「なぜ、この仕事を選んだのか」 ― 介護を志す人を増やすために、教育にできること

「なぜ、この仕事を選んだのか」 ― 介護を志す人を増やすために、教育にできること

介護福祉学校の非常勤講師として教壇に立つのは、毎年12月から3月にかけての冬の時期です。ですから今、6月のこの季節は、学生と顔を合わせる時間はありません。けれど、だからこそ――少し距離を置いた今だからこそ、落ち着いて考えられることがあります。それは、「これから介護を志す人を、私たちはどうやって増やしていけるのか」という問いです。

人材不足は、もう何年も語られ続けてきたテーマです。正直なところ、「またその話か」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。それでも私が、経営者としてだけでなく、養成校の教員という立場からこの問題を考えたいのは、人材不足の解決が、結局のところ「介護という仕事の入口」をどう照らすかにかかっていると、年々強く感じるようになったからです。

「数」を追う前に、問い直したいこと

人材確保というと、つい「いかに集めるか」という募集の話になりがちです。求人を増やし、待遇を改善し、間口を広げる。どれも大切な取り組みです。

けれど教育の現場に身を置いていると、もう一つ手前にある、もっと根っこの部分が気になって仕方がありません。それは、「そもそも、なぜこの仕事を選ぶのか」という”志望の理由”を、私たちがちゃんと育てられているかということです。

授業で学生と接していると、入学の動機は本当にさまざまです。「祖母の介護がきっかけで」という子もいれば、「手に職をつけたかった」という現実的な子もいる。中には「正直、なんとなく」という子だっています。どの動機が正しいということはありません。けれど、入口の理由がどうであれ、学んでいくうちに「この仕事には、自分が思っていた以上の意味がある」と気づいてもらえるかどうか――そこが、その人がこの世界に残るかどうかの、最初の分かれ道になるのだと思います。

「大変な仕事」で終わらせない

介護を語るとき、私たちはどうしても「大変さ」を先に口にしてしまいます。身体的にきつい、給料が見合わない、人手が足りない――もちろん、それは現実です。目をそらしてはいけない課題でもあります。

けれど、それだけを伝えてしまうと、若い人はこう受け取ります。「大変だけど、誰かがやらなきゃいけない仕事」。――この「誰かがやらなきゃいけない」という言い方が、私はずっと引っかかっているのです。義務感だけで選ばれる仕事に、人は長くは留まれません。

私自身、現場で多くのご利用者を見送ってきました。その中で何度も、「ああ、この仕事をやっていてよかった」と心から思える瞬間に出会ってきました。ご本人やご家族から「あなたで本当によかった」と言われたとき。認知症が進んだ方が、ふとした拍子に昔の優しい笑顔を見せてくれたとき。――こうした手応えは、「大変さ」の何倍もの重さで、確かにそこにあります。

教育にできることがあるとすれば、それは「大変だけれど、それを上回るやりがいがある」という事実を、きれいごとではなく、リアルな手触りとして伝えることなのだと思います。

教える側が、いちばんの「広告塔」

そしてもう一つ、年々痛感していることがあります。それは、介護の魅力を伝えるいちばんの存在は、結局のところ、今この仕事をしている私たち自身だということです。

立派なパンフレットよりも、よくできた採用動画よりも、現場で生き生きと働く先輩の一言が、若い人の心を動かします。逆に、現場の職員が疲れ切って「こんな仕事、人には勧められない」とこぼしていれば、その空気はそのまま次の世代に伝わってしまう。

だからこそ、人材育成は「学校に任せること」でも「採用担当の仕事」でもなく、現場で働く一人ひとりが、自分の言葉で仕事の意味を語れるかどうかにかかっている――そう考えると、これは教育の話であると同時に、私たち経営者が「職員が誇りを持って働ける現場をどうつくるか」という、ごく日常的な課題に行き着くのだと気づかされます。

冬に学生と再会するまでに

冬になり、また教壇に立つとき、私は学生たちにこう問いかけたいと思っています。「なぜ、あなたはこの道を選んだのですか」と。そして、その答えがまだぼんやりとしていてもいい。学びの中で、現場での実習の中で、その理由が少しずつ自分の言葉になっていけば、それで十分なのです。

介護を志す人を増やすこと。それは、待遇や制度の話であると同時に、この仕事の尊さを、私たち大人が本気で信じ、伝えられるかという、とても人間的な問いなのだと思います。

オフシーズンの今だからこそ、私自身も問い直しています。私は、この仕事の魅力を、自分の言葉で語れているだろうか――と。


木下浩志(NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長/株式会社MCL 取締役/北海道介護福祉学校 非常勤講師/キャリアコンサルタント)

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