夏になると、介護福祉の養成校ではオープンキャンパスの季節がやってきます。高校生や、進路を考え直している社会人の方が、校舎を見に来る。採用活動などをしていると、この時期は「介護の仕事って、実際どうなんですか」という問いを、あちこちで耳にします。
そんな話を人づてに聞くたび、私はいつも、少しだけ背筋が伸びる思いがします。この仕事を選ぼうとしている人に、私たちは何を、どう伝えるべきなのか。今日は、教える側の一人として、進路の季節にいつも考えることを書いてみたいと思います。
「やめておきなさい」と言われる仕事
正直に書きます。介護の道に進みたいと言う若者が、いちばん最初にぶつかる壁は、実習でも試験でもありません。身近な大人の、心配そうな顔です。
「給料が安いんでしょう」「体を壊すよ」「もっと楽な仕事があるのに」。親や親戚から、そう言われて迷ってしまう子は、決して少なくありません。心配する側に悪気はないのです。むしろ、大切に思うからこその言葉です。だからこそ、志した本人は、なかなか強く言い返せない。
この仕事に長く身を置いてきた者として、そういう話を聞くと、胸のあたりが少し重くなります。世間がこの仕事に向ける眼差しの厳しさを、あらためて突きつけられる気がするからです。
それでも、私は嘘をつきたくないです。
「そんなことないよ、いい仕事だよ」と、明るい面だけを並べて背中を押すのが正解かというと、私はそうは思いません。
体力がいるのは本当です。夜勤もあります。人の命や尊厳に関わる、責任の重い仕事です。給料の話も、業界全体としてまだ胸を張れる水準とは言いがたい。その現実を隠して勧誘するようなことは、教える立場としてしたくありません。入ってから「話が違う」と感じて辞めていく人を、私は何人も見送ってきました。あの思いは、もうさせたくないのです。
だから私は、授業など実際の介護の現場についてお話するときは、しんどい部分はしんどいと、正直に話すようにしています。そのうえで、それでもこの仕事にしかない手ごたえがある、と伝える。順番を、間違えたくないのです。
「ありがとう」の重さは、やった人にしか分からない
では、しんどさの先にある手ごたえとは何か。言葉にするのは難しいのですが、あえて書けば、人の人生の最後の時間に、深く関わらせてもらえる仕事だ、ということになります。
食事に苦労していた方が、また笑って口を動かせるようになる。ご家族が「ここに任せてよかった」と、目を潤ませて手を握ってくださる。看取りの場面で、静かに「ありがとう」と言われる。そういう瞬間の重みは、実際にその場に立った人にしか分かりません。パンフレットの写真では、どうしても伝えきれないことです。
私が若い人に伝えたいのは、この手ごたえは、ほかのどんな仕事でも簡単には手に入らないものだ、ということです。誰かの人生に、これほど正面から関われる仕事は、そう多くありません。
心配するご家族へ、伝えたいこと
もし、この文章を、介護の道を選ぼうとしているお子さんを持つ親御さんが読んでくださっているなら、少しだけお伝えしたいことがあります。
ご心配は、もっともです。私自身も親ですから、我が子が選ぶ道の先行きを案じる気持ちは、痛いほど分かります。けれど、この業界は、少しずつですが確かに変わろうとしています。処遇改善の仕組みも整いつつあり、働き方も昔よりずっと考えられるようになってきました。何より、資格を身につければ、全国どこへ行っても、この先ずっと必要とされ続ける仕事です。
そして、これは私の実感ですが、この仕事を通して人としての厚みを増していく若者を、私は数えきれないほど見てきました。人の弱さやつらさに寄り添う経験は、その子の一生の財産になります。どうか、頭ごなしに止めるのではなく、まずはその子の「やってみたい」という気持ちを、そのまま受け止めてあげてほしいのです。
送り出す側の責任
とはいえ、若者に「いい仕事だから来てほしい」と言う以上、私たち受け入れる側にも、果たすべき責任があります。
来てくれた人が、心と体をすり減らして辞めていくような現場では、いくら口で夢を語っても意味がありません。きちんと育て、正当に処遇し、長く働き続けられる場をつくること。それができて初めて、「介護の道においで」と、胸を張って言えるのだと思います。教える立場と、経営する立場。その両方に足を置く者として、この宿題からは逃げられないと、いつも自分に言い聞かせています。
進路の季節です。どこかで、介護の道を選ぼうか迷っている人がいるなら、その背中を、私は正直に、そして心を込めて押したいと思います。しんどさもぜんぶ引き受けたうえで、それでもこの仕事はいいものだよ、と。そう言い切れる現場を、これからもつくっていきたいのです。
木下浩志(NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長/株式会社MCL 取締役/北海道介護福祉学校 非常勤講師/キャリアコンサルタント)


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