はじめに ― 「やってない」「今はいっぱいです」という電話
おはようございます。木下です。
先日、こんな報道を目にしました。京都のある55歳の女性が、要介護2と認定されたお母様のために、ケアマネジャーを探し始めた。ところが、市役所でもらった一覧表の事業所に片っ端から電話をしても、返ってくるのは「やってない」「今はいっぱいです」という言葉ばかり。結局、担当のケアマネが見つかるまでに3か月かかったそうです。そして、その3か月のあいだにお母様の身体機能は落ち、「歩けなくなった」と。
記事の中で、あるケアマネジャーは「利用者は48人に上ります」と語り、こう続けていました。「募集すればいいじゃない、といっても、人が来ないですから今」。
読みながら、正直、胸が重くなりました。これは遠い都会の話ではありません。北海道でも、多くの地域がすでに同じ現実に直面しています。千歳の私たちも、決して例外ではありません。今日は、この「ケアマネ不足」という問題を、報道の外側から ― つまり事業を預かる側の視点から ― 少し掘り下げてみたいと思います。そして、そこに一つの具体的な手立てとして、この4月から千歳市が始めた制度を重ねてお伝えします。
ケアプランがなければ、介護は始まらない
まず、なぜケアマネジャー(介護支援専門員)が見つからないと、これほど困るのか。
ケアマネジャーは、どんなサービスを組み合わせれば自宅で暮らし続けられるかを本人・家族と一緒に考え、手配する専門職です。そして、その要となるケアプラン(居宅サービス計画)がなければ、原則として介護保険サービスは使えません。
つまりケアマネ不足は、単に「担当者が一人足りない」という話ではないのです。デイサービスも、訪問介護も、福祉用具のレンタルも、その入り口でせき止められてしまう。冒頭の「3か月」のあいだにお母様が歩けなくなったのは、まさにこの入り口が渋滞していたからにほかなりません。介護保険という仕組み全体の入り口に、いま人が足りていない。事態はそこまで来ています。
なぜ、ケアマネは増えないのか
では、なぜこれほど人が集まらないのか。現場で感じていることを、私なりに三つ整理してみます。
一つ目は、資格を取るまでの壁が高くなったこと。
2018年度から、介護支援専門員の受験資格が「一定の国家資格を持ち、実務経験を積んだ人」などに絞り込まれました。これ自体は質の担保という意味で理解できるのですが、結果として受験者数は2017年の約13万人から、翌2018年には約5万人へと激減しました。入り口が狭まったぶん、新しく資格を得る人の数そのものが、長く低い水準にとどまっています。
二つ目は、更新の負担が重いこと。
ケアマネの資格は5年ごとの更新制で、そのたびに相応の時間と費用をかけて研修を受けなければなりません。せっかく資格を取っても、この更新の負担を前に現場を離れてしまう方が少なくない。「使い続けるコスト」が、静かに人を減らしているのです。
三つ目は、責任の重さと処遇が見合いにくいこと。
48人もの利用者を一人で抱え、医療機関や家族との調整に神経をすり減らす。それだけの責任を負いながら、待遇が必ずしもそれに追いついていない。加えて、居宅介護支援事業所の管理者には主任介護支援専門員であることが求められるようになり、キャリアを一段上げるためにも、また研修が要る。
こうして、入る人は減り、続ける負担は増える。需要は高齢化とともに膨らんでいるのに、担い手だけがやせ細っていく。この構造こそが、「募集しても人が来ない」の正体だと私は見ています。
個人の努力に押しつけない ― 千歳市が始めた助成
ここまで読むと、暗い話に聞こえるかもしれません。けれど、私が今日いちばんお伝えしたいのは、その先にある具体的な一手です。
この令和8年(2026年)4月1日から、千歳市が「介護福祉分野資格取得助成事業補助金」を始めました。ひとことで言えば、事業者が職員の研修・資格取得の費用を負担したとき、その一部を市が補助してくれる制度です。これまで研修費用は、職員個人か、あるいは事業所が丸ごとかぶるものでした。その負担を、地域(=市)が一緒に持ってくれる。これは介護現場にとって、思った以上に大きな意味を持ちます。
対象となる研修を見ると、まさに今日の話にぴたりと重なります。
