8月29日、土曜日です。8月最後の週末になりました。
9月に入ると、介護の求人が動き出します。年度の折り返しに合わせて増員をかける事業所があり、10月からの体制で人を探すところもある。転職を考えている方にとっては、春に次いで選択肢が広がる時期です。
今日は、その求人票をどう読むか、そして面接で何を聞くかという話を書きます。採用する側にいる人間が書くには少し妙な話かもしれませんが、キャリアコンサルタントとして相談を受ける立場でもあるので、両方の目線から正直に書いてみます。
求人票は「嘘は書けないが、全部も書けない」
まず前提として、求人票に嘘は書けません。ハローワークの求人票も、求人サイトの掲載も、実際の労働条件と違えば問題になります。
ただし、書かれていないことは山ほどあります。しかもそれは、多くの場合、隠しているわけではありません。単に、決まった様式の枠に収まらないだけです。
たとえば「夜勤月4回程度」と書いてあったとして、その4回が16時間夜勤なのか、2交代の実質拘束何時間なのか、仮眠が取れる体制なのかは、様式には入りません。「賞与年2回」と書いてあっても、それが基本給の何か月分で、直近3年の実績がどうだったかは書かれていない。
だから求人票を読むときは、書いてある内容を疑うのではなく、書かれていない項目を数えるという読み方をおすすめしています。気になった空白が、そのまま面接で聞くべきことになります。
数字が書いてあるところほど、確かめる
私が相談を受けていて、後から食い違いが出やすいと感じるのは、次の4つです。
1つ目は、給与の内訳です。「月給23万円」と書かれていたとき、そこに何が含まれているか。基本給がいくらで、処遇改善加算の手当がいくらで、夜勤手当が何回分見込まれているか。夜勤4回分が含まれた金額なら、夜勤が入らない月は当然その分下がります。ここを確かめずに入職して、最初の給与明細で驚く方が、毎年います。
2つ目は、賞与と昇給の実績です。「昇給あり」は制度があるという意味で、毎年必ず上がるという意味ではありません。聞くなら「直近3年の実績」です。「昨年度の実績はどれくらいでしたか」と聞くのは、失礼でも何でもありません。
3つ目は、休みの取り方です。年間休日数だけでなく、有給の取得率、希望休が月に何日出せるか、シフトがいつ出るか。シフトの発表が前月の28日なのか、10日前なのかで、生活の組み立てやすさはまるで違います。
4つ目は、人員体制です。日勤帯に何人、夜勤帯に何人。これは働きやすさに直結するのに、求人票にはまず書かれていません。
聞きにくいことを、聞きやすくする
とはいえ、面接でこれを全部聞くのは勇気が要る、という声をよく聞きます。「がめつい人だと思われませんか」と。
思われません、と言い切ります。少なくとも、まともな採用担当は、労働条件を確認してくる人を減点しません。むしろ、条件を確かめずに入った人ほど早く辞めるということを、採用する側は経験で知っています。ここをきちんと聞いてくる方には、こちらも構えて答えます。
それでも聞きにくいときは、聞き方を少し変えてみてください。
「残業はどれくらいありますか」より、「先月、いちばん残業が多かった方はどれくらいでしたか」。
「有給は取れますか」より、「昨年度の取得率はどれくらいでしたか」。
「人間関係はどうですか」より、「この1年で入職された方は何人で、いま何人残っていますか」。
平均ではなく実績を、印象ではなく数字を聞く。それだけで、答える側は具体的に答えるしかなくなります。そして、答えられるかどうかで、その事業所が自分の現状をどれだけ把握しているかも見えてきます。
離職の数字を聞かれて気分を害する事業所なら、そこは合わないという情報が手に入ったということです。それも面接の成果です。
いちばん確かなのは、見学です
ここまで書いておいて何ですが、面接での質疑よりも、はるかに多くのことが分かる方法があります。見学です。
できれば、日勤の忙しい時間帯に行かせてもらってください。10時前後か、昼食の時間帯です。整えられた時間ではなく、動いている時間を見る。
見るのは設備ではありません。人です。
職員同士が、利用者の前でどんな話し方をしているか。職員が利用者を呼ぶときの言葉づかい。忙しいときに、誰かが誰かに声をかけているか。それとも、みんなが黙って自分の作業だけをしているか。
私は、この「忙しいときに声が出ているか」を、かなり重く見ています。余裕のあるときに優しくできる職場は多い。差が出るのは、余裕のないときです。
もう一つ、トイレと汚物処理室を見せてもらえるかどうか。断られたら、それも一つの答えです。
転職を「逃げ」だと思わなくていい
相談の場で、よく聞く言葉があります。「途中で辞めるのは、逃げになりませんか」。
私は、なりませんと答えています。
合わない場所で消耗し続けても、力は伸びません。それどころか、自信を失って、この仕事そのものが嫌になってしまう。介護の仕事から離れていく人のなかには、介護が嫌になったのではなく、あの職場が合わなかっただけという人がかなりいます。それは業界にとっても、大きな損です。
ただ、一つだけ付け加えます。辞める前に、いまの職場で言えることは言ってみてほしい、ということです。
シフトの組み方でも、指導のやり方でも、記録の負担でも構いません。言ってみて何も変わらないなら、そのときは動けばいい。ただ、言ってみたら意外と変わったという例も、私は自分の法人で何度も見ています。管理者は、言われないと気づけません。悪意ではなく、単純に見えていないのです。
言ってから動く。この順番だけ守れば、次の場所でも同じことを繰り返さずに済みます。
採用する側にも、宿題があります
最後に、こちら側のことも書いておきます。
求職者が面接で条件を聞きにくいのは、聞かれた側がきちんと答えてこなかった歴史があるからだと思っています。「その辺は入ってから」「みんな仲良くやってますよ」。こういう答え方をされ続ければ、聞くほうも身構えます。
私たちが用意しておくべきなのは、聞かれたときに数字で答えられる状態です。昨年度の有給取得率、直近3年の昇給実績、この1年の入職者と定着者の数。自分の法人でも、いつでも出せるように整理しているつもりですが、聞かれてから慌てて調べたことも、正直あります。
9月は、人が動く月です。来てくれる方に対して、こちらも隠さずに数字を出す。そこから始まる関係のほうが、長く続くと思っています。
夏が終わります。転職を考えている方も、人を迎える側の方も、良い出会いになりますように。
木下浩志(NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長/株式会社MCL 取締役/北海道介護福祉学校 非常勤講師/キャリアコンサルタント)


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