「その人が休むと止まる」を、少しだけほどく ― お盆の交代勤務と、AIという補助線

「その人が休むと止まる」を、少しだけほどく ― お盆の交代勤務と、AIという補助線

お盆が近づいてきました。介護の現場に長い休みはありませんが、それでも職員が交代で数日ずつ休みを取る、一年でいちばん人繰りに気をつかう時期です。毎年この頃になると、事業所の中で「あの人がいないと、あれが分からない」という場面が、普段より目立って表に出てきます。

先週この場で、小さな事業所ほど、たった一人の退職で灯が消えかねない、という話を書きました。お盆の交代勤務は、いわばそれを小さなスケールで毎年味わっているようなものだと思います。誰かが数日抜けるだけで回りにくくなるのなら、その仕事はまだ「その人の頭の中」にしかない、ということなのでしょう。

頭の中にしかない手順は、休めない

問題なのは、マニュアルに書いていない類いの知恵です。あの利用者さんはこの声かけだと落ち着く、この記録はこの順番で入れると漏れない、業者への発注はこの締切だけ外してはいけない。長くいる職員ほど、こうした勘どころを自然に体に入れていて、だからこそ本人は「わざわざ書くほどのことでもない」と思っている。それが、休みや退職のたびに現場をひやりとさせます。

こういう暗黙知を、忙しさの合間に一から文章に起こすのは、正直しんどい作業です。「書いておいてね」とお願いしても後回しになるのは、億劫だからで、決してその人のせいではありません。

AIは、答えではなく「たたき台」を出してくれる

そこで最近、私が現場に勧めているのが、生成AIを清書役として使うやり方です。職員が思いつくままに話した内容を箇条書きで放り込み、「新人でも分かる手順書の形に整えて」とお願いする。すると、抜けている確認項目まで含めて、それなりの下書きが返ってきます。ゼロから書くのと、返ってきた文章に手を入れるのとでは、心理的な重さがまるで違います。

大事なのは、AIに正解を出させようとしないことです。あの人の勘どころを知っているのはあくまで職員本人で、AIはそれを言葉の形に起こす手伝いをしているにすぎません。以前も書きましたが、制度や算定の最終判断をAIに委ねてはいけない。ここでも同じで、中身の責任は人が持ち、面倒な整形だけを任せる。その線引きさえ守れば、AIはずいぶん頼りになる補助線になってくれます。

完璧な引き継ぎ書より、一つの言葉から

とはいえ、お盆までに全部を型にするのは無理です。私も、そこまでは求めていません。ただ、今年の交代勤務でヒヤッとしたことを一つだけ、休みが明けたその日のうちに、AIの力も借りて一枚の紙にする。それを来年の自分に手渡すつもりで積み重ねていけば、「その人が休むと止まる」現場は、少しずつほどけていくはずです。

人にしかできないケアを守るために、人でなくてもいい作業は手放していく。お盆の慌ただしさのなかでこそ、その線引きを試す価値があると感じています。今年の夏に書き残す一枚が、いつか誰かの穴を静かに埋めてくれる。そう思うと、少し気の重い引き継ぎ作業も、悪くないものに思えてきます。


木下浩志(NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長/株式会社MCL 取締役/北海道介護福祉学校 非常勤講師/キャリアコンサルタント)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です