4月入職の新人が「辞めたい」と言う前に——介護現場の早期離職を防ぐキャリア支援の実践

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新年度が始まり1週間が経ちました。4月に入職した新人職員は、今まさに緊張と不安の中で日々を過ごしていることと思います。

介護業界では、入職後1年以内の離職率が依然として高い水準にあります。厚生労働省の推計では、2026年度までに年間6万3,000人ペースでの介護人材の新規増員が必要とされており、「採用して終わり」ではなく「定着させる」ことが経営上の最重要課題になっています。

今回は、キャリアコンサルタントの視点から、新人職員が早期に離職してしまう原因と、それを防ぐための具体的なキャリア支援の取り組みについてお伝えします。

新人が「辞めたい」と思う3つのタイミング

私がこれまで多くの介護職員のキャリア相談を受けてきた経験から、新人が離職を考えるタイミングには共通するパターンがあります。

1. 入職1〜2週間目:「リアリティショック」

学校や研修で学んだことと、実際の現場のギャップに衝撃を受ける時期です。「こんなに忙しいとは思わなかった」「先輩が怖い」「自分には向いていないのではないか」——こうした感情が一気に押し寄せます。

2. 入職1〜2か月目:「孤立感」

業務にある程度慣れてきた頃、逆に「自分だけできていない」と感じ始める時期です。同期がいない環境では特に顕著で、相談できる相手がいないことが離職の引き金になります。

3. 入職3〜6か月目:「将来への不安」

日々の業務はこなせるようになったものの、「この仕事を続けて自分はどうなるのか」「キャリアアップの道はあるのか」という将来への漠然とした不安が生まれる時期です。

早期離職を防ぐ3つのキャリア支援策

それぞれのタイミングに対応した、実践的な支援策をご紹介します。

支援策1:入職初期の「期待値調整」面談

入職前や入職直後に、上司やメンターが新人と1対1で面談を行い、以下の点を丁寧にすり合わせます。

  • 業務の現実を正直に伝える:忙しい時間帯や大変な場面を隠さず共有する
  • 成長のステップを見える化する:「1か月後にはここまで」「3か月後にはここまで」という具体的な目標を示す
  • 「できなくて当たり前」を言語化する:最初からすべてできる必要はないことを明確に伝える

キャリアコンサルティングの理論では、これを「予期的社会化」と呼びます。事前に現実を知ることで、リアリティショックを大幅に軽減できるのです。

【実践のコツ】休日に入る前日の面談を欠かさない

支援策1に関連して、私が特に重要だと考えているのが「休日前面談」です。

新人職員にとって、休日は気持ちをリセットできる貴重な時間ですが、同時に不安や迷いが膨らむ危険な時間でもあります。仕事中は目の前の業務に集中できていても、ひとりになった途端に「自分はこの仕事に向いていないのではないか」「もう行きたくない」という気持ちが一気に押し寄せることがあります。そして、休み明けの朝に「行けない」という連絡が入る——これが早期離職の典型的なパターンです。

だからこそ、休日に入る前日に5分でもいいので声をかけることが大切です。

  • 「今週がんばったね」「ここができるようになったね」と具体的に成長を承認する
  • 「困っていることはない?」と不安を吐き出せる機会をつくる
  • 「来週は〇〇を一緒にやろう」と次の出勤への見通しを持たせる

たったこれだけのことですが、「自分は見てもらえている」「来週も頑張ろう」という気持ちにつながります。キャリアコンサルティングの観点では、これは「心理的安全性の確保」と「自己効力感の向上」に直結する関わりです。特に入職後3か月間は、連休前や週末前の声かけを意識的に行うことをお勧めします。

支援策2:メンター制度と「ななめの関係」づくり

直属の上司だけでなく、少し年次の近い先輩をメンターとして配置することが効果的です。キャリアコンサルタントの立場から特にお勧めしたいのは、「ななめの関係」——つまり直接の指揮命令系統にない先輩との関係づくりです。

  • 業務上の質問:直属の上司やプリセプターに聞く
  • 職場の人間関係や将来の不安:ななめの関係にあるメンターに相談する

この使い分けができると、新人は「相談していい」という安心感を得られます。実際に、メンター制度を導入した介護事業所では、新人の1年以内離職率が半減したという報告もあります。

支援策3:3か月・6か月時点での「キャリア面談」

業務に慣れてきた3か月目と6か月目に、改めてキャリア面談を実施します。ここでのポイントは、業務の評価ではなく「本人のキャリアの棚卸し」に焦点を当てることです。

  • この3か月で何ができるようになったか(成長の実感)
  • 今、仕事で楽しいと感じることは何か(内発的動機の確認)
  • 半年後、1年後にどうなっていたいか(キャリアビジョンの共有)

特に3つ目が重要です。介護福祉士の資格取得、リーダー職への挑戦、認知症ケアの専門性を深めるなど、具体的なキャリアパスを一緒に描くことで、「この職場で働き続ける意味」が明確になります。

経営者・管理者がすべき「仕組みづくり」

個々の上司の力量に頼るだけでは、組織としての定着率は安定しません。経営者・管理者には、以下の仕組みづくりをお勧めします。

  1. 新人育成プログラムの標準化:OJTの内容とスケジュールを文書化し、指導者によるバラつきをなくす
  2. メンター研修の実施:メンターに「傾聴」「承認」「質問」の基本スキルを身につけてもらう
  3. 定期面談の制度化:1か月・3か月・6か月・1年のタイミングで必ずキャリア面談を行うルールにする
  4. 処遇改善加算の活用:キャリアパス要件を整備し、資格取得支援や昇給の仕組みを明示する

まとめ:「辞めたい」を「続けたい」に変えるのは、仕組みと対話

介護人材の不足が深刻化する中、新人を採用するだけでなく「育てて定着させる」ことが、事業所の持続可能な経営に直結します。

早期離職を防ぐカギは、特別な制度ではなく「適切なタイミングでの対話」です。入職前の期待値調整、メンターによる日常的な支え、そして節目ごとのキャリア面談——この3つを仕組みとして整えることで、新人職員の「辞めたい」を「もう少し続けてみよう」「この職場で成長したい」に変えることができます。

新年度が始まったばかりの今こそ、皆さんの事業所の新人育成体制を見直してみてはいかがでしょうか。