「水分とってね」で終わらせない ― 熱中症を“個人の注意”から“組織の仕組み”へ

「水分とってね」で終わらせない ― 熱中症を“個人の注意”から“組織の仕組み”へ

6月も半ばを過ぎ、北海道でも日中はじっとりと汗ばむ日が増えてきました。これから本州では梅雨が明け、いよいよ夏本番を迎えます。毎年この時期になると、私は少しだけ気持ちが引き締まります。介護の現場にとって、夏は「事故が起きやすい季節」だからです。

今日は、経営に携わる一人として、熱中症対策を「個人の気をつけ」で終わらせず、組織の仕組みとして整えておくことについて書いてみたいと思います。

「水分とってね」は、対策ではない

正直に申し上げると、私はかつて、夏の朝礼で「今日も暑いので、ご利用者も職員も、水分しっかりとってくださいね」と声をかけることが、熱中症対策のつもりになっていた時期がありました。

けれど、よく考えてみれば、これは「対策」と呼べるものではありません。誰が、いつ、どのご利用者に、どのタイミングで声をかけ、どれくらい飲めたかを確認するのか。室温が何度を超えたら誰の判断でエアコンを入れるのか。それが決まっていなければ、暑さの中で判断するのは結局、現場の一人ひとりの“勘”になってしまいます。

熱中症は、高齢者にとって命に関わる事故です。事故である以上、それは個人の注意力ではなく、組織のリスクマネジメントで防ぐものだと、私は考えるようになりました。

仕組みにすると、現場の迷いが消える

ではどう仕組みにするか。難しいことをする必要はありません。経営者やリーダーが、いくつかの「基準」と「役割」をあらかじめ決めておくだけです。

こうした基準があると、新人でも、夜勤帯でも、判断に迷わなくなります。仕組みとは、現場で頑張る職員を縛るものではなく、「迷わなくていい」という安心を渡すものなのだと思います。

守るべきは、ご利用者だけではない

そしてもう一つ、経営者として忘れてはならないのが、働く職員自身の熱中症です。

入浴介助の浴室、空調の効きにくい送迎車の車内、屋外での見守り。介護の仕事には、職員が高温多湿の環境に身を置く場面がいくつもあります。人手が足りず「自分が我慢すれば回る」と無理を重ねた結果、職員が体調を崩せば、その負担はまた別の誰かにのしかかります。

ご利用者の安全と、職員の健康は、決して別々のものではありません。「休憩中はしっかり水分をとっていい」「体調が悪いと感じたら遠慮なく言っていい」――そう職員が思える空気をつくることもまた、夏前に経営側が整えておくべき大切な“仕組み”だと感じています。

暑くなる前の、ひと手間を

熱中症対策は、暑さがピークを迎えてから慌てて始めても間に合いません。温湿度計の準備も、基準づくりも、リスクの高い方の洗い出しも、まだ少し涼しい今この時期にこそ、落ち着いて手をつけられます。

毎年、夏を無事に越えられたことに、私は心からほっとします。その「無事」は、偶然ではなく、現場の一人ひとりの気づきと、それを支える小さな仕組みの積み重ねによって守られているのだと思います。

本格的な暑さが来る前に、ぜひ一度、ご自分の事業所の「夏の備え」を見直してみてください。そのひと手間が、この夏、ご利用者と職員の双方を守る確かな力になります。


木下浩志(NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長/株式会社MCL 取締役/北海道介護福祉学校 非常勤講師/キャリアコンサルタント)

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