寝不足の朝に、現場へ向かう人たちへ ― ワールドカップ初戦の朝、介護経営者が考えたいこと

寝不足の朝に、現場へ向かう人たちへ ― ワールドカップ初戦の朝、介護経営者が考えたいこと

今朝5時、日本×オランダ。ワールドカップの初戦に、目をこすりながら声を上げた方も多かったのではないでしょうか。かく言う私も、布団の中で何度もため息と歓声を漏らしていた一人です。結果はどうあれ、あの90分は確かに胸を熱くしてくれました。

そして月曜の朝、その熱を抱えたまま、あるいは少しばかりの寝不足を抱えたまま、多くの職員が今日も介護の現場へと向かっています。送迎の車を走らせ、申し送りに耳を傾け、入浴介助に汗を流す。眠い目をこすりながら、それでも利用者さんの前ではいつもの笑顔をつくる。その姿に、私は経営者として静かに頭が下がる思いがします。

「気を引き締めろ」の前に、考えたいこと

こういう朝、つい管理者の口から出そうになるのは「寝不足でも事故のないように、気を引き締めて」という一言かもしれません。もちろん、安全管理は介護現場の生命線です。睡眠不足が判断力や注意力を鈍らせることは、数多くの研究が示すとおりで、移乗・入浴・服薬・送迎といった場面では、ほんの一瞬の油断が大きな事故につながりかねません。注意喚起そのものは、決して間違っていません。

けれど、それを「叱責」や「自己責任の押しつけ」として伝えてしまうと、現場の空気はかえって硬くなります。眠いのに眠くないふりをし、無理を隠すようになる。本当に危ないのは、疲れていることそのものよりも、「疲れた」と言い出せない職場の空気のほうだと、私は経験から感じています。

安全管理は「仕組み」で、ねぎらいは「言葉」で

では経営者・管理者は、今朝のような日に何ができるのか。私は、対応を二つに分けて考えるようにしています。

ひとつは、安全を個人の気合いに頼らず、仕組みで支えること。朝礼でひと言「今日は寝不足の人もいるかもしれないから、危ない場面は遠慮なく声をかけ合おう」と共有するだけで、ダブルチェックや声かけのハードルは下がります。送迎ルートの確認、入浴介助の人員配置、ヒヤリハットの共有――いつもの基本動作を、今日は少しだけ丁寧に。仕組みで守る発想に立てば、職員を責めずに事故を防ぐことができます。

もうひとつは、疲れを抱えて来てくれたことへの、素直なねぎらい。「眠いよね、私も今朝はやられたよ」――管理者がそう笑って言える職場は、強い職場です。同じ試合に一喜一憂した者同士、上司も部下もありません。その一体感は、安全注意のどんな張り紙よりも、現場の集中力を自然に引き上げてくれるように思うのです。

一過性の話ではなく、経営の体質の話として

ワールドカップは、これから一か月あまり続きます。深夜・早朝のキックオフが重なる時期、介護現場の疲労マネジメントは、今日一日だけの話では終わりません。だからこそ私は、これを「大会期間中の特別対応」としてだけでなく、平時から積み上げておくべき経営の体質の問題として捉えたいと考えています。

夜勤明けの職員、家庭で育児や介護を抱える職員、体調のすぐれない職員――現場には、いつだって「今日は本調子ではない」誰かがいます。その誰かが安心して「今日は少し本調子じゃなくて」と言える職場をつくっておくこと。それは事故防止という守りであると同時に、人が辞めずに働き続けられる職場という、最大の攻めの経営でもあります。

今日という一日に

熱戦の余韻と寝不足を抱えながら、それでも利用者さんのために現場に立ってくれている、すべての職員へ。まずは「お疲れさま、よく来てくれたね」と伝えたい。経営者にできるのは、その人たちが安心して力を発揮できる土台を、言葉と仕組みの両方で整えておくことだけです。

次の日本戦は、また現場のみんなで語り合える朝になりますように。そして今日も、大きな事故のない、穏やかな一日でありますように。


木下浩志(NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長/株式会社MCL 取締役/北海道介護福祉学校 非常勤講師/キャリアコンサルタント)

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