ようやく届いた賃上げの原資 ― 6月施行の「処遇改善臨時改定」を、現場の納得につなげる

ようやく届いた賃上げの原資 ― 6月施行の「処遇改善臨時改定」を、現場の納得につなげる

この6月1日、介護報酬の臨時改定が施行されました。改定率は+2.03%。例年の本改定とは違い、今回は「処遇改善加算」に絞り込んだ、異例の期中改定です。報酬全体をいじるのではなく、賃上げの原資を届けることだけに目的を定めた――その割り切りに、現場の窮状の深刻さがにじんでいるように思います。

正直に申し上げると、私はこの知らせを聞いたとき、安堵と同時に「ようやくか」という思いも抱きました。人材不足はもう何年も叫ばれ続け、介護職員の賃金は全産業平均より月7万円ほど低いという構造が、長く据え置かれてきたからです。それでも、原資が届くこと自体は素直に歓迎したい。今日は、この改定を経営者としてどう受け止め、どう現場の納得につなげるかを整理してみます。

今回の改定の「肝」は、対象が広がったこと

注目したいのは、賃上げの対象が介護職員だけにとどまらない点です。ケアマネジャー(介護支援専門員)、訪問看護、訪問リハビリといった職種まで、処遇改善の対象が広がりました。 加算率は職種ごとに設定され、一人あたり平均で月額1万円ほど、条件を満たせば最大1万9千円規模の賃上げにつながる見込みです。

これは、現場感覚として大きな前進です。これまで「自分たちは対象外なのか」という、ケアマネさんや看護職の方々の小さな引っかかりを、私は何度も耳にしてきました。チームで支えているのに、加算の線引きが職種で分かれてしまう――その違和感がいくらか和らぐのは、組織の一体感という意味でも意義があります。

なお、食費の基準費用額の引き上げは2か月遅れて8月からの実施です。利用者負担に関わる部分なので、ご家族への説明のタイミングも含め、施行日のズレは早めに整理しておきたいところです。

「もらえる」で終わらせず、「なぜ・いくら」を言葉にする

経営者として一番気をつけたいのは、加算を受け取ること自体が目的化してしまうことです。加算は事業所に入りますが、職員一人ひとりにとっての関心は、結局「自分の手取りがいくら、どう増えるのか」に尽きます。ここを曖昧にしたまま配分すると、せっかくの賃上げが「いつの間にか少し増えていた」程度の印象で終わってしまいます。

私が大切にしているのは、配分のルールを数字で示し、言葉で添えることです。「今回の加算で原資がこれだけ増えた」「だからあなたの基本給/手当はこう変わる」「その背景には、こういう制度改定がある」――この三点を、できる範囲でオープンに伝える。キャリアコンサルタントとして職員面談を重ねてきて痛感するのは、人は金額そのもの以上に、「自分がきちんと見られ、説明されている」という実感で報われるということです。

加算は「ゴール」ではなく「預かりもの」

もう一つ、経営の視点で釘を刺しておきたいことがあります。処遇改善加算は、あくまで賃上げに充てることを前提に国から預かっている原資だということです。要件の管理、実績報告、配分の透明性――この事務を疎かにすれば、せっかくの制度が事業所の信用を損なうリスクにもなりかねません。担当者任せにせず、経営層が数字の流れを把握しておくべき領域だと考えています。

そして、加算頼みだけでは賃金の底上げに限界があることも、経営者は冷静に見ておかねばなりません。加算という追い風を受けつつ、生産性の向上や業務の見直しで自前の原資も少しずつ厚くしていく。その両輪があってはじめて、賃上げは一度きりの花火ではなく、続いていく流れになります。

制度が現場に歩み寄った、その手を握り返す

今回の臨時改定は、国が「賃上げを急がねばならない」と判断した、その緊張感の表れだと受け止めています。制度がここまで現場に歩み寄ってくれたのなら、私たち経営の側も、その原資を一円も無駄にせず、職員の手取りと納得に確かに変えていく責任があります。

賃上げは、数字を動かすことであると同時に、「あなたの仕事をちゃんと評価している」という法人からのメッセージです。6月の給与明細が職員の手に渡るとき、そこに込めた思いまで伝わるように――そんな配分と説明を、この週末のうちに準備しておきたいと思っています。


木下浩志(NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長/株式会社MCL 取締役/北海道介護福祉学校 非常勤講師/キャリアコンサルタント)


※本記事は2026年6月13日時点で公表されている情報をもとにしています。加算率・要件・配分ルールなどの詳細は、厚生労働省および各都道府県の発表、ならびに最新の通知をご確認ください。

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