。

利用者さんの体調の変化、薬の確認、移乗の方法──迷ったときに「確認させてください」と言えることは、弱さではなく、プロとしての責任感の表れです。

経営者の立場から言えば、「わからない」と素直に言える新人職員は、むしろ信頼できます。なぜなら、その姿勢がある人は、必ず成長するからです。

3. 「その人らしさ」を支える仕事だと忘れない

忙しい現場に入ると、つい業務をこなすことに追われてしまいます。時間通りに食事介助を終わらせる、記録を書く、次の業務に移る──。日々のルーティンに埋もれていくと、大切なことを見失いそうになります。

介護福祉士の仕事は、「その人がその人らしく生きること」を支えることです。

養成校の授業で私がいつも学生に伝えるのは、「あなたが関わっている方には、何十年もの人生の物語がある」ということです。その物語の続きを一緒に紡ぐのが、私たちの仕事です。

食事介助ひとつとっても、「早く食べさせる」のではなく、「この方が楽しく食事できるにはどうすればいいか」と考える。その視点があるかないかで、介護の意味はまったく変わります。

養成校と現場をつなぐ架け橋として

私は養成校の講師として、学生たちに知識と技術を伝えています。同時に、経営者として現場の実情も知っています。

正直に言えば、養成校の教育と現場のニーズには、まだギャップがあります。養成校では制度や理論を体系的に学びますが、現場では「目の前の利用者さんにどう向き合うか」という実践知が求められます。

このギャップを埋めるために、私は授業の中でできるだけ現場のリアルな事例を伝えるようにしています。教科書には載っていない、現場で本当に起きていること。それを学生時代から知っておくことが、スムーズな現場適応につながると考えています。

新人を迎える現場の皆さんへ

最後に、新人を迎え入れる側の皆さんにもお伝えしたいことがあります。

新人職員は、皆さんが思っている以上に不安を抱えています。「こんなことを聞いたら迷惑かな」「自分はちゃんとやれているのかな」──そんな思いを抱えながら、毎日必死に頑張っています。

最初の3か月の関わり方が、その職員の5年後を決めると私は考えています。

「大丈夫?」のひと言、「昨日より上手になったね」のひと言。そうした声かけが、新人の成長を支え、そして定着につながります。人材確保が厳しい時代だからこそ、育てる力が問われています。

おわりに

介護教育は、単に資格を取るための学びではありません。「人の人生に寄り添う専門職」を育てる営みです。

養成校の教壇に立つたびに、私は学生たちの真剣な眼差しに背筋が伸びる思いがします。彼ら・彼女たちが現場で輝けるように、教育と現場の両面から支え続けていきたい。それが、複数の立場を持つ私だからこそできることだと信じています。

この春、新たなスタートを切るすべての介護福祉士に、心からのエールを送ります。

木下 浩志
NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長
株式会社MCL 取締役
北海道介護福祉学校 非常勤講師