はじめに ― 6月、ついに「その月」が来ました
おはようございます。木下です。
6月1日、月曜日。新年度が始まって、ちょうど2か月が経ちました。多くの介護事業所にとって、今月は特別な意味を持つ月です。かねてから準備が進められてきた臨時の介護報酬改定が、いよいよ今月から施行される からです。
通常、介護報酬の見直しは3年に一度(前回は令和6年度)。その「合間の年」に臨時の改定が入るのは異例のことです。背景にあるのは、止まらない物価高騰と、他産業へ人材が流出し続ける深刻な人手不足。「3年に一度を待っていては、現場がもたない」という危機感が、この臨時改定を実現させました。
今日は、施行月の初日というこのタイミングで、経営者が今週・今月に何をすべきかを、改めて整理しておきたいと思います。
まず数字を正しく押さえる ― 改定率2.03%、賃上げは月最大1.9万円
報道や解説記事で数字が飛び交っていますが、経営判断のためには正確に押さえる必要があります。
- 改定率は+2.03%。介護職員の処遇改善を前倒しするための引き上げです。
- 賃上げのイメージは、介護職員1人あたり最大で月1万9,000円(約6.3%)。
- その中身は、おおむね次の3層構造です。
| 層 | 内容 | 対象 |
|---|---|---|
| ① 月1万円 | 全介護従事者を対象とした処遇改善 | 介護従事者全体 |
| ② 月7,000円 | 生産性向上・協働化に取り組む事業所の上乗せ | 取組事業所の介護職員 |
| ③ 月2,000円程度 | 定期昇給相当分 | ― |
ここで強調したいのは、「最大1.9万円」は誰もが自動的に受け取れる金額ではない という点です。②の7,000円は、生産性向上や協働化の取り組みが前提です。「1.9万円上がるらしい」という現場の期待と、実際に配分できる額との間には、設計次第でギャップが生まれます。このギャップの説明責任を負うのは、ほかでもない経営者です。
今回の最大の転換点 ― 「介護職員」から「介護従事者全体」へ
私が今回の改定で最も重視しているのは、改定率そのものよりも、処遇改善の対象範囲が大きく広がった ことです。
これまでの処遇改善加算は、原則として「介護職員」が対象でした。同じ事業所で働いていても、ケアマネジャーや看護師は対象外――この線引きが、現場に微妙な空気を生んでいたことは、管理者の皆さんなら心当たりがあるはずです。
今回、賃上げの対象が 「介護従事者全体」へと拡大 され、ケアマネジャーや看護師も含まれることになりました。あわせて、これまで処遇改善加算の枠組みが薄かった、
- 訪問看護(+1.8%)
- 訪問リハビリテーション(+1.5%)
- 居宅介護支援・介護予防支援(+2.1%)
といったサービスにも、新たに加算が設定されます。事業所全体で「チームに報いる」設計ができるようになった ――これは、長く多職種連携の現場に関わってきた私にとって、構造的に大きな前進だと感じています。
経営者が今週やるべき3つのこと
施行月に入った今、経営者・管理者が着手すべきことを、優先順位の高い順に3つ挙げます。
1. 加算区分と配分ルールを「今の体制」で取り直す
対象範囲が広がったということは、昨年度までの配分ルールがそのまま使えるとは限らない ということです。誰を対象に、どの財源から、いくら配分するのか。職種が増えた分、配分設計はむしろ複雑になります。算定する加算区分の選択と、配分ルールの再設計を、給与計算ソフトやシフト体制と突き合わせて、今月中に固めておく必要があります。
2. 「②の7,000円」の取り組み要件を満たせるか点検する
上乗せ分(月7,000円相当)は、生産性向上・協働化の取り組み が前提です。記録のICT化、見守り機器の活用、事業所間の協働など、自事業所がどの要件をどこまで満たしているかを、施行月のうちに棚卸ししてください。「気づいたら上乗せ分を取り逃していた」という事態は、職員への説明上も避けたいところです。
3. スタッフへの説明を、数字が動く前に行う
これが、実は一番大切です。昇給は、金額そのものよりも「どう伝えられたか」で受け止め方が変わります。
- 誰が、いくら、いつから上がるのか
- なぜその配分なのか(職種・取り組みによる差の理由)
- 自動的に最大額が出るわけではないこと
これらを、給与明細に数字が反映される前に、経営者の言葉で丁寧に伝える。沈黙のまま明細だけが変わると、「思ったより少ない」「あの職種だけ優遇された」といった誤解が現場に走ります。制度の前進を、職員の納得と定着につなげられるかどうかは、ここの一手間にかかっています。
あわせて見落とせない ― 8月以降の食費改定
経営の視点では、賃上げと同じ月だけを見ていてはいけません。2026年8月以降、介護保険施設等の食費の基準費用額の見直し が予定されています。
賃上げで人件費が動く6月と、食費基準が動く8月。収入と支出の両方が、この夏に連動して変わる ということです。賃上げの財源確保に気を取られて、夏以降の収支シミュレーションを後回しにすると、秋に資金繰りで慌てることになりかねません。6月・8月をひとつの流れとして、今のうちに数字を引いておくことをお勧めします。
おわりに ― 制度を「現場の手取り」に翻訳するのが経営者の仕事
臨時改定の2.03%は、国が示した「方向性」にすぎません。それを、
- どの職種に
- どの財源から
- どう説明して
スタッフ一人ひとりの手取りに翻訳するのは、各事業所の経営者の仕事です。同じ改定率でも、配分設計と伝え方ひとつで、職員の受け止めは「ありがたい」にも「期待外れ」にも変わります。
3年に一度を待たずに踏み込まれた、この異例の改定。「現場がもたない」という危機感から生まれた制度を、本当に現場を支える力に変えられるか。 その分かれ目が、施行月であるこの6月の段取りにあります。
私たちMCLでも、今月は配分ルールの確定と、スタッフへの説明を最優先で進めます。良い6月の、良いスタートを切りましょう。
良い月曜日を、お過ごしください。
木下 浩志
NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長
株式会社MCL 取締役
北海道介護福祉学校 非常勤講師
国家資格キャリアコンサルタント


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