介護テクノロジーは「入れた」で終わっていないか ― 事業所の3割が導入、気づいている職員は2割弱

介護テクノロジーは「入れた」で終わっていないか ― 事業所の3割が導入、気づいている職員は2割弱

8月25日、火曜日です。先月29日に、公益財団法人介護労働安定センターから令和7年度の「介護労働実態調査」の結果が公表されました。事業所調査で8,899事業所、労働者調査で20,675人。この分野では最も規模の大きい調査のひとつで、毎年この時期になると、私は事業所側と労働者側の報告書を並べて読むのを楽しみにしています。

今年も一通り目を通しました。離職率は12.4%で横ばい、採用率は14.6%で2年ぶりの上昇。人手が足りないと答えた事業所は65.8%で、昨年よりむしろ増えている。このあたりは、正直に言えば予想の範囲でした。

手が止まったのは、介護テクノロジーの項目です。同じことを聞いているはずなのに、事業所の答えと職員の答えが、はっきりずれていました。

32.5%と18.7%

事業所調査では、採用や定着のための方策として「介護テクノロジーの導入、業務改善等により業務負担の軽減」を行っていると答えた事業所が32.5%でした。3社に1社です。

一方の労働者調査。勤務先で行われている取り組みとして同じ項目を挙げた人は、18.7%でした。5人に1人に届きません。

事業所調査と労働者調査は別々のサンプルなので、同じ事業所どうしを突き合わせた数字ではありません。そこは割り引いて読む必要があります。それでも、14ポイント近い開きです。経営側が「うちはやっている」と思っていることの半分くらいしか、現場には届いていない。

これは、機器を入れたかどうかの話ではないと思います。入れたことが業務の軽さとして体感されていないか、あるいは、そもそもそれが「自分たちのために導入されたもの」だと認識されていないか。どちらかです。

読みながら、思い当たることがありました。うちでも社内ポータルを自前で作って、勤怠もシフトも研修もそこに集約しています。作った側としては「便利になったはずだ」と思っている。けれど、現場に浸透するまでには思っていたよりずっと時間がかかりましたし、いま職員に「業務負担が軽くなる取り組みをしていますか」と聞いて、何割があのポータルを思い浮かべるかというと、自信はありません。

導入した側は、導入した日を覚えています。使う側は、それが当たり前になった日しか覚えていません。この非対称は、たぶんどこの法人にもあります。

入っているのは「記録」で、まだ「身体」ではない

では実際に何が入っているのか。日常的に利用している機器の割合を見ると、はっきりした傾向がありました。

いちばん多いのは、パソコンの介護ソフトで利用者情報(ケア記録・ケアプラン等)を入力・保存・転記する機能で72.2%。事業所内のWi-Fi設備が53.9%、タブレットやスマホで記録を入力する機能が53.7%。訪問系ではタブレット入力が60.4%と特に高くなっています。

一方、身体を助ける側の機器はというと、移乗を支援する介護テクノロジー(マッスルスーツなど)が全体でわずか1.9%。入浴を支援する機器は全体で6.7%、比較的高い施設系(入所型)でも19.7%です。

つまり、この10年で介護現場に入ってきたのは、圧倒的に「記録と情報共有のデジタル化」であって、「身体の負担を機械が肩代わりする」ところにはまだほとんど届いていない。

そして労働者調査で、悩み・不安・不満の第4位に挙がっているのが「身体的負担が大きい」の23.9%です。1位は「人手が足りない」52.3%、2位が「仕事内容のわりに賃金が低い」38.1%、3位が「昇給がない、少ない」29.9%。

記録は軽くなったが、腰は軽くなっていない。数字を並べると、そう読めてしまいます。

効果は、たしかに出ている

誤解のないように書いておくと、入れた事業所では効果は出ています。

導入効果について「効果がある」「やや効果がある」と答えた割合は、昼間の業務負担の軽減が53.8%、夜間の業務負担の軽減が47.2%。特に施設系(入所型)では、この2つがそれぞれ76.8%、74.2%と7割を超えています。ベッドセンサーが施設系(入所型)で66.7%まで普及していることを考えれば、夜間の巡視のあり方が実際に変わってきているということでしょう。

介護の質の向上に効果があるとした割合も、全体で40.1%、施設系(入所型)では58.4%。負担軽減だけでなく、ケアの中身にも効いているという回答です。

だから「入れても意味がない」という話ではまったくありません。入れれば効く。問題は、その先です。

採用の看板にはならない。でも、辞めない理由にはなる

今回いちばん考えさせられたのは、この2つの数字の対比でした。

ひとつ目。労働者に「現在の法人に就職した理由」を聞いた設問で、「介護テクノロジー(ロボット・ICT機器等)の導入、業務改善等により業務負担の軽減を図っているため」を挙げた人は1.4%です。20項目近い選択肢のなかで、ほぼ最下位。勤続1年未満の人に限っても1.9%で、ほとんど変わりません。

ちなみに就職理由の1位は「通勤が便利だから」の51.8%、次いで「職場の人間関係がよさそうだったため」35.1%、「自分のやりたい介護ができそうだったため」34.2%。求人票にロボットの写真を載せても、人は集まらない。そういうことです。

ふたつ目。ところが、その取り組みが「行われている」と認識している職員のなかでは、42.6%が「働き続けることに役立っている」と答えています。事業所側の回答でも、テクノロジー導入が「職場定着に効果があった」は33.9%で、「採用に効果があった」の16.9%の2倍です。

入り口では選ばれない。でも、残る理由の一つにはなっている。

これは介護テクノロジーに限った話ではないのかもしれません。定着に効果があった方策の1位は「有給休暇等の各種休暇の取得や勤務日時の変更をしやすい職場づくり」で57.9%、2位が「人間関係が良好な職場づくり」で54.6%。どれも、外からは見えないけれど中にいると効いてくるものばかりです。

私はここに、この仕事の少し切ないところがあると思っています。本当に効くものほど、募集の段階では伝わらない。伝わらないから投資の理由づけがしにくい。それでも入れた事業所から、静かに人が辞めなくなっていく。

秋に、ひとつだけやるなら

補助金の関係もあって、秋は機器の導入を検討する事業所が増える時期です。うちも例外ではありません。

その前に、ひとつだけ勧めたいことがあります。すでに入れてある機器について、職員に「これ、役に立っていますか」と聞いてみることです。

新しいものを買う相談は、みんな前のめりでしてくれます。けれど、去年入れたセンサーやタブレットが今どう使われているかを確認する場は、意外なほど作られていません。私自身、新しい話のほうが面白くて、そちらばかり見ていた時期があります。

32.5%と18.7%の差は、たぶんそこで埋まります。機器を増やして埋まる差ではありません。

そしてもし「あまり役に立っていません」と返ってきたら、それは失敗ではなく、いちばん価値のある情報だと思います。次に何を入れるべきかを、現場が教えてくれたということですから。

言いにくいことを言ってもらえる関係があるかどうか。結局、テクノロジーの話も、そこに帰ってくるのだと思っています。


木下浩志(NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長/株式会社MCL 取締役/北海道介護福祉学校 非常勤講師/キャリアコンサルタント)

出典:公益財団法人介護労働安定センター「令和7年度 介護労働実態調査」(令和8年7月29日公表)事業所調査 n=8,899/労働者調査 n=20,675

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