9月3日、木曜日です。
昨日は介護福祉士国家試験の申込締切の話を書きました。今日は、その少し先の話をさせてください。
10月には、介護支援専門員実務研修受講試験があります。いわゆるケアマネ試験です。今年受験される方は、もう直前期に入っています。そして事業所の中には、受験はしていないけれど「いつかは受けたほうがいいのだろうか」と考えている方も、必ずいるはずです。
私はキャリアコンサルタントとして、この「ケアマネを受けるかどうか」の相談を、これまで何度も受けてきました。そのたびに感じるのは、この迷いは能力の問題ではなく、もっと別のところにあるということです。
迷っている人は、たいてい現場が好きな人です
ケアマネ試験の受験資格は、介護福祉士などの国家資格に基づく業務に、通算5年以上かつ900日以上従事していることです。つまり受験を考える段階にいる方は、現場を5年以上続けてきた人ということになります。
5年です。決して短くありません。夜勤をこなし、看取りに立ち会い、ご家族から厳しい言葉をいただいたこともあったでしょう。それでも続けてきた人が、いま分かれ道に立っている。
相談の場でよく聞くのは、こういう言葉です。
「ケアマネになったら、利用者さんの体に触れなくなりますよね」
これを言うとき、皆さん少し寂しそうな顔をされます。私はその表情を見るたびに、この人は本当に現場が好きなのだと思います。そして、その気持ちを「向上心がない」などと言う人がいたら、それは違うとはっきり言いたい。
ただ、一つだけお伝えしていることがあります。迷いの理由が「現場が好きだから」なのか、「新しい役割が怖いから」なのか、その2つは分けて考えたほうがいい、ということです。前者は立派な判断材料ですが、後者は時間が解決することもあります。この2つは、自分の中では意外と混ざっています。
「受かっても、すぐに使わない」という選択があります
もう一つ、相談の場でお伝えしていることがあります。
資格は、取ったからといって、すぐに使わなければならないものではありません。
ケアマネ試験に合格すると、その後、実務研修を受けて登録することになります。ここまで進んだうえで、しばらく現場で働き続ける方もいます。5年後に居宅介護支援事業所へ移る方もいれば、施設ケアマネとして自分の法人の中で役割を変える方もいる。訪問介護の現場に残りながら、サービス提供責任者としてケアプランを読み解く力を活かす方もいます。
つまり合格は、進路の決定ではなく、選択肢が1つ増えるということです。
キャリアの相談では「決めてから動く」ことを前提に考えてしまう方が多いのですが、私はむしろ逆でいいと思っています。先に選択肢を持っておくと、その後の判断が落ち着きます。持っていない選択肢について悩むのは、そもそも難しいのです。
お金の話も、正直に書いておきます
きれいごとだけ書くつもりはありません。
ケアマネの資格を取ったからといって、必ず収入が上がるわけではありません。事業所によっては、介護福祉士としての夜勤手当がなくなる分、かえって手取りが下がることもあります。これは実際に起きていることで、私も経営する側として、ここは正直に伝えるようにしています。
責任の重さも変わります。書類の量は増えます。ご家族との調整、サービス事業所との交渉、給付管理の期限。現場とはまったく別種の負荷がかかります。
それでも、この道を選んだ人たちがよく言うのは「その人の生活全体が見えるようになった」ということです。入浴介助をしていたときには見えていなかった、その方の家計や家族関係、地域とのつながりまで含めて考えるようになる。視野の話であって、上下の話ではありません。
現場が下で、ケアマネが上。そういう構図で語られることがありますが、私はまったくそう思っていません。見ている角度が違うだけです。
事業所は、受験を「辞める前触れ」と見ないでほしい
ここからは、経営する側への話です。
職員が「ケアマネを受けたいのですが」と言ってきたとき、内心で身構える管理者がいます。うちを辞めて、居宅に移るつもりではないか、と。
その気持ちは分かります。分かりますが、そこで曖昧な反応をすると、その職員は間違いなく察します。そして、次は相談せずに動きます。
私は逆だと思っています。受験を応援した事業所のほうが、結果としてその人に長く残ってもらえる。なぜなら、自分の法人の中に次の役割があると分かるからです。「ここには次がない」と思ったときに、人は外を見ます。資格を取ったから辞めるのではなく、行き先が中にないから辞めるのです。
具体的にできることも、そう難しくありません。試験前の1か月、夜勤の回数を少し調整する。合格後の実務研修は平日にまとまった日数がかかりますから、そのときのシフトの見通しを、受験の段階で伝えておく。研修費用の扱いを先に決めておく。この3つだけでも、本人の安心感はまるで違います。
現場に残るという選択も、同じ重さがあります
最後に、これは強くお伝えしたいことです。
ケアマネを受けない、という選択にも、まったく同じ価値があります。
現場に10年、20年と立ち続けている人の技術は、簡単に代えがきくものではありません。認知症のある方の、その日の様子から変化に気づく。移乗のときに体の力の入り方で不調を察する。これは資格ではなく、時間と観察でしか身につかないものです。
介護福祉士としての専門性を深める道もあります。認定介護福祉士、喀痰吸引等研修の指導者、実習指導者、あるいは後輩を育てる役割。キャリアの階段が「主任・管理者・ケアマネ」の3本しかないように見える事業所は、正直まだ多いのですが、それは事業所側の設計不足であって、本人の問題ではありません。
私自身、この業界で長く働いてきて思うのは、キャリアというのは上に登るものではなく、横に広がっていくもののほうが近いということです。
来年を考えている方へ ― 今日、数え始めてください
今年の受験申込はすでに締め切られています。来年をお考えの方は、今日から一つだけ準備をしておいてください。
自分の実務経験が、いつ5年900日に到達するのかを数えることです。
北海道の場合、受験申込は例年5月から6月にかけて行われます。案内が出てから慌てて計算すると、日数が足りずに1年待つことになるケースがあります。しかも実務経験証明書は、昨日の記事にも書いたとおり、本人ではなく事業所が発行する書類です。複数の事業所を経験している方は、前職にも証明を依頼しなければなりません。これには時間がかかります。
数えてみて、まだ足りないと分かったなら、それはそれで構いません。あと何年で条件を満たすのかが分かるだけで、この先の見え方は変わります。
10月に試験を受けられる方。ここまで働きながら勉強を続けてこられたこと自体が、すでにひとつの結果だと思います。当日、体調を整えて臨まれることを願っています。
そして迷っている方。受ける・受けないのどちらを選んでも、その選択を私は支持します。ただ、迷ったまま数年が過ぎてしまうのだけは、もったいない。一度、紙に書き出して、誰かに話してみてください。話す相手は、私でも構いません。
木下浩志(NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長/株式会社MCL 取締役/北海道介護福祉学校 非常勤講師/キャリアコンサルタント)


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