うまく使える人のコツを独り占めにしない ― 介護事業所の「社内プロンプト集」のすすめ

うまく使える人のコツを独り占めにしない ― 介護事業所の「社内プロンプト集」のすすめ

先日のブログで、AIを現場に定着させる3つの仕掛けについて書きました。今日はその続きのお話です。定着の次に訪れる課題、それは「使い方の上手さが、人によってバラバラになる」という問題です。

同じ生成AIを使っていても、「議事録の要約が一発で決まる人」と「何度やり直しても思った形にならない人」がいます。この差を生んでいるのは能力ではなく、AIへの頼み方――いわゆるプロンプトの違いであることがほとんどです。そして私が一番もったいないと感じるのは、うまくいった頼み方が、その人の頭の中だけにしまわれてしまうことです。

「あの人だけ使いこなしている」状態は、実はもろい

ある事業所で、記録の文章化が驚くほど速い職員がいました。聞けば、自分なりに工夫したAIへの指示文をメモ帳に貯めていて、場面ごとに貼り付けて使っているとのこと。素晴らしい工夫です。ただ、その方が異動や退職をしたら、そのノウハウは丸ごと消えてしまいます。

介護の現場では、ベテランの暗黙知が継承されずに失われる問題が昔から指摘されてきました。AIの使い方でも、まったく同じことが起きようとしています。個人の工夫を個人のままにしておくのは、組織として大きな損失なのです。

社内プロンプト集は、立派なものでなくていい

そこでおすすめしたいのが「社内プロンプト集」です。仰々しいシステムは要りません。共有フォルダのワード文書一枚、あるいは紙のファイル一冊からで十分です。

形式もシンプルで構いません。「どんな場面で」「どんな指示文を入れたか」「どんな結果が返ってきたか」の3点セットを書き留めるだけ。たとえばこんな具合です。

ポイントは、うまくいかなかった例も載せることです。「『報告書を書いて』とだけ頼んだら、大げさな文章になって使えなかった」という失敗例は、これから使い始める人にとって、成功例と同じくらい価値があります。

月に一度、5分だけ「持ち寄りの時間」をつくる

プロンプト集は、作って終わりでは育ちません。私のおすすめは、既存の会議の最後に5分だけ「今月、AIでうまくいった頼み方」を持ち寄る時間を設けることです。新しい会議を増やす必要はありません。

この5分には、ノウハウの蓄積以上の効果があります。「自分の工夫がみんなの役に立った」という経験は、職員にとって小さな誇りになります。キャリアコンサルタントとして職員の方々と面談していると、「自分が組織に貢献できている実感」が働く意欲をどれほど支えているかを痛感します。プロンプトの共有は、業務効率化の取り組みであると同時に、一人ひとりの工夫に光を当てる場にもなり得るのです。

ベテランの介助のコツが後輩に手渡されてきたように、AIの使い方のコツも、手渡せる形にして残していく。道具が新しくなっても、知恵を分かち合って現場を良くしていくという介護の文化は、変わらず生きていてほしいと願っています。

個人の工夫を、組織の資産に

AIの活用力は、一人の名人を育てることではなく、現場全体の底上げで決まります。そのための最初の一歩が、うまくいった頼み方を一枚の紙に書き留めて、隣の人に見せることです。

今日、皆さんの事業所で誰かがAIに上手な頼み方をしていたら、ぜひ声をかけてみてください。「それ、どうやったの?」――その一言が、社内プロンプト集の最初のページになります。


木下浩志(NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長/株式会社MCL 取締役/北海道介護福祉学校 非常勤講師/キャリアコンサルタント)

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