また「介護は儲かっている」なのか ― 財政審の報酬適正化要請を、現場から問い直す

また「介護は儲かっている」なのか ― 財政審の報酬適正化要請を、現場から問い直す

先週6月26日、財政制度等審議会(財務省)が片山さつき財務相に、来年度の報酬改定に向けて介護報酬の「適正化」を要請しました(Joint介護ニュースの記事)。訪問介護9.6%、通所介護6.2%、居宅介護支援6.2%といった利益率を挙げ、「全サービス平均は4.7%で、中小企業平均の3.8%を上回っている」――そう指摘して、報酬の引き下げや差別化を求める内容です。

この見出しを目にした瞬間、正直に言えば、私は小さくため息をつきました。また、この比較か、と。

1か月半前に書いたことを、もう一度

実は私は5月の半ばに、まさにこの論法について一本の記事を書いています(「介護6.8、中小企業3.8」― そもそも比較の前提が違う)。そのとき申し上げたかったのは、ただ一点です。

「介護の利益率」と「中小企業の利益率」は、そもそも測っている場所が違う。

介護の利益率(収支差率)は、サービス事業の単位で出た営業利益に近い数字です。ここからまだ、本部の経費も、借入金の利息も、税金も引かれていません。一方、中小企業の3.8%は、法人全体でそれらを全部引いた後の経常利益率です。

階段にたとえれば、介護は2階の数字、中小企業は4階の数字。違う階に立っている人を並べて「介護の方が高いところにいる」と言っているようなものです。間に挟まる本部経費や利息という「階段」を下りた後では、多くの中小の介護法人の手元に残るものは、決して厚くありません。

なぜ、これを繰り返し言うのか

「同じことをまた書くのか」と思われるかもしれません。でも、あえて繰り返します。なぜなら、この比較を放置したまま報酬改定の議論が進めば、現場が傷つくからです。

財政審の資料は、霞が関を動かし、報道を通じて「介護はもうかっているらしい」という空気をつくります。その空気の中で報酬が削られれば、しわ寄せは必ず、いちばん弱いところ――職員の賃金と、利用者へのサービスに向かいます。せっかく6月の臨時改定で処遇改善に光が当たり始めたのに、その足元をすくわれかねない。私はそれが、悔しいのです。

今回、新たに気になったこと

今回の要請には、前回なかった論点も加わっていました。集合住宅に併設・隣接した在宅サービスを名指しで問題視している点です。ヘルパーやケアマネの移動時間が少なく利益率が高い傾向がある、という指摘ですね。

ここは、冷静に受け止めたいと思います。実際に移動の負担が小さい業態と、豪雪地帯で一軒一軒に車を走らせる私たちのような地域の事業所を、同じ「訪問介護」として一律の物差しで測られては困る。むしろ私たち地方の事業者こそ、「現場による違い」をきちんと主張すべき場面です。「介護は儲かっている」という大雑把な話を、「どの業態が、どの地域で、どういう構造になっているか」という解像度の高い議論に引き戻したい。

経営者として、できること

批判するだけでは前に進みません。前回も書いたことですが、改めて自分への宿題として記します。

ひとつは、自法人の本当の経常利益率を、自分の言葉で語れるようにしておくこと。サービス単位の収支差率ではなく、本部経費も利息も引いた後の、法人全体の数字です。それを把握していてこそ、「うちは儲かってなどいない」という主張に実体が宿ります。

もうひとつは、業界として、法人ベースの経営実態を発信していくこと。国に「定義の違いを明記してほしい」と求めると同時に、私たち自身が正確な数字で語る。声を上げなければ、2階と4階を並べた表が、来年もまた財務省の会議室に貼り出されるだけです。

数字は、誰かの暮らしと誰かの仕事の上に立っています。その重みを忘れた比較に、現場から静かに、しかし粘り強く「待った」をかけ続けたい。来年度の改定議論が本格化するこれからの季節、私はそんな気持ちで、また筆を執っています。


木下浩志(NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長/株式会社MCL 取締役/北海道介護福祉学校 非常勤講師/キャリアコンサルタント)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です