「我慢」を職員に強いない ― 介護現場のカスタマーハラスメント対策

「我慢」を職員に強いない ― 介護現場のカスタマーハラスメント対策

介護の現場で長く働いていると、利用者やご家族からの理不尽な言動に、職員が静かに傷ついている場面に、何度も出会います。怒鳴られる、人格を否定される、執拗な要求を突きつけられる、ときには身体的な暴力や性的な言動まで――。それでも多くの職員は「相手はお客様だから」「認知症だから仕方ない」と、ぐっと飲み込んできました。

けれど、もうその「我慢」を当たり前にしてはいけない。職員を守ることは、経営者の責任である――今日は、そのことを正面から書きたいと思います。

なぜ今、対策が急務なのか

昨年、埼玉県川口市で、利用者宅を訪れたケアマネジャーが命を奪われるという、痛ましい事件が起きました。この事件は、介護従事者が日々さらされている危険を、社会に突きつけました。

国も動き始めています。改正された労働施策総合推進法を踏まえ、介護分野でもカスタマーハラスメント対策を事業者の義務として位置づける方向で検討が進められています。来年度の介護報酬改定や運営基準への反映も見込まれます。「推奨」から「義務」へ。流れは、もう明確です。制度が変わるのを待つのではなく、今から備えておきたいところです。

「お客様」と「加害」は分けて考える

ここで、はっきりさせておきたいことがあります。正当な要望と、ハラスメントは、まったく別のものだということです。

ご利用者やご家族の声に丁寧に耳を傾けるのは、ケアの基本です。けれど、暴言・暴力・脅迫・過度な要求・つきまとい――こうした行為は、もう「要望」ではありません。職員の心と身体を傷つける「加害」です。厚生労働省も、相手が脅威や不快に感じればハラスメントになり得る、という考え方を示しています。この線引きを、組織として明確に持つことが、すべての出発点になります。

事業者がとるべき、具体的な備え

では、何から始めればよいのか。厚労省もマニュアルや研修の手引きを公開していますが、ポイントは大きく次のようなことです。

大切なのは、これらを「いざというときの個人の頑張り」に任せないことです。職員を守るのは、組織の仕事なのです。

当会のページを、ぜひご活用ください

実は、私が理事長を務めるNPO法人ちとせの介護医療連携の会でも、この問題に取り組んでいます。専門職向けのページに、カスタマーハラスメント対策の情報をまとめています。

▼ カスタマーハラスメント対策(ちとせの介護医療連携の会)
https://chitose-renkei.com/professionals/customer-harassment/

このページでは、カスハラの定義や具体的な事例、事業所が取り組むべき対策をわかりやすく解説しています。さらに、千歳市と共同で制作した「カスタマーハラスメント防止リーフレット」をPDFで無料ダウンロードいただけます。地域の事業所で、職員研修や利用者・ご家族への周知に、どうぞお役立てください。電話での相談先(地域包括支援センター)もご案内しています。

職員が安心して働ける現場を

職員が「守られている」と感じられる職場は、強い職場です。安心して利用者に向き合えるからこそ、よいケアが生まれます。逆に、理不尽に耐え続けることを強いられる現場からは、人は静かに去っていきます。

カスタマーハラスメント対策は、職員を守る取り組みであると同時に、ケアの質を守り、事業を守る取り組みでもあります。「我慢して当たり前」の時代を、私たちの手で終わらせたい。 梅雨の朝に、改めてそう強く思っています。

まずは一歩、当会のページをのぞいてみることから始めていただけたら嬉しいです。


木下浩志(NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長/株式会社MCL 取締役/北海道介護福祉学校 非常勤講師/キャリアコンサルタント)

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