介護情報基盤がスタート——AI時代に求められる職員の「新しい力」とは

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2026年4月、いよいよ国の「介護情報基盤」の運用が始まりました。利用者の介護・医療データが一元的に管理・共有される仕組みが本格的に動き出したことで、介護現場はデータを「活かす」時代へと大きく舵を切ろうとしています。

今回は、この介護情報基盤の意義を整理するとともに、AI活用が進む介護現場で働く職員に求められる力について、キャリアコンサルタントの視点からお伝えします。

介護情報基盤で何が変わるのか

これまで介護現場では、利用者の情報が事業所ごとにバラバラに管理されていました。ケアマネジャーが病院に問い合わせ、訪問看護ステーションに確認し、デイサービスの記録を取り寄せる——こうした「情報のつなぎ直し」に膨大な時間と労力がかかっていたのが実情です。

介護情報基盤の運用開始により、利用者に関わる多職種・多事業所が必要な情報をスムーズに共有できる土台が整います。具体的には以下のような変化が期待されています。

  • ケアプラン作成の精度向上: 医療情報と介護情報を横断的に参照できるため、より根拠のあるプランが立てられる
  • 多職種連携の迅速化: 状態変化の情報がリアルタイムに共有され、対応の遅れが減る
  • データに基づく経営判断: 蓄積されたデータを分析することで、サービスの質の可視化や経営改善に活用できる

AIと介護情報基盤の掛け合わせが生む可能性

この情報基盤の上にAI技術が乗ることで、さらに大きな可能性が広がります。

たとえば、蓄積されたデータからAIが利用者の状態変化を予測する「予測ケア」。転倒リスクや体調悪化の兆候を事前にキャッチし、先回りのケアを行うことで、重度化防止につなげる取り組みがすでに始まっています。

また、音声入力AIの進化も見逃せません。スマートフォンに話しかけるだけで記録が完成する技術は、記録業務の負担を大幅に軽減します。北九州市の事例では、ICTやAIロボットの活用により約35%の業務時間短縮が実現されたという報告もあります。

厚生労働省も計297億円規模の予算でテクノロジー導入を後押ししており、補助率75〜80%の制度を用意しています。「導入したいが費用が心配」という事業所にとって、今はまさに追い風の時期と言えるでしょう。

AI時代に職員に求められる「3つの力」

ここからは、キャリアコンサルタントとして多くの介護職員のキャリア支援に関わってきた立場から、AI時代に求められる職員の力についてお話しします。

1. データを「読む力」

情報基盤やAIが提示するデータを鵜呑みにするのではなく、「この数値が意味することは何か」「利用者の生活にどう影響するか」を読み解く力が重要になります。これはAIにはできない、人間ならではの力です。

2. テクノロジーと「付き合う力」

新しいツールに対して「難しそう」と距離を置くのではなく、まず触ってみる姿勢が大切です。完璧に使いこなす必要はありません。「AIに任せる部分」と「自分が担う部分」の線引きを意識できることが、これからの介護職員のリテラシーになります。

3. 人にしかできないケアを「深める力」

AIが記録や分析を担ってくれるようになった分、私たちは利用者との対話や心理的なサポートにより多くの時間を使えるようになります。つまり、テクノロジーの活用は「人の仕事が奪われる」ことではなく、「人にしかできない仕事に集中できる」ことを意味するのです。

管理者・経営者に求められる姿勢

AI導入を進める際に最も大切なのは、職員の不安に寄り添うことです。

「自分の仕事がなくなるのでは」「パソコンが苦手なのについていけるのか」——こうした声は現場で必ず上がります。導入の目的が「人を減らすこと」ではなく「一人ひとりの負担を軽くし、ケアの質を高めること」であることを、繰り返し丁寧に伝える必要があります。

私が人材マネジメントの現場で常に意識しているのは、「変化の主役は現場の職員である」ということです。トップダウンで導入を押し付けるのではなく、職員が「やってみたい」と思える環境づくりが、結果的に最も確実な定着につながります。

具体的には、以下のようなステップをお勧めします。

  1. 小さく始める: まずは記録業務など、効果が実感しやすい領域から導入する
  2. 推進リーダーを育てる: ITに詳しい職員だけでなく、現場の信頼が厚い職員をリーダーに選ぶ
  3. 振り返りの場をつくる: 定期的に「使ってみてどうか」を共有し、改善を重ねる

まとめ

介護情報基盤の運用開始は、介護業界のデジタル化における大きな転換点です。しかし、どれだけ優れた基盤やAIが整っても、それを活かすのは「人」です。

テクノロジーを味方につけながら、利用者一人ひとりに向き合うケアの本質を大切にする——その両立こそが、これからの介護現場に求められる姿ではないでしょうか。

変化を恐れるのではなく、変化を「自分のキャリアを広げるチャンス」として捉える。そんな前向きな姿勢を、職員にも、そして経営者にも持っていただきたいと思います。


木下 浩志(きのした ひろし)
特定非営利活動法人ちとせの介護医療連携の会 理事長