補助金でセンサーを入れる前に、決めておきたい3つのこと ― 加算が見ているのは、機器ではありません

補助金でセンサーを入れる前に、決めておきたい3つのこと ― 加算が見ているのは、機器ではありません

8月20日、木曜日です。お盆が明けて、事務所に届く郵便やメールの量がいつもの調子に戻ってきました。

その中に、介護テクノロジーの導入支援に関する案内がいくつか混じっていました。令和8年度の導入支援事業は、要件を満たせば補助率が最大で4分の3。厚生労働省の生産性向上に関するセミナーも、明日8月21日から順次始まります。夏から秋にかけては、この手の公募と締切が重なる季節です。

補助率4分の3という数字を見ると、正直なところ、気持ちは動きます。100万円の機器が25万円で入る計算になるわけですから。ただ、その気持ちのまま申請書を書き始めると、たいてい後で困ることになる。これは自分自身の失敗から学びました。

使われなかったものを、私は作ったことがある

うちの法人では、勤怠やシフト、研修の管理を自分たちで作った社内ポータルでやっています。外から買うより自分たちで作ったほうが現場に合う、と思って始めたものです。

そのポータルに、私は一度、誰にも使われない機能を載せたことがあります。あれば便利だろうと考えて作った。けれど、現場の誰も開かなかった。理由は単純で、それがなくても仕事が回っていたからです。困っていないところに道具を置いても、人は使いません。

このときの気まずさを、私はよく覚えています。良かれと思って作ったものが、現場からすれば「また覚えることが増えた」でしかなかった。導入する側と使う側で、見えている景色がここまで違うのかと思いました。

補助金で機器を入れるときも、まったく同じことが起きます。しかも補助金の場合は、お金が動いている分だけ引き返しにくい。

加算の要件を読むと、国の意図が見えてくる

このあたりを考えるうえで、生産性向上推進体制加算の要件が参考になります。

加算(Ⅱ)は月10単位。要件は3つで、委員会を開いて改善活動を継続していること、見守り機器などのテクノロジーを1つ以上導入していること、そして1年以内ごとに1回、取組の効果を示すデータをオンラインで提出することです。加算(Ⅰ)になると月100単位に上がりますが、そのぶん、提出したデータで実際に成果が確認されていることが求められます。

対象になるサービスは限られていて、うちの事業でも当てはまるものと当てはまらないものがあります。ですから、すべての事業所に関係する話ではありません。それでも、この要件の組み立て方には目を留めておく価値があると思っています。

要件を並べてみると分かるのは、機器そのものは3つのうちの1つでしかない、ということです。残りの2つは「委員会で話し合い続けること」と「効果を数字で出すこと」。委員会は3か月に1回以上開くことになっていますから、入れて終わりにはできない設計になっています。

つまり国が見ているのは、何を買ったかではなく、買った後に何を続けたかのほうです。ここを取り違えると、機器は入ったけれど加算は取れない、という一番もったいない結果になります。

申請書より先に、決めておきたい3つのこと

そこで、公募の締切から逆算する前に、これだけは決めてから動くようにしています。

1つ目は、誰の、何分を減らすのかです。「業務効率化のため」では足りません。夜勤者の巡回記録なのか、相談員の書類作成なのか、送迎の組み直しなのか。名前と時間帯まで具体的に言えるかどうかで、その後がまるで変わります。減らす対象がぼんやりしていると、効果を示すデータも当然ぼんやりします。

2つ目は、浮いた時間をどこに戻すのかです。これは以前にも書いたことですが、私はここが一番大事だと思っています。空いた15分をそのまま次の業務で埋めてしまえば、職員には何も残りません。利用者と話す時間にするのか、記録の質を上げるのか、それとも純粋に早く帰ってもらうのか。先に決めておかないと、いつのまにか消えます。

3つ目は、誰がデータを取るのかです。年に1回のデータ提出は、担当を決めずにいると、決算期や監査と重なって誰かの深夜作業になります。しかも取り始めるのは導入の前です。導入前の数字がなければ、比べようがありませんから。

この3つが決まっていれば、申請書は自然に書けます。逆に、決まらないまま補助率の高さだけで動くと、書類は通っても現場が動きません。

職員が身構えるのは、当たり前のことだと思う

もう一つ、書いておきたいことがあります。

新しい機器やAIを入れると言ったとき、現場の職員が最初に見せる反応は、たいてい歓迎ではありません。表情が少し固くなる。「また何か始まるんですね」と言われることもあります。

以前の私は、これを後ろ向きな態度だと受け取っていました。今はそう思いません。彼らは過去に、鳴り止まないセンサーや、二度打ちが必要な記録システムを経験しているのです。身構えるだけの理由が、ちゃんとある。

ですから最近は、導入の説明の順番を変えました。何ができる機器かを先に話すのではなく、「あなたのこの作業を減らしたい」から入る。そのうえで、うまくいかなかったらやめる、と伝えます。やめる余地を先に示しておくと、不思議と現場は試してくれます。

締切は、9月にも10月にもまた来る

補助金の公募には締切があります。ただ、この種の支援は年度ごとに形を変えて続いていきますし、次の機会も必ずあります。

急いで入れて使われなかった機器ほど、悲しいものはありません。買った側は「せっかく入れたのに」と思い、使う側は「押しつけられた」と思う。あいだに残るのは、次の提案が通りにくくなったという事実だけです。

今日決めるべきは、どの機器を買うかではなく、誰のどの時間を、何のために取り戻したいのかということ。それさえ決まっていれば、機器はあとから選べます。


木下浩志(NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長/株式会社MCL 取締役/北海道介護福祉学校 非常勤講師/キャリアコンサルタント)

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