「なぜ介護を続けるのか」を一緒に問い直す──キャリアコンサルティングが介護現場にもたらすもの


介護の現場では、慢性的な人手不足が続いています。求人を出しても応募が来ない、ようやく採用した職員がすぐに辞めてしまう──そんな悩みを、全国の介護事業者が抱えています。私も例外ではありません。経営者として何度も頭を抱えながら、「どうすれば人が育ち、定着する職場をつくれるのか」を問い続けてきました。

私はキャリアコンサルタントの国家資格を持ち、介護事業経営者の立場からも、職員一人ひとりの働きがいと向き合ってきました。その経験の中で確信していることがあります。「人が辞める問題」の根っこは、給与や労働条件だけではない、ということです。多くの場合、「この仕事を続ける意味が見えなくなった」という感覚が、離職の引き金になっています。

キャリアコンサルティングとは何か

キャリアコンサルティングとは、個人が自分のキャリア(職業人生)について主体的に考え、意思決定できるよう支援する専門的な対話のプロセスです。「転職の相談」というイメージを持つ方も多いですが、実際には「今の職場でどう成長するか」「自分の強みをどう活かすか」を一緒に考えることが中心です。

介護現場においては、「自分はなぜこの仕事を選んだのか」「この職場でどうなりたいのか」「10年後、どんな介護職員でありたいか」──そうした問いに向き合うための時間と場を提供することが、キャリアコンサルティングの本質です。

「辞めたい」の前にある言葉を聞く

職員が「辞めたい」と口にするとき、多くの場合はすでに限界に達しています。その前の段階──「なんかしんどい」「自分には向いていないのかも」「このままでいいのだろうか」──という曖昧な不安の段階で、誰かにちゃんと話を聞いてもらえる環境があれば、離職を防げるケースは少なくありません。

私が大切にしているのは、評価や指導ではなく「傾聴」から始まるキャリア対話です。上司と部下という立場を超えて、「あなたの人生のことを一緒に考えたい」というスタンスで向き合うこと。それだけで、職員の表情が変わることがあります。その瞬間が、私がこの仕事をしていて最も嬉しいと感じる瞬間でもあります。

介護現場でのキャリアコンサルティング実践のポイント

① 定期的な1on1の場をつくる

月1回でも、業務の話ではなく「あなた自身のこと」を話せる時間をつくりましょう。評価面談とは別に、非公式な対話の場が職員の安心感につながります。「いつでも話を聞いてもらえる」という環境があるだけで、職員の心理的安全性は大きく変わります。

② キャリアパスを「見える化」する

「頑張れば認められる」という曖昧な期待よりも、「介護職員→リーダー→主任→施設長」といった具体的なキャリアパスを示すことが重要です。自分の未来が見えると、仕事への向き合い方が変わります。特に20〜30代の若い職員は、将来像が描けないと早期に離職する傾向があります。

③ 強みを活かした役割分担を意識する

「この人はコミュニケーションが得意」「この人は細かい記録が丁寧」──職員それぞれの強みを把握し、その強みが活かせる役割を意識的につくっていくことが、長期的な定着につながります。「人を型にはめる」のではなく、「人に合わせた場をつくる」発想の転換が必要です。

管理職自身もキャリアを問い直す

職員のキャリアを支援するためには、管理職自身も自分のキャリアと向き合っていることが大切です。「なぜ自分はこの仕事をしているのか」「この職場で何を実現したいのか」──そうした問いへの答えを持っている管理職は、職員の迷いにも寄り添うことができます。

私自身も、キャリアコンサルタントとして資格を取得したとき、改めて自分の仕事観を整理する機会を得ました。「介護の仕事を通じて、地域の人たちの最期まで豊かな暮らしを支えたい」という原点に戻ることができた。その経験が、今の経営と人材育成の土台になっていると感じています。

まとめ──キャリアコンサルティングで職場を変える

  • 「辞めたい」の前にある不安を拾い上げる傾聴の場をつくる
  • 月1回の非公式1on1で、業務以外の対話を習慣化する
  • キャリアパスを可視化し、職員が「先」を描けるようにする
  • 個々の強みを活かす役割設計を意識する
  • 管理職自身が自らのキャリアを問い直す

人が育つ組織は、人の話を聞く文化がある組織です。キャリアコンサルティングは、その文化をつくるための大切なツールです。介護の現場から、一人でも多くの「ここで働き続けたい」という声を生み出せるよう、私も実践を続けていきたいと思っています。