はじめに ― 「顔の見える関係」は放っておくと古くなる
おはようございます。木下です。
本日5月29日、金曜日。新年度が始まって2か月が経ちました。各事業所・各機関とも、新人の配置や担当替えがようやく落ち着き、日常の業務リズムが戻ってくる時期です。私が理事長を務めるNPO法人ちとせの介護医療連携の会、そして千歳市在宅医療連携センターの運営の現場でも、ちょうど今、ある「静かな課題」が顔を出してきます。
それは、連携先の担当者が、4月の異動で入れ替わっているということです。
地域の在宅医療・介護連携では、よく「顔の見える関係づくり」が大切だと言われます。私自身、何度もこの言葉を使ってきました。しかし最近あらためて感じるのは、「顔の見える関係」は、一度つくれば永続するものではないということです。むしろ、放っておけば確実に古くなります。今日は、6月というこの時期に、地域連携の「顔と名前」をどう更新していくかを書き残しておきます。
4月の異動が、連携の地図を静かに書き換える
医療機関の地域連携室、地域包括支援センター、行政の高齢福祉・障害福祉の担当課、社会福祉協議会、居宅介護支援事業所 ― 在宅を支えるこれらの機関は、いずれも年度替わりで人が動きます。
- 病院の退院調整を担っていた看護師・MSW(医療ソーシャルワーカー)が部署異動した
- 地域包括の主任ケアマネジャーが交代した
- 行政の担当係長が替わり、引き継ぎが完全ではない
- 居宅のベテランケアマネが管理者に昇任し、現場を離れた
こうした変化は、辞令という形では地域全体に共有されません。多くの場合、次に一緒にケースを担当したときに、初めて「あ、担当が変わったんだ」と気づくのです。
これが何を生むか。連携の現場では、「前はあの人に電話一本で通じた話」が、新しい担当者には通じない、という小さな摩擦が積み重なります。退院前カンファレンスの段取り、急変時の連絡先、フォーマットの好み ― こうした暗黙の了解は、人に紐づいています。人が替われば、ゼロから組み直しになります。
つまり、4月の異動は、地域連携の「地図」を静かに書き換えているのです。そして6月は、その新しい地図を、私たちが意識的に描き直すのに最も適した時期だと、私は考えています。
なぜ「6月」なのか
なぜ4月でも5月でもなく6月なのか。理由は3つあります。
第一に、異動した本人が新しい職場に慣れてくるからです。4月・5月は、異動者自身が新しい業務を覚えるのに精一杯です。6月になると、ようやく顔を上げて、外部の連携先と向き合う余裕が出てきます。こちらから関係を更新しに行くなら、相手にも受け取る余裕がある時期がよい。
第二に、年度初めの具体的なケースが動き始めるからです。4月に在宅へ戻った方、5月に新規に介護保険を申請した方 ― これらのケースが、6月には支援の本格運用に入ります。抽象的な「ご挨拶」ではなく、具体的なケースを通じて関係を更新できる時期です。
第三に、夏以降の地域行事・研修の準備が始まるからです。当会でも、千歳市在宅医療連携センターのケアカフェや多職種連携研修を、夏から秋にかけて企画していきます。その準備の声かけが、ちょうど「顔と名前の更新」の自然なきっかけになります。
経営者・運営者として、6月に具体的にやっていること
「顔の見える関係を更新しましょう」と言うだけでは、現場は動きません。運営主体として、私が意識して仕組みにしていることを3つ挙げます。
1. 連携先名簿を、年に一度ではなく「6月にもう一度」更新する
多くの事業所は、連携先の名簿を年度初め(4月)に一度だけ更新します。しかし前述の通り、4月時点では異動の実態が見えていません。そこで当会では、6月に名簿の二度目の更新をかけます。「4月以降、貴機関のご担当に変更はありませんか」という一文を添えた確認だけでも、地図の精度は大きく上がります。
2. 「ケースのついで」に新担当者と顔を合わせる
新担当者へのご挨拶を、独立したイベントにしないことが大切です。進行中のケースの連絡・カンファレンスの機会に、自然に顔合わせを織り込む。「今後ともよろしくお願いします」を、抽象的な名刺交換ではなく、目の前の一人のご利用者の話を通じて行う。これが、形式的な関係ではなく、働く関係を最短でつくります。
3. 「窓口の一本化」を、相手にとっても明確にする
連携相手が替わったときに最も困るのは、「こちらの誰に連絡すればよいか分からない」という状態です。当会・MCLの各事業所では、外部から見たときの連絡窓口を明確に保つことを大切にしています。担当が替わるのはお互い様だからこそ、自法人側の窓口は安定させておく。これが、地域から見たときの「連携のしやすさ」に直結します。
千歳と恵庭、二つのセンターの間でも
私が運営に関わる千歳市在宅医療連携センターは当会(NPO法人ちとせの介護医療連携の会)が、隣接する恵庭市の在宅医療連携センターは医療法人北晨会が、それぞれ運営主体を担っています。運営の母体は異なりますが、両市は生活圏として深くつながっており、ご利用者やご家族は市の境界を越えて医療・介護を利用されます。
だからこそ、両センターの担当者間でも、年度替わりの「顔と名前の更新」は欠かせません。運営主体が違っても、地域住民から見れば、つながっていてほしい二つの窓口です。6月のこの時期、私自身も隣市のセンターの動きを確認し、必要な連絡先の更新をしておくようにしています。
おわりに ― 連携は「更新し続ける」もの
「顔の見える関係づくり」は、地域包括ケアを語るときの定番の言葉です。けれども、つくることばかりが語られ、更新し続けることはあまり語られません。人は動きます。組織も変わります。だからこそ、関係は一度つくって終わりではなく、定期的に描き直していく対象です。
新年度の慌ただしさが落ち着いた6月は、その描き直しの絶好のタイミングです。金曜日の今日、もし地域連携に関わる立場の方が読んでくださっていたら、ぜひ一度、「うちの連携先名簿、4月以降の異動を反映できているだろうか」と問い直してみてください。たった一本の確認の連絡が、次に一緒に担当するご利用者の支援を、確実に滑らかにします。
良い金曜日を、お過ごしください。
木下 浩志
NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長
株式会社MCL 取締役
北海道介護福祉学校 非常勤講師


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