8月26日、水曜日です。今日は少し、自分の話をさせてください。
来月9月17日(木)、アクセスサッポロで開催される CareTEX札幌’26 の専門セミナーに登壇します。専門セミナー12、時間は10時から11時までの1時間です。
演題は「スポットワークと生成AIポータルで挑む人材戦略改革 〈採用 × 育成 × 定着〉」としました。
受講は無料で、現在申込を受け付けています。詳細とお申込みはこちらからご覧いただけます。
講師一覧を見て、少し背筋が伸びた
先日、主催者から公開されたセミナーの案内画像が届きました。講師陣の顔写真が横一列に並んでいるあれです。
そこに自分の顔があるのを見て、正直、少し落ち着かない気持ちになりました。私がこれまで、聞く側の席に座って学ばせていただいてきた方ばかりだからです。
なかでも、お名前を挙げておきたい方が2人います。
ひとりは、瀬戸雅嗣さんです。公益社団法人全国老人福祉施設協議会の副会長を務めておられ、北海道老人福祉施設協議会でも長く業界を牽引してこられました。札幌の社会福祉法人栄和会で総合施設長として現場を預かりながら、同時に全国の制度をつくる側の議論に立ち続けている。現場と国の制度、その両方に足をかけ続けるというのが、どれだけ体力と覚悟のいることか。地方の一法人で日々の運営に追われている身からすると、その姿はほとんど遠い山のように見えます。
もうひとりは、神内秀之介さんです。実地指導・監査への対応から経営診断、リーダー育成研修まで、福祉現場の困りごとを幅広く引き受けておられます。介護福祉経営士1級を第1号で取得された方でもあります。
私が神内さんの取り組みで注目しているのは、ふくよろAIアカデミーです。300本を超える動画講座に、AIによる学習サポートを組み合わせている。福祉の学びにAIを実装するというのを、構想ではなく実際に形にしておられます。
私が今回話すのは、法人の業務基盤にAIを入れる話です。神内さんがやっておられるのは、人の学びにAIを入れる話。同じ日、同じ会場で、違う入口から同じ方向を向いた話が並ぶことになります。これは受講される方にとって、かなり贅沢な組み合わせだと思います。
この2人に加えて、制度解説で全国を回っておられる小濱道博先生、現場と制度の両方を語ってこられた菊地雅洋先生をはじめ、各分野の方々が登壇されます。
自分がその列に入るというのは、いまでも実感が湧きません。それでも、依頼をいただいたときに引き受けたのは、話せることが一つだけはっきりあったからです。
うまくいった自慢話ではありません。人が採れない、育てる時間がない、辞めていく。この三重苦のなかで、千歳という人口10万人に満たないまちの法人が、この1年で何をやってみて、どこまで進んで、どこがまだ途中なのか。その現在地を、脚色せずに話す。それならできると思いました。
第1部 ― スポットワークを「採用の入口」にする
前半は、スポットワークの話です。
昨年、2025年10月20日に、千歳市・NPO法人ちとせの介護医療連携の会・株式会社タイミーの3者で「人材確保に関する連携協定」を結びました。介護・福祉分野をはじめとした人材確保について、行政と地域のNPOと事業者が組んだ形です。
背景にあるのは、千歳市の2040年の高齢化率が29.6%と見込まれていること、そして道内の介護事業所の66.5%が人手の不足感を抱えているという現実でした。
昨日このブログで、介護労働安定センターの令和7年度介護労働実態調査を取り上げました。そこにも関連する数字があります。過去1年間にスポットワークを利用したことがある事業所は8.9%。まだ1割に届きません。ただし、利用した事業所のうち28.0%が、そこで来た人を正社員等として雇用しています。
つまり、使っている事業所は少ないけれど、使ったところの約3割で「採用」につながっている。この落差は、もっと知られていいと思っています。
セミナーでは、業務の分解の仕方(どこまでを切り出し、どこからを専門業務として残すか)、人員配置基準や資格要件との関係、当日の受け入れとミニ教育の設計といった、実務の話を中心にします。「まず何から手をつけるか」がわかる時間にしたいと考えています。
「もう二度と介護はしない」と決めていた人が、いま介護主任
第1部で、いちばんお伝えしたいのは数字ではありません。
千歳市内のある事業所に、介護主任として働いている女性がいます。介護福祉士です。その方は前職で介護現場の理不尽さに直面して、「もう二度と介護はしない」と決めていました。
きっかけは、スポットワークで単発の仕事として、ある介護事業所に入ったことでした。そこで受けた温かさと、「僕達は資格だけで人を判断しません。その方の人柄を重視します」という管理者の言葉に、救われたと言います。
単発のアルバイトから始まって、経験を積み重ねて、いまは主任です。働く楽しさを、次の世代や仲間に伝える側に回っています。
