「もう一人で大丈夫だよね」の前に ― 4月入職者が半年を迎える、9月の確かめ方

「もう一人で大丈夫だよね」の前に ― 4月入職者が半年を迎える、9月の確かめ方

8月28日、金曜日です。8月最後の週末を迎えます。

来週から9月。4月に入職した方は、まもなく半年になります。新卒で入った人も、他業種から転職してきた人も、この時期にはもう「新人」とは呼ばれなくなっているはずです。夜勤に入り、担当を持ち、後から入った人に教える場面も出てきているかもしれません。

そこで一度、確かめておきたいことがあります。

その人の「独り立ち」を決めたのは、誰でしょうか。

独り立ちは、たいてい「都合」で決まっている

正直に書きます。多くの現場で独り立ちの時期を決めているのは、本人の到達度ではなく、シフトの都合です。

指導係をつけたまま2人でカウントする余裕がなくなった。夏の有給や急な欠員でシフトが埋まらない。3か月経ったから、そろそろいいだろう。だいたい、この3つのどれかです。

私も経営する側にいる人間なので、この事情はよくわかります。人が足りないなかで、いつまでも2人体制を続けるわけにはいきません。判断としては、間違っているとまでは言えないと思っています。

問題は、その決め方そのものよりも、決めたことを本人にどう伝えたかのほうにあります。

「もう一人で大丈夫だよね」

この一言は、確認しているようでいて、実際にはお願いになっています。半年目の職員が、この問いかけに「いえ、まだ不安です」と答えるのは、かなり難しい。むしろ「大丈夫です」と言うほうが自然です。周りが忙しいのを、その人がいちばんよく見ているからです。

そして、この日を境に、質問が減ります。

「独り立ち」が「もう聞けない」に変わる瞬間

独り立ちというのは、本来は「一人で業務を回せる」という意味のはずです。ところが現場では、いつの間にか「もう聞かなくていい状態」として運用されてしまうことがあります。

聞けなくなった人は、どうするか。自分の判断でやるようになります。それが正しければ問題ないのですが、迷ったときにも聞かなくなるところが怖いです。

たとえば、いつもと様子が違う利用者がいたとき。食事量が少し落ちているとき。移乗のときに、なんとなく重く感じたとき。経験のある職員なら「あれ」と思って誰かに言う場面で、半年目の人は「これぐらいで呼んだら迷惑かな」と考えます。そして、報告が一拍遅れます。

介護の現場で起きるヒヤリハットや事故を後から振り返ると、「気づいてはいたが、言い出せなかった」という時間が挟まっていることがあります。技術の問題ではなく、聞ける関係があったかどうかの問題です。

半年から1年のあたりで辞めていく人の理由も、突き詰めるとここに近いことが多いと感じています。仕事がきついから辞めるというより、きついことを誰にも言えないまま抱えて、ある朝に糸が切れる。辞めますと言いに来たときには、もう気持ちは固まっています。

「できます」には、3つの段階がある

半年面談をするなら、「できるようになった?」という聞き方はもったいないと思っています。「できます」としか答えようがないからです。

代わりに、業務を3つの段階に分けて聞いてみてはどうでしょうか。

  1. 説明できる(手順を言葉にできる)
  2. 見てもらえばできる(誰かがそばにいれば安心してできる)
  3. 一人でできる(判断も含めて任せられる)

同じ「できます」でも、この3つはまったく違います。そして本人は、たいていこの違いを自覚しています。段階で聞かれれば「2です」と答えられる人が、「できる?」と聞かれると「できます」と答えてしまう。聞き方を変えるだけで、出てくる情報の量がまるで違います。

さらに大事なのは、2と答えたときに「じゃあ、まだ見るね」と返すことです。ここで「もう半年だから3にしよう」と言ってしまうと、次からは全部3と答えるようになります。

新人ではなく、教えた人に聞く

半年の節目でもう一つやってほしいのが、教えた側への聞き取りです。

指導係を担った職員は、この半年、自分の仕事に加えて人を見てきました。しかも多くの場合、指導の時間は勤務時間に見込まれていません。休憩を削り、記録を後回しにして、それでも新人の隣に立ってきた人がいるはずです。

その人に「ありがとう」と言った記憶が、どれだけあるでしょうか。私は、自分に問い直すと胸を張れません。新人が育っているかばかり気にして、育てている側が消耗していることに気づくのが遅れる。これは管理する立場の、かなり典型的な失敗だと思います。

指導係が燃え尽きると、次の新人が入ったときに引き受け手がいなくなります。そうすると教育が場当たりになり、また早期離職が増える。この悪循環は、一度回り始めるとなかなか止まりません。

対策は、そう複雑ではありません。指導係を1人に固定しないこと。役割を明示して、評価にも処遇にも反映すること。そして半年の面談を、新人だけでなく指導係にもやること。「大変だったでしょう」と言葉にして聞く時間を、業務として取ることです。

チェックリストを、逆から使ってみる

多くの事業所に、新人教育のチェックリストがあると思います。項目が並んでいて、できたら印をつけていく、あの一覧です。

あれは、指導する側が到達度を測るための道具として作られています。それを、本人が持つ道具に変えてみるのはどうでしょうか。

つまり、「できた項目の一覧」ではなく「まだ聞いていい項目の一覧」として渡すということです。印がついていない項目は、何度聞いても構わない。そう明示されているだけで、質問の心理的な負担はかなり下がります。

半年経った人に、あらためてこのリストを渡し直してもいいと思います。「ここから先は、まだ遠慮なく聞いていい」という線を、事業所の側から引く。独り立ちを本人の我慢に任せないための、ささやかな仕掛けです。

9月1日を、線を引き直す日に

昨日は防災の話を書きました。BCPも新人教育も、結局のところ「作ったあと、更新し続けているか」という同じ問いに行き着くのだと、書きながら思っていました。

4月に入ってきた人は、この半年で確実に変わっています。できることも、抱えている不安も、4月とは別のものになっているはずです。それなのに、こちらの見方だけが4月のまま止まっていることがあります。

来週の月曜、9月1日。半年の区切りに、面談の時間を30分だけ取ってみてください。評価ではなく、確かめるための30分です。

聞くことは、これだけでいいと思います。

3つ目を必ず入れてください。半年目の人は、できていないことばかり数えています。そこを外から言葉にしてもらう経験は、想像以上に大きい。

秋の入口です。夏を越えた職員が、ここからまた一段伸びていけるように、こちら側の見方を更新しておきたいと思っています。


木下浩志(NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長/株式会社MCL 取締役/北海道介護福祉学校 非常勤講師/キャリアコンサルタント)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です