「前職の経験は、介護で必ず生きる」 ― 異業種から来た人のキャリアを活かす

「前職の経験は、介護で必ず生きる」 ― 異業種から来た人のキャリアを活かす

採用面接をしていると、年々、異業種からの転職者にお会いする機会が増えてきました。元営業職、元飲食店の店長、元事務職、元エンジニア――経歴は実にさまざまです。そして多くの方が、申し訳なさそうに、あるいは少し不安げに、こうおっしゃいます。「介護の経験がなくて、本当にやっていけるでしょうか」と。

キャリアコンサルタントとして、そして経営者として、私はそのたびに思うのです。前職で積み重ねてきたものは、決して無駄にならない。むしろ、介護の現場でこそ生きるのだ、と。

「未経験」を引け目にしない

介護業界には、長く「経験者かどうか」を重く見る空気があります。もちろん、専門的な技術や制度の知識は学んでいただく必要があります。けれど、「介護未経験=戦力外」という見方は、あまりにもったいない。

私はこれまで多くの異業種出身者が、現場で見違えるように力を発揮する姿を見てきました。営業職だった方は、ご家族との関係づくりや信頼の積み上げが驚くほど上手い。飲食店で働いていた方は、複数のことを同時にさばく段取り力と、相手の表情を読む気配りを自然に持っている。事務職の方は、記録や書類の正確さで現場を支えてくれる。――これらは全部、介護の質を直接押し上げる力です。

強みを「翻訳」して伝える

ただ、ご本人はそのことに気づいていないことがほとんどです。「自分にできることなんて何もない」と思い込んでいる。だから私たち受け入れる側の大事な役割は、その人が前職で培った力を、介護の言葉に”翻訳”して返してあげることだと考えています。

「あなたが接客で身につけた、お客さまの一歩先を読む力は、ご利用者の小さな変化に気づく観察力そのものですよ」「あなたが現場でやってきた工程管理は、チームでケアを回す段取りに必ず生きます」――こんなふうに、本人が誇りに思っていなかった経験を、ちゃんと意味づけて言葉にする。それだけで、人の表情はぱっと明るくなります。

正直なところ、私はこの瞬間が好きでたまりません。「自分には武器がない」とうつむいていた人が、「そうか、これでよかったのか」と顔を上げる。キャリアに関わる仕事をしていて、いちばん嬉しい場面のひとつです。

「染まっていない」ことの価値

異業種から来た人のもう一つの強みは、介護の「当たり前」に染まっていないことです。

長く現場にいると、私たちは無意識のうちに、業界の慣習を疑わなくなります。「昔からこうやっている」「これが普通だ」と。そこに、外の世界を知る人が入ってくると、「これは何のためにやっているんですか?」という、ごく素朴な問いを投げかけてくれる。その問いに、ハッとさせられることが何度もありました。

異業種出身者は、ときに私たちが見失っていた視点を取り戻させてくれる、貴重な存在なのです。だからこそ、「介護のやり方を一から教え込む」だけでなく、「あなたが外から見て、おかしいと思ったことを遠慮なく言ってほしい」と伝えるようにしています。

キャリアは、足し算で続いていく

人のキャリアは、業界を変えるたびにリセットされるものではありません。これまで歩んできた道は、すべて今の自分の土台になっている。介護という仕事は、人生のあらゆる経験を受け止め、生かせる、懐の深い仕事です。

異業種から介護の世界に飛び込んでくれた方々に、私は心から伝えたいと思います。「あなたの今までは、ここで必ず花開きます」と。その言葉を本気で信じてもらえる現場をつくることが、人を生かし、人を育てる経営者としての、私の責任なのだと思っています。


木下浩志(NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長/株式会社MCL 取締役/北海道介護福祉学校 非常勤講師/キャリアコンサルタント)

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