盆が明けると「辞めようかな」が動き出す ― その気持ちを、三つに分けてみませんか

盆が明けると「辞めようかな」が動き出す ― その気持ちを、三つに分けてみませんか

盆が明けて二日目です。シフトも通常に戻り、事業所の空気もようやく平らになってきました。

そしてこの時期は、毎年きまって、退職の相談が動き出す時期でもあります。8月の後半から九月にかけて。これは私の事業所に限った話ではなく、同業の方と話していても、だいたい同じ時期に同じことが起きています。

なぜ、お盆明けなのか

理由は、そう難しくないと思っています。

連休のあいだに、人と会うからです。実家に帰れば家族がいて、地元に戻れば同級生がいる。久しぶりに会った相手から「まだ介護続けてるの」「体、大丈夫なの」と言われる。悪気のない一言が、思っているより深いところに入ります。

もう一つは、立ち止まってしまうからです。ふだんは走っているから見えないものが、数日休むと見えてきてしまう。走っている最中は「今日をなんとかする」ことで頭がいっぱいで、三年後のことなど考えている暇がありません。休んで初めて、考える余白が生まれる。その余白に、ふだん押し込めていたものが出てくるのだと思います。

それに、帰省して親の様子を見てきた人もいます。思ったより足腰が弱っていた、片づけができなくなっていた。そうなると、通勤時間や勤務地の話が急に現実味を帯びてきます。これは本人の意欲とはまったく別の次元の話です。

つまり盆明けの「辞めようかな」は、多くの場合、盆の前から在ったものが、休みによって見えるところに浮いてきただけなのです。

「辞めたい」を、そのまま扱わない

キャリアコンサルタントとして相談を受けるとき、私が最初にすることは、「辞めたい」という言葉をいったん脇に置くことです。

というのも、この言葉は中身がずいぶん違うものを、ひとつの袋に入れてしまっているからです。私はだいたい、三つに分けて考えます。

一つめは、環境を変えたい。 特定の人との関係、シフトの組まれ方、通勤距離。これは「介護を辞めたい」ではなく「この職場が合わない」です。

二つめは、条件を変えたい。 給与、夜勤の回数、体力的にこの働き方をあと何年続けられるか。これも介護そのものへの気持ちとは別の話です。

三つめは、この仕事そのものから離れたい。 人の生活に関わることに、心が疲れてしまった。これは一つめ、二つめとは根の深さが違います。

私の実感では、三つめであることは、そう多くありません。ほとんどは一つめか二つめで、けれど本人の中で全部が混ざっているものだから、出てくる言葉が「もう辞めたい」になる。

分けてみると、打てる手が変わります。一つめなら部署異動やシフトの組み直しで解ける場合がある。二つめなら資格取得や役割の変更で道が出てくることがある。三つめなら、無理に引き止めるべきではありません。

そして、これは相談を受ける側だけの技術ではありません。ご自身で「辞めようかな」と思ったときにも、同じことができます。紙に書き出す必要はなくて、頭の中で「自分のこれは、どれだろう」と一度分けてみるだけでいい。全部が嫌になっているように思えても、案外、嫌なのはそのうちの一つだったりします。

引き止めない、けれど、聞く

経営する側の話も、正直に書いておきます。

辞めますと言われるのは、何度経験しても慣れません。悔しさもありますし、自分の力が足りなかったのだと思わされます。とくに、こちらが期待をかけていた職員ほど、こたえます。

それでも私は、条件を出して引き止めることはしないようにしています。給与を上げます、夜勤を減らしますと言って踏みとどまってもらっても、半年後にまた同じ場面が来ることを、何度か経験したからです。本人が納得していない状態を、お金で先送りにしただけになってしまう。

その代わり、必ず時間をとって聞くようにしています。一回目の面談で結論を出させないこと。そして「なぜ辞めるのか」より「これからどうしたいのか」を聞くこと。前者を聞くと、たいてい当たり障りのない答えが返ってきます。後者を聞くと、その人が本当に困っていることが出てくる。

聞いた結果、うちでは無理だと分かることもあります。そのときは送り出します。それでも、介護の世界のどこかに残ってくれるなら、私はそれでいいと思っています。この業界は、人がまるごと外へ出て行ってしまうことのほうが、はるかに痛い。

実際、一度出て、数年してから戻ってきてくれた人もいます。よそを見てきた人は、以前より視野が広くなって帰ってきます。だから、辞めるという申し出を「裏切り」のように受け取ることだけは、しないと決めています。

この一週間だけ、少し気にかけてみる

管理者やリーダーの立場の方に、一つだけお願いがあるとすれば、この一週間、周りの様子を少し気にかけてみてほしいということです。

退職の申し出は、たいてい突然に見えます。けれど後から振り返ると、その前に何かしらの兆しはあったものです。休憩室にいる時間が短くなった、雑談の輪から少し外れている、遅刻や欠勤がわずかに増えた。忙しい日々の中では、どれも見落としてしまう程度の小さな変化です。

そこで「最近どう」と一言かけたところで、悩みが解決するわけではありません。ただ、その一言があったかどうかで、いよいよ本人が誰かに相談しようと思ったときの相手が変わります。相談してもらえさえすれば、まだ打てる手はあります。何も言われないまま退職届が出てくるのが、いちばん困る。

そして、もし今このブログを「辞めようかな」と思いながら読んでいる方がいらしたら。その気持ちを、悪いものだと思わないでください。立ち止まって考えられたということは、休めた証拠でもあります。ただ、そのまま結論だけを急がずに、まずは三つに分けてみてください。答えを出すのは、そのあとで間に合います。


木下浩志(NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長/株式会社MCL 取締役/北海道介護福祉学校 非常勤講師/キャリアコンサルタント)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です