昨日の夕方、仕事の手を止めて、しばらくニュースから目が離せませんでした。7月28日の午後4時27分、熊本県で最大震度7の地震があったと伝えられました。マグニチュードは7.1、宇城市と氷川町で震度7。有明・八代海には一時、津波注意報も出されました。震度7という数字は、2024年元日の能登半島地震以来、2年半ぶりだそうです。
商業施設で起きた火災や、熊本城の石垣がまた崩れた映像、九州新幹線が止まって車内に人が取り残されたという報せ。画面の向こうで、昨日まで当たり前だった日常が、一瞬で断ち切られていく。その様子を見ながら、私はどうしても、あの夜のことを思い出していました。
私たちも、真っ暗な夜を経験した
北海道で介護に携わる者にとって、地震と停電は「よそのニュース」ではありません。2018年9月の胆振東部地震、そしてあのブラックアウト。北海道全域から、電気が消えた朝を、私は今も忘れられません。
信号も、冷蔵庫も、電話も止まる。夜になれば、事業所は本当に真っ暗になります。あのとき私が痛感したのは、日頃「もしものときは」と口では言っていても、いざ本当に電気が消えると、人はこんなにも動けなくなるのか、ということでした。利用者さんの命を預かる場所で、懐中電灯の数さえ足りていなかった。頭のどこかで「この辺は大丈夫だろう」と高をくくっていた自分に、大きな後悔があります。
だからこそ、昨日の熊本の映像を、遠い九州の出来事として考えることが、私にはどうしてもできませんでした。
BCPは、義務だから作るのではない
介護の事業所には、2024年4月から、災害や感染症に備えたBCP(業務継続計画)の策定が完全に義務づけられました。運営指導でも必ず確認される項目です。
正直に申し上げれば、「義務だから」という理由で、ひとまず形だけ整えた計画も、世の中には少なくないはずです。私自身、書類を仕上げてほっとした瞬間が、なかったとは言えません。けれど昨日、あらためて思いました。あの分厚いファイルは、監査を通すためにあるのではない。停電した真っ暗な夜に、職員が「まず何をすればいいか」を思い出すためにあるのです。
計画があっても、棚にしまったきりで誰も中身を覚えていなければ、意味がありません。安否確認は誰が誰に連絡するのか。人工呼吸器やたんの吸引が必要な方の電源を、何時間もたせられるのか。水と食料は何日分あるのか。この夏、もう一度、職員みんなで声に出して確かめておきたいと思います。
今日、机の上でできること
大きな備蓄や自家発電の導入には、お金も時間もかかります。しかしながら、今日この場で、お金をかけずにできることも、あるはずです。
連絡網が最新になっているか。非常用の懐中電灯とラジオの電池は切れていないか。利用者さんのお薬やアレルギーの情報を、停電でパソコンが使えなくても取り出せるように、紙でも持っているか。夜勤帯に一人だけになる時間、その人が孤立しないための約束事はあるか。どれも、思い立った今日のうちに手をつけられることばかりです。
経営者の仕事は、晴れた日に、雨の日の傘を用意しておくことだと私は思っています。地震はいつ、どこで起きるか分かりません。次は私たちの番かもしれない。そう思って初めて、他所の災害から学ぶことができるのだと思います。
被災された地域へ
まずは、熊本をはじめ被害に遭われた地域の一日も早い復旧を、心からお祈りしています。救助や復旧にあたっておられる方々、そして避難所や在宅で不安な夜を過ごしておられる高齢の方、その介護を担うご家族やスタッフの皆さんの心身が、どうか少しでも守られますように願っています。
同じ介護の現場を預かる者として、遠い北海道からできることは限られています。それでも、この出来事を「うちは大丈夫」で終わらせないこと。学び、備えを一つでも前に進めること。それが、いま私にできる、せめてもの応え方だと思っています。
木下浩志(NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長/株式会社MCL 取締役/北海道介護福祉学校 非常勤講師/キャリアコンサルタント)


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