1,131円を、自分の帳簿に置いてみる ― 最低賃金56円増の重さ

1,131円を、自分の帳簿に置いてみる ― 最低賃金56円増の重さ

北海道の最低賃金が、初めて1,100円台に乗るという記事を読みました。現行の1,075円から56円上がって、1,131円。10月1日からの発効という見通しです。昨年は65円上がっていますから、伸び幅そのものは少し落ち着いた形ですが、それでも1,100円を超えたという事実には、正直、ため息のような気持ちも湧きました。

先週この場で、「答申を経営の他人事にしない」「8月のうちに人件費への影響を試算しておく」と書きました。今週、実際にその試算に手をつけました。数字が具体的に見えてくると、思っていた以上に胸に迫るものがありました。

56円という数字を、年額に置き換えると

最低賃金に合わせてスタッフのベースを見直すと、うちの場合、人件費は年間でおよそ170万円上がる計算になりました。社会保険料の会社負担まで含めれば、その数字はさらにふくらみます。

一人ひとりの時給で見れば、数十円の話です。けれども、それを人数と月数で掛け合わせ、社会保険や賞与への波及まで足していくと、年額はあっという間に大きくなる。「たかが56円」ではないのだと、電卓を叩きながら改めて感じました。

もうひとつ、見落とせないのが賃金の「重なり」です。最低賃金が下からぐいと押し上げてくると、先に入った職員と新人の差が縮んでしまう。最低賃金を下回る人がいないかだけでなく、頑張ってきた人の1円がきちんと報われているか。そこまで並べ直して初めて、試算は意味を持つのだと思いました。

それでも、上げるという選択

こういう数字を前にすると、経営者としては当然、身構えます。介護は自分の判断で値上げのできない、公定価格の世界です。人件費だけが上がっていく構造は、率直に言って苦しい。

それでも、私は賃金を上げること自体を後ろ向きには考えていません。介護は、人がすべての仕事です。設備でも在庫でもなく、そこにいてくれる職員の手と目が、そのままサービスの質になる。その人たちの暮らしが物価に追いつかないのなら、経営が踏ん張って支えるのが筋だと思っています。170万円は重い。けれど、その重さは、うちで働いてくれている人たちの生活の重さでもあるのだと、自分に言い聞かせています。

苦しさを、意味のある1円に変える

同じ170万円を出すのなら、ただ最低賃金に追いつくためだけの底上げで終わらせたくない。せっかく賃金表に手を入れるのですから、長く頑張ってくれている人、責任を担ってくれている人に、きちんと差が伝わる形にしたいと考えています。苦しい出費を、ただの防戦ではなく、職員へのまっすぐなメッセージに変えられるかどうか。そこが経営者の腕の見せどころなのだろうと思います。

10月はすぐに来ます。試算を出して終わりにせず、なぜこう変えたのかを職員に伝える言葉まで用意して、9月の昇給に間に合わせる。地味で、少し気の重い作業ですが、これをやり切ることが、この仕事を選んだ者の責任だと感じています。


木下浩志(NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長/株式会社MCL 取締役/北海道介護福祉学校 非常勤講師/キャリアコンサルタント)

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