| 対象研修 | 補助率 | 上限額(受講者1人につき) |
|---|---|---|
| 介護支援専門員 実務研修 | 3分の2以内 | 50,000円 |
| 介護支援専門員 更新研修 | 3分の2以内 | 50,000円 |
| 介護支援専門員 専門研修 | 3分の2以内 | 50,000円 |
| 主任介護支援専門員 研修 | 3分の2以内 | 50,000円 |
| 主任介護支援専門員 更新研修 | 3分の2以内 | 50,000円 |
| 介護支援専門員 再研修 | 3分の2以内 | 50,000円 |
| 介護福祉士 実務者研修 | 3分の2以内 | 100,000円 |
先ほど挙げた「資格取得の壁」も「更新の負担」も、この一覧がまっすぐ支えにいっているのが分かります。実務研修で新たにケアマネを育てるとき、更新研修で今いる人に働き続けてもらうとき、主任研修で管理者を育てるとき ― そのどれもが補助の対象です。そして介護福祉士実務者研修は上限10万円と手厚く、ケアマネへの道の、さらに一歩手前から支えようという設計になっています。
使うために、押さえておきたいこと
制度は、知って、使ってはじめて力になります。要綱・概要から、実務で押さえておきたい点をまとめておきます。
- 対象は市内の事業所を持つ法人(居宅・地域密着型・施設・予防・居宅介護支援・介護予防支援など)。ケアマネ事業所はもちろん対象です。
- 補助されるのは、事業者が負担した受講料等。研修機関へ直接払った受講料や、職員に支給した支給金が対象で、会場までの交通費などは含まれません。
- 申請日から過去1年以内に修了した研修が対象。すでにこの春・夏に受けた研修も、時期によっては間に合います。
- 職員の定着が条件。研修修了後、原則3か月以上継続して市内の同一事業所に勤め、申請時点で同じ法人にいることが求められます。「育てて、残ってもらう」ことまでを含めた制度、ということです。
- 予算の範囲内での交付なので、申請状況によっては年度途中で受付が終わる場合があります。使うと決めたら、早めに動くのが賢明です。
- 申請先は千歳市保健福祉部高齢者支援課。申請書に加えて、所要額調書・修了証明書の写し・雇用証明書・領収書の写しなどを添えて提出します。
私自身、NPO法人ちとせの介護医療連携の会の代表として、また株式会社MCLの立場からも、人を育てる費用の重さは骨身にしみて分かっているつもりです。だからこそ、この「3分の2」という補助率を、単なる数字として流してほしくありません。これまで二の足を踏んでいた研修に、もう一歩踏み出せる。制度とは、そういう背中の押し方をしてくれるものだと思います。
おわりに ― 「探す3か月」を、地域で二度と生まないために
冒頭のご家族が味わった「探す3か月」。あの3か月は、たまたま運が悪かったのではありません。担い手を増やす仕組みと、続けてもらう仕組みが、社会全体でまだ足りていない ― その帳尻を、たまたま制度の入り口に立った一人のご家族が、身をもって払わされてしまった。私はそう受け止めています。
ケアマネ不足は、大きすぎて手に負えない問題のように見えます。けれど、ほどいていけば「新しく資格を取る人を増やす」「今いる人に続けてもらう」という、ごく地道な二つの積み重ねに行き着きます。そして千歳市の今回の助成は、まさにその二つを、地域の側から後押ししようという制度です。
国の大きな流れを待つだけでなく、こうしてまちが自分たちの手で一手を打つ。その事実に、私は静かな心強さを感じています。私たち事業者も、この制度を「知らなかった」で終わらせず、育てて、残ってもらう努力に、きちんと使っていきたい。
千歳のまちで、「ケアマネが見つからない」という言葉を、いつか過去のものにできるように。まずは、目の前の一人を育てるところから始めていきます。
今日も、良い一日をお過ごしください。
木下 浩志
NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長
株式会社MCL 取締役
北海道介護福祉学校 非常勤講師
国家資格キャリアコンサルタント


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