「不適切」の芽を、割れ窓のうちに ― 接遇と虐待防止を一緒に考える研修の日に

「不適切」の芽を、割れ窓のうちに ― 接遇と虐待防止を一緒に考える研修の日に

今日は夜に、事業所で接遇向上と虐待防止をテーマにしたスタッフ研修を行います。その資料を準備しながら、あらためて考えたことを書いておきたいと思います。

「接遇」と「虐待防止」は、別々の研修として扱われることが多いように思います。片方は言葉づかいやお辞儀の話、もう片方は重い問題の話、と。けれど私は、この二つは地続きだと考えています。今日の研修を、あえて一緒のテーマにしたのも、そのためです。

接遇の乱れと、不適切対応は地続き

有名な「割れ窓理論」という考え方があります。建物の窓が一枚割れたまま放置されると、「ここは誰も気にしていない」という空気が広がり、やがて他の窓も割られ、街全体が荒れていく。逆に、小さな乱れをこまめに直せば、大きな荒廃は防げるという理論です。

ディズニーランドが、閉園後だけでなく開園中もこまめに清掃や修繕を続けているのは、この考え方が根っこにあると言われます。一九九〇年代のニューヨーク市が、落書きや無賃乗車といった軽微な乱れを徹底して正すことで、街の治安を大きく改善させた話も有名です。

介護の現場に置き換えると、割れた窓とは何か。ぞんざいな呼びかけ、面倒そうなため息、忙しいときの少し強い口調。一つひとつは「虐待」とは呼ばれない、小さな接遇の乱れです。けれど、それが「まあ、これくらいはいい」と職場で見過ごされ続けると、いつのまにか許される範囲が広がっていく。不適切なケアの芽は、たいていこの地続きのところから伸びてくるのだと思います。だから接遇を整えることは、そのまま虐待を防ぐ第一歩になります。

研修を「犯人探し」にしない

こういうテーマの研修で、私がいちばん気をつけているのは、それを「誰が悪かったのか」を探す場にしないことです。個人を吊るし上げても、現場は萎縮するだけで、何も良くなりません。

今日は、まず一人ひとりに静かに振り返ってもらうところから始めます。自分は普段どんな気持ちで利用者さんと向き合っているか。どんなときに余裕をなくすか。そのうえで、職場環境・従業員同士の関係・仕組みの三つの視点から、どこに課題があるかをみんなで出し合います。個人の資質の問題として片づけず、環境と仕組みの問題として捉え直す。これが今日の研修のいちばんの狙いです。

経営者としての自戒

正直に言えば、不適切な対応が起きるとき、その背景には必ずと言っていいほど、人手の余裕のなさや、相談しづらい空気があります。それを用意してしまっているのは、ほかならぬ経営者や管理者です。現場の一人を責める前に、そういう環境を放っておかなかったか、自分に問わなければいけないと思っています。

割れ窓を直すのは、現場のスタッフだけの仕事ではありません。窓が割れやすい建て付けにしていないか、割れてもすぐ気づける明るさが職場にあるか。それを整えるのが経営の役目です。

今日の夜に

研修は、やって終わりでは意味がありません。今日出てきた課題や取り組みのアイデアを、来月からの仕組みに一つでも落とし込む。そこまでやって、はじめて研修をやった意味があると思っています。

暑いなか、夜遅くまで集まってくれるスタッフに、まずは感謝を伝えるところから始めます。良い時間にしたいと思います。


木下浩志(NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長/株式会社MCL 取締役/北海道介護福祉学校 非常勤講師/キャリアコンサルタント)

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