お盆に、家族がスマホで親の異変を調べる ― AIの答えと、専門職に残る役目

お盆に、家族がスマホで親の異変を調べる ― AIの答えと、専門職に残る役目

お盆で帰省された方が、久しぶりに実家で親御さんと数日を過ごす。この季節、そういうご家庭がたくさんあります。そして、離れて暮らしていたからこそ気づいてしまうことがある。「去年より、ずいぶん物忘れが増えたな」「同じ話を、さっきもしていたな」そのような小さな違和感を、胸のどこかに引っかけたまま、盆が明けて帰っていく。

近ごろは、その違和感をまずスマホに打ち込む方が増えました。「親 物忘れ 認知症 見分け方」。検索の先で、あるいはAIに尋ねて、その場でもっともらしい答えが返ってくる。良い時代になったと思う一方で、私はこの光景に、専門職として少し立ち止まる必要があるかもしれません。

一般論は、目の前のその人を診てはいない

AIが返してくれる答えは、たいてい間違ってはいません。加齢による物忘れと認知症の違い、受診の目安、相談先。教科書的にはよくできています。私たちが運営する介護のチャットボットも、まさにそういう役に立つことを目指して作っているので、この便利さは身にしみて分かります。

けれど、どれだけ整った答えでも、それは一般論なのです。目の前のお母さんが、この一年どんな暮らしをして、何を楽しみにして、どんな薬を飲んでいるのか。AIはそれを一つも知りません。同じ「物忘れ」でも、脱水や薬の影響、あるいは環境の変化からくる一時的なものであることは、現場では決して珍しくないです。一般論と、その人の個別性のあいだには、思っているより深い谷があります。

「調べてきたこと」を、否定から入らない

だから最近、私が自分に言い聞かせているのは、家族がAIで調べてきたことを、頭から否定しないということです。

以前なら「ネットの情報を鵜呑みにしないでください」と言いたくなる場面でした。でも、その一言は、心配で夜も眠れずに調べたご家族の気持ちを、置き去りにしてしまう。調べてきたという事実は、それだけ真剣に親のことを案じている証でもあるからです。まず、「よく気づかれましたね」と受け止める。そのうえで、AIの答えに欠けている「その人の情報」を、専門職として一緒に埋めていく。この順番を、私はずいぶん遠回りをしてから、ようやく身につけました。

AIが調べてくれるからこそ、人が要る

不思議なもので、AIが一般論を上手に語れるようになったことで、かえって専門職の役目がくっきりしてきた気がします。

一般論を暗記して伝えることは、もう私たちの仕事の中心ではありません。そこはAIに任せてよい。私たちに残るのは、その人の暮らしの手ざわりを知り、家族の不安に寄り添い、次の一歩を一緒に決めることです。お盆に湧いた小さな違和感を、「気のせい」で終わらせず、といって「認知症だ」と決めつけもせず、地域包括支援センターや、かかりつけの先生へと、丁寧につないでいく。この橋渡しは、どれだけ技術が進んでも、人にしかできない仕事だと思っています。

盆明けの相談に、備えておく

例年、お盆が明けると、地域包括や事業所への相談がふっと増えます。帰省で気づいた違和感が、行動になって表れてくるからです。この時期、私たち受け手の側も、「AIで調べてこられた方が来る」という前提で構えておくと、初めの受け答えがずいぶん柔らかくなります。

技術は、家族が親を気づかう入口を、確かに広げてくれました。その先で、ちゃんと人の手に受け止めてもらえるかどうか。そこを担うのが、私たちの仕事なのだと、この夏もあらためて感じています。今日も、遠くの家族の心配を、静かに受け止めている専門職の方々に、敬意を込めて。


木下浩志(NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長/株式会社MCL 取締役/北海道介護福祉学校 非常勤講師/キャリアコンサルタント)

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