「代替」ではなく「協働」へ ― 介護情報基盤の本格運用と、AIケアプラン支援が変えるもの

「代替」ではなく「協働」へ ― 介護情報基盤の本格運用と、AIケアプラン支援が変えるもの

この4月、介護情報基盤が本格的に運用を始めました。少し地味なニュースに見えるかもしれません。けれど私は、これは介護のAI活用にとって、静かだけれど大きな転換点だと感じています。なぜなら、AIがその真価を発揮できるかどうかは、結局「つながったデータがあるか」にかかっているからです。

これまで介護の情報は、事業所ごと、システムごとにバラバラに抱え込まれ、互いに行き来できずにいました。同じ利用者さんのことなのに、医療と介護で、あるいは事業所をまたぐと、また一から情報を集め直す。その非効率を、現場の誰もが当たり前のものとして飲み込んできました。情報基盤の整備は、その壁に風穴を開ける一歩です。そしてこの「つながり」こそが、AIケアプラン支援が現実味を帯びてきた土台でもあります。

AIは、ケアマネジャーの「代わり」ではない

ここで、はっきりさせておきたいことがあります。最近、ケアプラン作成を支援するAIが話題になると、必ず「ケアマネの仕事が奪われるのでは」という不安の声が上がります。私は、この受け止め方こそが一番もったいないと思っています。

いま実用化に向かっているAIは、ケアマネジャーを置き換えるものではありません。位置づけられているのは、あくまで「ケアプラン原案の作成を支援するパートナー」です。過去の膨大なアセスメント情報やサービス利用の傾向をふまえて、「こういう支援の組み立てが考えられます」という叩き台を素早く差し出す。その原案を見て、利用者さんの暮らしや人柄、ご家族の思いに照らして練り上げていくのは、これまで通りケアマネジャーの仕事です。

たたき台があるのと、白紙から始めるのとでは、考える余白がまるで違います。AIに下ごしらえを任せられる分、ケアマネさんは「この人にとって本当に必要な支援は何か」という、人にしかできない判断にもっと時間を割ける。そういう協働の形が見え始めているのです。

数字に表れ始めた、現場の手応え

抽象論だけでは説得力に欠けるので、具体的な事例にも触れておきます。

ある大手事業者の実証では、AIの活用によってスタッフの離職率が大きく下がったと報告されています。別の現場では、ケアプラン作成にかかる時間が約4割削減されたという例も出てきました。さらに、見守り機器とAIを組み合わせた実証では、夜間の総業務時間が導入前の87%にまで圧縮されたといいます。

私がこうした数字に目を留めるのは、削減された時間の「行き先」が大事だと思うからです。浮いた時間を、ただ人員を減らす口実にしてしまえば、現場はかえって疲弊します。そうではなく、削れた事務時間を、利用者さんと向き合う時間、職員が一息つく余白、新人を育てる時間に回す――そう設計できてはじめて、AIは現場の味方になります。離職率が下がったという事例の背景には、おそらくそうした「時間の使い直し」があるのだと、私は読んでいます。

「つながる」ことへの、不安にも向き合う

一方で、情報がつながることへの戸惑いも、正直に受け止めなければなりません。利用者さんの大切な情報が事業所をまたいで共有される以上、「誰が、何のために見るのか」というルールと、セキュリティへの備えは欠かせません。便利さの裏側にある不安に蓋をしたまま進めれば、現場の信頼は得られないからです。

私自身、AI活用を旗振りする立場でありながら、いつも自分に言い聞かせていることがあります。それは、道具を入れること自体を目的にしないということ。情報基盤もAIも、最後は「利用者さんの暮らしが少しでも良くなったか」「職員が少しでも働きやすくなったか」という一点で測られるべきものです。

技術が進むほど、問われるのは「人の役割」

情報がつながり、AIが原案を差し出してくれる時代になればなるほど、逆説的に、人にしかできない仕事の輪郭がくっきりしてきます。利用者さんの表情のかすかな変化に気づくこと。ご家族の言葉にならない不安をすくい取ること。チームで知恵を出し合うこと。それらは、どれだけ技術が進んでも、人の手と心に委ねられたままです。

「代替」か「協働」か。私は迷いなく、協働の側に立ちたいと思っています。AIに任せられることは気持ちよく任せて、人は人にしかできないことに、もっと深く向き合う。介護情報基盤の本格運用は、その新しい役割分担を始める合図なのだと、週末の静かな時間に、あらためて思いを巡らせています。


木下浩志(NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長/株式会社MCL 取締役/北海道介護福祉学校 非常勤講師/キャリアコンサルタント)


※本記事は2026年6月14日時点で公表されている情報や各社の実証事例をもとにしています。制度の詳細や事例の数値は、厚生労働省および各事業者の公式発表をご確認ください。

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