訪問介護の事業所数が、過去最多を更新したという記事を読みました。2026年4月審査分で全国3万5506ヵ所。前年から9ヵ所増えて、増加は7年連続だそうです。数字だけを見れば、明るいニュースのように見えます。
けれど、読み進めるほどに、素直に喜べない気持ちになりました。「増えている」のは全体の話であって、その内側では、都市部の中堅・大手が事業所を広げる一方で、小さな事業所が静かに店を閉じている。昨年の訪問介護の倒産件数は過去最多だったといいます。9ヵ所の純増という数字は、たくさんの開設とたくさんの撤退を差し引いた、ほんのわずかな残りにすぎないのだと思うと、この「過去最多」はずいぶん重い最多だな、と感じました。
「数」では見えない、地域の手ざわり
私は普段、地域連携の会の立場で、いろいろな事業所の方と顔を合わせます。そこで肌で感じるのは、統計の全国合計と、目の前の千歳やその周辺の景色は、必ずしも同じ方を向いていないということです。
大手が有料老人ホームなどに併設で訪問介護を広げていく流れは、都市部では確かに合理的なのでしょう。けれど、家々が離れて建つ地域で、一軒一軒を車で回ってきたのは、たいてい昔からある小さな事業所です。その一つが看板を下ろすと、地図の上では「まだ近くに別の事業所がある」ように見えても、実際にはヘルパーさんが足りず、新規は受けられない、ということが起きる。数の上では埋まっているのに、手が届かない。この「見えない空白」こそ、私がいちばん怖いと思っているものです。
ヘルパーの高齢化という、静かな時限
記事がもう一つ突いていたのが、既存のヘルパーさんの高齢化です。現場を支えてきた方々が60代、70代に差しかかり、その方が辞めたときに引き継ぐ人がいない。小規模事業所ほど、たった一人の退職が事業の存続を左右してしまいます。
これは、明日いきなり倒れる話ではありません。だからこそ、静かに進んでいて、気づいたときには手遅れになりやすい。争奪戦だ、時給だ、と言っている間にも、地域を支える世代そのものが細っていく。人手不足という言葉で片づけてしまうと見落としがちですが、私にはこれが、地域の一番弱いところに置かれた時限装置のように思えてなりません。
連携する側に、何ができるのか
では、直接は訪問介護を担っていない私たちのような立場に何ができるのか。正直、特効薬は持っていません。それでも、いくつかは手をつけられると思っています。
一つは、「近くに事業所がある=サービスが届く」という思い込みを、連携の現場から外していくこと。ケアマネジャーや相談員が実感として持っている「今どこが受けられて、どこが手一杯か」を、地域で率直に共有できる場をつくること。もう一つは、小さな事業所を孤立させないこと。教育や採用、事務の負担を、会や法人の枠を超えて少しでも分かち合えないか。それができれば、たった一人の退職で灯が消える、という事態を、いくらかは和らげられるはずです。
過去最多という見出しの裏で、地域はゆっくり薄くなっている。その薄さは、いざ自分や家族が介護を必要としたときに、初めて痛みとして立ち上がってきます。まだ数字が「最多」と言えているうちに、地域として手を打てることを一つずつ。連携という仕事を選んだ者として、そこから目をそらさずにいたいと思います。
木下浩志(NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長/株式会社MCL 取締役/北海道介護福祉学校 非常勤講師/キャリアコンサルタント)


コメントを残す