連休のさなか、気になるニュースが目に留まりました。
福祉施設職員88万人加入の退職金手当制度を抜本見直し、準備金残高大幅減で〈厚労省〉
社会福祉施設職員等退職手当共済制度(独立行政法人 福祉医療機構が運営)の支払準備金が、2021年度の505億円から2024年度には294億円まで急減し、厚生労働省が制度の抜本的な見直しに着手したという内容です。秋までに結論を出すとのことで、現場としても無視できないニュースです。
制度がきしんでいる背景
報道によれば、加入は全国の社会福祉法人の約8割(1万6678法人)、職員数は約88万人にのぼります。準備金が急減した最大の要因は、介護保険制度がスタートした2000年前後に大量採用された世代の退職が一気に進んでいることだと言われています。
一方で、2026年度の掛金は介護・障害分野で職員1人あたり年14万8500円。100人規模の事業所なら年1,500万円弱の固定費です。「掛金の急激な引き上げは現場としては厳しい」という声も当然出てきます。
つまり、
- 出ていく(退職金)が増える
- 入ってくる(掛金収入+運用益)が追いつかない
- だから掛金を上げざるを得ない
という構造です。経営者として読むと、「これは介護報酬とよく似た構図だな」と感じます。財源が一極集中していて、人口動態と政策のさじ加減でぐらつく仕組みは、長く続けるほど脆くなります。
退職金は「制度」ではなく「設計」の話
私が代表を務めるNPO法人ちとせの介護医療連携の会、そして取締役を務める株式会社MCLでは、退職金の準備として企業型確定拠出年金(企業型DC)を導入しています。
なぜ共済制度や中退共だけに頼らず、企業型DCを選んだのか。理由はいくつかあります。
1. 法人の負担が「読める」
確定給付型の退職金は、運用環境が悪化すると将来の不足分を法人が埋めることになります。企業型DCは月々の拠出額が確定しているので、決算上の見通しが立てやすい。介護保険報酬という不安定な収入源で経営している以上、「固定費が読めること」は何よりの安心材料です。
2. 職員の側に「自分の資産」として残る
企業型DCでは、拠出された掛金は職員一人ひとりの口座に積み上がっていきます。転職してもポータビリティ(持ち運び)が効き、iDeCoや次の職場の制度に移すことができます。介護業界は法人をまたぐ転職が珍しくありません。「ここを辞めたら退職金がリセットされる」状態よりも、職員のキャリアに沿って資産が育っていくほうが、結果的に法人への信頼にもつながります。
3. 選択制DCで「給与に近い福利厚生」になる
選択制で導入すると、職員自身が拠出額を決められます。社会保険料の算定基礎から外れるため、職員にとっても法人にとっても税・社保の面でメリットが出やすい設計です。もちろん、目先の手取りが減ることのデメリットも丁寧に説明し、理解した上で選んでもらう必要があります。
共済をやめるという話ではない
念のため言っておくと、「退職共済はもう不要」と言いたいわけではありません。長く加入してきた法人にとっては、これまで積み上げてきた職員の権利でもあります。今回の見直しの方向性次第では、現役職員の今後の取り扱いに影響が出る可能性もあるので、続報は丁寧に追っていきます。
私が伝えたいのは、退職金の備えを一つの制度に依存しないことの大切さです。共済、中退共、企業型DC、社内積立、生命保険を活用したスキーム ― それぞれに長所と短所があります。法人の規模、職員の年齢構成、財務体力、人材戦略によって、最適解は変わります。
経営者として今やっておきたいこと
今回のニュースをきっかけに、私自身もう一度点検したいと思っているのは次の3点です。
- 退職給付に関する将来コストの試算:年齢構成と勤続年数から、今後10年の退職予定者をざっくり並べてみる。
- 掛金が引き上げられた場合のキャッシュフロー影響:例えば年14.85万円が1割上がった場合、自法人で年いくらの追加負担になるか。
- 職員に説明できる退職金の全体像:共済+企業型DC+(あれば)社内制度を一枚にまとめておく。採用の場面でも武器になります。
介護経営は、報酬改定・処遇改善・人材難と、コントロールできない変数が多い領域です。だからこそ、「自分たちで設計できる部分」 ― 福利厚生や退職金の枠組み ― は早めに手を入れておく価値があります。
連休明けに、ぜひ自法人の退職金制度を一度見直してみてはいかがでしょうか。
木下 浩志
NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長
株式会社MCL 取締役
北海道介護福祉学校 非常勤講師


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