「うちの事業所なら、どう動くか」― 熱中症対応マニュアルをAIで自分たちの言葉に整える

「うちの事業所なら、どう動くか」― 熱中症対応マニュアルをAIで自分たちの言葉に整える

はじめに ― 「マニュアルはあるけど、読まれていない」

おはようございます。木下です。

本格的な暑さが続いています。介護の現場では、この時期どこも熱中症への警戒を強めていることと思います。おそらく多くの事業所に、熱中症対応のマニュアルが一つはあるはずです。棚のファイルに綴じられていたり、共有フォルダに入っていたり。

ただ、正直なところを申し上げると ― そのマニュアル、どれだけの職員が中身を言えるでしょうか。 立派な冊子ほど、いざというときに開かれない。行政や団体が配ってくれる一般的なひな型は、内容は正しくても「うちの現場」の顔をしていないからです。フロアの構造も、送迎の動線も、誰が最初に気づくのかも、事業所ごとに全部違う。そこが自分事にならないと、マニュアルは飾りになってしまいます。

今日は、生成AIを使って、この「読まれないマニュアル」を「自分たちの言葉のマニュアル」に作り替える ― そんな身近な使い方をご紹介します。

AIは「たたき台」を一瞬で作る

熱中症対応マニュアルをゼロから書こうとすると、担当者は身構えてしまいます。何をどの順で書けばいいのか、抜けはないか。この「最初の白紙」が、いちばん重いのです。

ここが、生成AIの得意な場面です。たとえばこう頼んでみます。

「通所介護事業所向けに、熱中症の予防・早期発見・緊急時対応をまとめたマニュアルのたたき台を作ってください。予防、気づきのサイン、応急対応、受診・救急の判断、記録・報告、の順で、現場の職員が読める平易な言葉でお願いします。」

すると、抜け漏れの少ない骨組みが、ものの数十秒で返ってきます。これを白紙から人が書けば、半日仕事です。AIがやってくれるのは、この「土台づくり」の部分。担当者は、真っ白なページと向き合う一番つらい時間を、まるごと省けます。

大事なのは、そのあと ― 「うちの現場」を上書きする

ただし ― ここからが本題です。AIが出したたたき台は、あくまで「どこの事業所にも当てはまる一般論」でしかありません。そのまま印刷して配れば、また「読まれないマニュアル」の仲間入りです。

だから、たたき台を土台にして、現場の全員で上書きしていきます。

こうして地名や部屋名や職員の役割が入った瞬間に、マニュアルは急に「自分たちのもの」に変わります。AIがつくった無機質な骨組みに、現場が血を通わせていく。この分担 ― たたき台はAI、魂は人 ― が、いちばん健全な使い方だと、私は考えています。

「もし、こうなったら」をAIに問い続ける

もう一つ、AIならではの使い方があります。それは、想定訓練の相手役です。

「利用者がぐったりして呼びかけに反応が鈍い。次にどう動く?」とAIに問えば、確認すべき点や判断の順序を返してくれます。そこで「では意識がはっきりしない場合は?」「送迎中に起きたら?」と、場面を変えて問いを重ねていく。これは、朝礼の数分でもできる小さな机上訓練になります。

もちろん、AIの答えを鵜呑みにしてはいけません。医療的な判断の最終責任は、あくまで人と、かかりつけや協力医療機関にあります。AIはあくまで「考える材料を素早く出してくれる相棒」であって、判断を代わってくれる存在ではない。この一線だけは、絶対に譲ってはいけません。

おわりに ― 命に関わる備えほど、自分たちの言葉で

熱中症は、備えていれば防げる、あるいは軽く済ませられることが多い災害です。だからこそ、マニュアルが「あるだけ」で終わってしまうのは、あまりにもったいない。

生成AIは、その備えを「自分たちの言葉」に翻訳する時間を、大幅に短くしてくれます。浮いた時間を、現場の話し合いや訓練にあてる。技術で楽をした分を、人と人とが顔を合わせて考える時間に還元する ― 私はそれこそが、介護の現場におけるAI活用のいちばん良い形だと信じています。

日曜の今日、もし少し手が空いたら、お使いのマニュアルを一度開いてみてください。「うちの現場の顔をしているか」。その問いを持つだけで、この夏の備えは一段深くなります。

厳しい暑さが続きます。どうか、職員の皆さんご自身の水分補給も、お忘れなく。

今日も、良い一日をお過ごしください。

木下 浩志
NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長
株式会社MCL 取締役
北海道介護福祉学校 非常勤講師
国家資格キャリアコンサルタント

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