7月に入り、夏本番が近づいてきました。この季節になると、介護の事業所には高校生の職場体験や、進路を考える方の見学の申し込みが少しずつ増えてきます。夏休みは、若い人たちが「働くこと」や「自分の進む道」に、ふと目を向ける時期でもあるのです。
私は介護福祉学校で教える立場にもありますが、養成校で学生と向き合うのは冬の時期が中心です。だからこそ、夏に現場へ足を運んでくれる高校生や見学者との出会いは、まだ何色にも染まっていない人が、初めて介護の世界の扉を叩く瞬間として、いつも新鮮に感じています。この一日の受け止め方ひとつで、その人の中に芽生えかけた興味が育つか、しぼんでしまうか――そう思うと、受け入れる私たちの責任は決して小さくありません。
「お客さま扱い」でも「戦力扱い」でもなく
職場体験や見学の受け入れで、つい両極端になりがちな二つの落とし穴があります。
ひとつは、腫れ物に触るように「お客さま扱い」してしまうこと。座って見ているだけ、当たり障りのない説明で終わってしまう半日は、来てくれた人に「介護って、外から眺めるものなんだ」という印象しか残しません。もうひとつは逆に、人手が足りないからと「即戦力」のように動かしてしまうこと。これはこれで、覚悟の定まっていない相手を疲れさせるだけです。
大切なのは、その中間にある「一緒に居る時間」だと私は思っています。ご利用者に声をかける職員のまなざし、認知症の方とのさりげないやり取り、食事の場面での小さな気配り。そうした「介護の手ざわり」を、隣で感じてもらう。説明するより、同じ空気を吸ってもらうことのほうが、ずっと多くを伝えます。
一番の教材は、働く職員の表情
見学に来た高校生が、帰り際にぽつりと「思っていたより、みんな楽しそうでした」と言ってくれたことがあります。正直に言えば、私はその一言に救われる思いがしました。介護は「大変」「きつい」というイメージで語られがちです。その先入観を静かに覆すのは、立派なパンフレットでも、うまい説明でもなく、現場で働く職員一人ひとりの、ふとした笑顔なのだと改めて感じたのです。
だからこそ、受け入れの日に一番見られているのは、実はご利用者ではなく私たち自身です。忙しさに追われてとげとげしくなっていないか、仕事に誇りを持てているか。若い人の目は、そういうものを驚くほど正確に見抜きます。職場体験の受け入れは、来てくれた人への教育であると同時に、自分たちの働き方を映す鏡でもあるのだと思います。
一度の出会いを、細い糸で結び続ける
夏に出会った高校生が、そのまますぐ介護の道に進むとは限りません。むしろ、進まないほうが多いでしょう。それでも構わないと私は考えています。「介護の現場は、案外あたたかかった」という記憶が一つ残るだけで、その人が将来どこかで介護に関わるとき、あるいは自分の家族の介護に直面したとき、心の持ちようが変わるはずだからです。
種をまいても、芽が出るのはずっと先かもしれない。それでも、まかなければ何も始まりません。人材不足だと嘆く前に、目の前に来てくれた一人と、丁寧に向き合う。未来の担い手と出会えるこの季節を、私たちの事業所でも、ただの「受け入れ対応」で終わらせずに大切にしていきたいと願っています。
木下浩志(NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長/株式会社MCL 取締役/北海道介護福祉学校 非常勤講師/キャリアコンサルタント)


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