介護情報基盤を、実際に使うのは誰か ― 運用開始から四か月、現場と利用者の目線で

介護情報基盤を、実際に使うのは誰か ― 運用開始から四か月、現場と利用者の目線で

お盆の最終盤、日曜日の朝です。帰省された方々がぼちぼち戻り始める頃でしょうか。

厚生労働省の広報誌に、「みんなで支える、これからの介護へ 『介護情報基盤』がつくる未来」という記事が出ていました。この介護情報基盤については、4月の運用開始前後に、このブログでも何度か取り上げています。ただ、あのときはまだ「これから始まる制度」の解説でした。運用が始まって4か月が経ったいま、もう一度、今度は使う側の目線から書いておきたいと思います。

制度の説明ではなく、「誰が開くのか」から考える

記事に挙げられているメリットは、大きく二つです。

利用者にとっては、マイナポータルから介護保険の資格情報や、要介護認定の審査の進み具合などが確認できるようになること。書類を探し回る負担が減り、自分に合うサービスを自分で選びやすくなること。

事業所にとっては、資格や給付の状況といった情報を横断的に確認できるようになり、自治体とのやりとりが減ること。その分の時間をケアに戻せること。

制度の設計としては、まったくそのとおりだと思います。そのうえで、経営者として率直に思うのは、「では、そのマイナポータルを、実際に開くのは誰なのか」ということです。

開くのは、本人ではなく家族かもしれない

私たちが日々お会いしている利用者の多くは、80代、90代です。その方がご自身でスマートフォンからマイナポータルにログインし、認定審査の進捗を確認する。その場面を、現場を知る人間として、まだうまく思い描けません。

けれど、視野を一つ広げると、話はまるで違ってきます。一昨日の記事でも書いたとおり、この時期、離れて暮らすご家族が帰省先で親御さんの変化に気づき、盆明けに動き出します。その方々は、日常的にスマートフォンで手続きを済ませている世代です。

「母の認定申請、いま結果待ちなんですが、どうなっていますか」。これまでは事業所か市役所に電話するしかなかったこの問い合わせが、遠方の自宅から自分で確認できるようになる。介護情報基盤の利用者側のメリットは、本人よりもむしろ、離れて暮らす家族にこそ効いてくるのではないか。私はそう見ています。

そしてこれは、事業所にとっては小さくない変化です。家族が「もう知っている」状態で相談に来る。何を知っていて、何を誤解しているのか。そこから会話が始まる時代になります。

現場が受け止めることになる三つのこと

制度が動くとき、しわ寄せが最初に出るのは、たいてい現場の窓口です。経営者としては、そこを想定して手を打っておきたいところです。

一つめは、同意と説明です。 この基盤は、本人の同意のもとで情報を共有するしくみです。誰に、どこまで、何のために共有されるのか。それを説明する役目は、多くの場合、現場の相談員やケアマネジャーが担うことになります。「よく分からないけれど、担当さんが言うから」で判を押していただくようなことは、避けなければなりません。

二つめは、地域差です。 全国一斉にスイッチが入る制度ではなく、準備の整った自治体から順に動いていきます。自分の事業所が関わる市町村がいまどの段階にあるのか、これは各事業所が自分で確認しておくしかありません。「まだうちの地域は」で止まっているうちに、連携先だけが先に進んでいた、という事態は避けたいところです。

三つめは、支援制度の活用です。 記事によると、「介護情報基盤ポータル」で運用状況や助成金の情報が案内され、チャットや問い合わせフォームでのサポートも用意されています。この種の助成金は、知って動いた事業所だけが使えます。まずは一度、自分の目でポータルを見ておく。それだけでも違います。

情報が届くことと、支えられることは別

一方で、忘れずにいたいこともあります。

情報にアクセスできるようになることと、その人が支えられていると感じることは、同じではありません。マイナポータルで認定の進捗を確認できても、「この先どうなるんだろう」という不安が消えるわけではない。むしろ、数字や記号だけが先に届いて、余計に不安になる方もいらっしゃるでしょう。

だから私は、この基盤が整うほど、専門職の仕事はデータの伝達から離れていくのだと思っています。書類を探し、電話をかけ、同じ説明を何度も繰り返す。その時間が減った分を、どこに戻すのか。そこに事業所の姿勢が出ます。効率化した分だけ利用者と話す時間が増えた事業所と、効率化した分だけ人を減らした事業所とでは、三年後にまったく違う場所に立っているはずです。

現場が長く「こうなってほしい」と言い続けてきたことに、制度がようやく形で応えてくれた。この四月からの動きを、私はそう受け止めています。あとは、それを何に使うかという、私たち自身の問題です。

盆明けの一週間が、静かに始まります。

参考:厚生労働省 広報誌「みんなで支える、これからの介護へ 『介護情報基盤』がつくる未来」
https://www.mhlw.go.jp/web_magazine/series/20260501.html


木下浩志(NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長/株式会社MCL 取締役/北海道介護福祉学校 非常勤講師/キャリアコンサルタント)

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