私はこの話を聞いたとき、スポットワークというのは人手を埋める道具の話ではないのだと思いました。一度この仕事を離れた人と、もう一度出会い直すための入口になりうる。この業界を離れた人の数を思えば、これはかなり大きな意味を持つはずです。
(ご本人の了承をいただいて紹介しています。氏名・事業所名は非公開です)
第2部 ― 生成AIで内製した「MCLポータル」
後半は、株式会社MCLで運用している社内ポータルの話です。
なぜ既製品を買わずに自分たちで作ったのか。理由は単純で、外部のサービスを機能ごとに積み上げていくと、月額費用がどんどん重なるうえに、システムがバラバラで画面も別々になり、結局のところ現場が使わなくなるからです。
それなら、現場が本当に使うものを、生成AIを相棒にして自分たちで作ろう、と決めました。専任のエンジニアはいません。
当初14業務から始めて、いまは20を超える機能が1つのIDでつながっています。勤怠、シフト、有給、経費、走行距離、送迎、研修、研修動画、処遇改善記録、承認フロー、組織図、事業計画、お知らせ、AIチャットボット。外注していれば数百万円規模になっていたと思いますが、内製の実費は月に数千円と、あとは自分の時間だけです。
出ている数字も、そのまま話します。シフト作成時間は約80%減、記録や書類などの事務時間は約30%減。管理者の負担が目に見えて軽くなりました。
ただ、正直に言っておきたいことがあります。導入後の離職は今のところゼロですが、まだ期間が短く、これをポータルの効果だと断定するつもりはありません。外部システムの費用も、実は特に減っていません。魔法のような話ではなく、いまは「時短」を着実に積み上げている段階です。そこは、そのまま申し上げます。
自慢できる数字だけを並べた発表は、聞いていて役に立たないと私は思っています。うまくいっていないところを言えるかどうかで、その1時間の価値は決まるはずです。
安全に使うということ
生成AIの活用については、便利さの裏にあるリスクの話も必ずします。
ポータルには、ケア対象者の要配慮個人情報(氏名・病名・ケア内容など)を載せない設計にしています。最大のリスクを源流で断つという判断です。扱うのは勤怠・シフト・研修・処遇改善といった労務情報で、こちらはID・権限管理と操作ログで守る。それでも残るリスクには、サイバー保険で備えています。
職員に対しても「生成AIは禁止」ではなく、安全な経路を設計して渡すという考え方でやっています。権限を丸投げしない、学習設定を確認してオフにする、非公式ツールに繋がない、出所不明のファイルを読ませない、完全放置しない、AIに依存しすぎない。この6つを鉄則として共有しています。
このあたりは、これから生成AIを職場に入れようとしている方に、いちばん持ち帰っていただきたい部分です。
採用と定着は、別々の話ではない
伝えたいことを一つにまとめると、こうなります。
スポットワークで地域の潜在労働力に出会い(採用)、ポータルで学びを内製し(育成)、事務を減らして現場に時間を返す(定着)。この3つは別々の施策ではなく、ひとつの基盤でつながって初めて一周する、ということです。
入口だけ広げても、受け皿がなければ人は残りません。定着の仕組みだけ整えても、入ってくる人がいなければ意味がない。当たり前のことですが、実際の経営では、この2つはたいてい別々に語られています。
中小の法人でも明日から始められる手順まで落として話すつもりです。一番痛い1業務から始めて、生成AIで小さく内製して、使われたら横展開して、採用とつなげて一周させる。順番はそれだけです。
9月17日、アクセスサッポロで
準備を進めながら、正直なところ、うまく話せるだろうかという不安もあります。1時間で2部構成というのは、思っていたよりずっと欲張りな設計でした。
それでも、この1年でやってきたことを、同じように悩んでいる方に渡せる形にする機会をいただけたのは、ありがたいことだと思っています。地域で試したことが、他のまちで少しでも役に立つなら、それがいちばんうれしい。
北海道内の介護事業者の方、人材確保に頭を抱えている経営層の方、生成AIをどう職場に入れようか迷っている方。よろしければ、9月17日の10時、アクセスサッポロでお会いできればと思います。
▶ CareTEX札幌’26 専門セミナー一覧・お申込み(受講無料)
当日は会場にもおりますので、セミナーの後でも構いません。声をかけていただければ、うれしいです。
木下浩志(NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長/株式会社MCL 取締役/北海道介護福祉学校 非常勤講師/キャリアコンサルタント)
出典:3者連携協定プレスリリース(2025年10月20日/千歳市・NPO法人ちとせの介護医療連携の会・株式会社タイミー)/公益財団法人介護労働安定センター「令和7年度 介護労働実態調査」/株式会社MCLの実測・概算(2026年)


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