八月最初の月曜日です。夏の盛りに少し重たい話で恐縮ですが、来年度の制度改正で、業界の景色を変えかねない見直しが動いています。住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の、ケアマネジメントの有料化と「囲い込み」対策です。今日はこの話を、経営者の一人として書いておきたいと思います。
これまで「無料」だったものに、負担が入る
少しややこしいのですが、同じ高齢者向けの住まいでも、介護付き有料老人ホーム(特定施設)と、住宅型有料老人ホーム・サ高住とでは、制度上の扱いが違います。介護付きは、ケアプランの作成費がサービス費に含まれ、入居者はすでにその一部を負担してきました。一方の住宅型やサ高住は、法律上「居宅」と同じ扱いで、ケアマネジメントは無料だったのです。
来年度の改正では、この住宅型・サ高住の入居者に対して「登録施設介護支援」という新しい類型を設け、原則一割の利用者負担を求める方向で議論が進んでいます。施行は再来年度、二〇二七年度が軸とされています。「同じようなサービスなのに、負担に差があるのはおかしい」という、公平性の理屈です。理屈としては、私も分かります。
なお、自宅で訪問や通所を使っている一般の在宅利用者については、ケアプランは引き続き無料のままとされています。有料化の対象は、あくまで施設的な住まいに限られる、という整理です。
本丸は「囲い込み」への視線
ただ、この見直しの奥にあるのは、単なる負担の公平さの話だけではありません。かねて指摘されてきた「囲い込み」への、厳しい視線があります。
囲い込みとは、住まいと介護サービスを一体で提供する事業者が、入居者に自社のサービスを、区分支給限度額のぎりぎりまで組み込んでしまう構造のことです。「本当にその量のサービスが要るのか」と首をかしげたくなるケースがあるのも、正直なところ、現場を見ていれば感じます。財務省などからは、外付けのサービスにも特定施設なみの報酬上限をかけては、という、かなり踏み込んだ案まで出ています。
ただ、経営の実態を抜きに語れない
とはいえ、この構造を「けしからん」とだけ切り捨てるのは、私にはためらいがあります。住宅型やサ高住の経営の実態を見ていると、介護報酬を効率よく取らなければ、そもそも事業として立ちゆかない、という厳しさがあるからです。
家賃や食費だけでは、手厚い人員体制は到底まかなえません。だからこそ併設の訪問介護や通所を組み合わせ、報酬を積み上げて、ようやく職員の給料を払い、二十四時間の安心を用意している。もちろん行き過ぎは正されるべきですが、その多くは、悪意ではなく経営として生き残るための必死の工夫でもあるのです。ここを取り違えて一律に締め付ければ、真面目な事業者から先に倒れかねません。
セーフティネットを、誰が担っているのか
さらに気がかりなのは、もっと構造的な問題です。本来、行き場のない重度の高齢者を受けとめるのは、特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)の役割のはずでした。ところが、その特養が、人材不足を理由にベッドを空けたまま、入居を絞らざるを得ない。そんな社会福祉法人を、私は地域でいくつも見てきました。
その空いた受け皿を、実は住宅型有料老人ホームやサ高住が埋めている。行き場のない方、身寄りのない方を、断らずに受け入れている住まいが、確かにあるのです。公の施設が担いきれなくなったセーフティネットの役割を、民間の住宅型やサ高住が、報酬を工夫しながら肩代わりしている——そういう現実が、私たちの地域にも散見されます。
そう考えると、囲い込みという言葉の裏側には、「そうまでしないと支えきれない」という、この国の介護の台所事情が透けて見えます。批判すべき囲い込みと、セーフティネットとしての踏ん張りを、ひとくくりにしてはいけないと、強く思うのです。
大事なのは、中立性という一点
立場によって、見える景色はまるで違います。それでも、地域の連携に関わる者として、最後に守りたい一線は、やはりケアマネジメントの中立性だと思っています。
誰のために、そのプランがあるのか。事業者が生き残るための工夫は工夫として認めたうえで、その一枚のケアプランだけは、その方の暮らしのために組まれているか。ここさえ揺らがなければ、報酬を効率よく得ることと、利用者を大切にすることは、決して矛盾しないはずです。
制度設計にも、現場からの問いを
負担が入り、報酬に上限がかかる。事業者には厳しい流れです。「うちのケアプランは、胸を張って中立だと言えるか」。この自問は、制度に迫られる前に、私たち自身がしておくべきものでしょう。
同時に、制度をつくる側にも問いたいことがあります。囲い込みを締めるのなら、その前に、公の施設がなぜセーフティネットを担いきれなくなっているのか。空床の特養と、それを埋める民間の住まい。この歪みにこそ、手を入れてほしい。現場からのその声を、来年度の議論が続くこの夏のうちに、あらためて上げていきたいと思います。
木下浩志(NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長/株式会社MCL 取締役/北海道介護福祉学校 非常勤講師/キャリアコンサルタント)


コメントを残す