梅雨が明ければ、いよいよ夏本番です。近年の夏は、ただ暑いだけではありません。線状降水帯による豪雨、大型化する台風、そして長時間の停電。私たちが暮らす地域も、決して「他人事」ではいられない時代になりました。
介護事業所にとって、災害は経営の問題であると同時に、ご利用者の命を預かる現場の問題です。だからこそ、まだ空が晴れている今のうちに、BCP(業務継続計画)を一度きちんと点検しておきたい。月曜のこの朝、そんなことを考えています。
「作って終わり」になっていないか
BCPは、2024年度から介護事業者に策定が義務づけられました。ですから、書類としての計画は、どの事業所にも一応はあるはずです。けれど、正直に問い直してみたいのです。その計画は、本当に”使える”ものになっているでしょうか。
棚の奥でファイルが眠っていないか。策定したのは管理者だけで、現場の職員は中身を知らないのではないか。担当者が異動して、もう誰も内容を把握していないのではないか。――義務だから作った、で止まってしまっているBCPは、いざというとき何の役にも立ちません。これは、過去の災害から私たちが何度も突きつけられてきた、重い教訓です。
夏の災害に特有の「弱点」を見直す
地震を想定したBCPは比較的整っていても、水害や停電に対する備えは手薄という事業所が、実は少なくありません。夏に向けては、この点を重点的に見直したいところです。
たとえば――事業所が浸水想定区域に入っていないか、ハザードマップで改めて確認する。停電したとき、医療的ケアが必要なご利用者の機器はどれくらいもつのか。エレベーターが止まったら、上階のご利用者をどう避難させるのか。猛暑のなかで空調が止まれば、熱中症は命に直結します。非常用電源や、近隣施設との応援協定は、現実に機能するでしょうか。
こうした問いに一つひとつ「はい、大丈夫です」と即答できないなら、そこが見直すべき弱点です。私自身、点検のたびに「ここが抜けていた」と冷や汗をかくことがあります。それでいいのだと思います。気づけたことが、何よりの収穫なのですから。
計画を「組織の記憶」にする
BCPで本当に大切なのは、分厚い計画書そのものではなく、いざというときに職員一人ひとりが動けるかどうかです。そのためには、計画を「個人の頭の中」ではなく「組織の記憶」にしておく必要があります。
おすすめしたいのは、夏前のこの時期に、短くてもよいので訓練や読み合わせの場を持つことです。「もし今、大雨警報が出たら、誰が何をする?」を、現場の言葉で確認し合う。その場で出てきた「これ、どうするんだっけ?」という素朴な疑問こそが、計画の穴を教えてくれます。
そして、こうした備えは職員の安心にもつながります。「うちの事業所は、もしものとき守ってくれる」と思える職場は、人が安心して働き続けられる職場です。BCPは、ご利用者の命を守る盾であると同時に、職員の心を支えるものでもある――私はそう考えています。
備えは、最良の「やさしさ」
災害への備えは、コストでも、面倒な義務でもありません。ご利用者とそのご家族、そして共に働く職員への、いちばん具体的な「やさしさ」のかたちだと思うのです。
何も起きないのが一番です。けれど、何かが起きたときに「ちゃんと備えていてよかった」と言えるかどうか。その分かれ目は、晴れている今日のような日に、どれだけ真剣に点検したかにかかっています。
夏が来る前に、もう一度。皆さんの事業所のBCPを、棚から出してみませんか。
木下浩志(NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長/株式会社MCL 取締役/北海道介護福祉学校 非常勤講師/キャリアコンサルタント)


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