地域で”育て合う”介護人材 ― 事業所の枠を超えた合同研修のすすめ

地域で”育て合う”介護人材 ― 事業所の枠を超えた合同研修のすすめ

新年度が始まって約1か月。新人研修のプログラムが一巡し、「これからどう育てていくか」を考え始める時期ではないでしょうか。人材育成に力を入れたいと思いながらも、小規模な事業所では講師の確保も、研修テーマのバリエーションも限界があるというのが現実です。そこで今回ご提案したいのが、地域の複数事業所が手を組んで行う「合同研修」という選択肢です。一事業所では難しいことも、連携すれば実現できる。その具体的な進め方と効果についてお伝えします。

なぜ今、合同研修なのか

介護事業所の約7割は従業員50人未満の小規模事業所です。研修の重要性は理解していても、日々のシフトを回しながら職員を研修に出す余裕がない、そもそも研修を企画・運営できる人材がいない、という声をよく聞きます。

一方で、2024年度の介護報酬改定以降、処遇改善加算の取得要件として研修体系の整備がますます重視されています。研修を「やらなければならないが、自前では難しい」という矛盾を抱える事業所が増えているのです。

この矛盾を解消する現実的な方法が、近隣の事業所同士で研修を持ち寄り、共同で実施するというアプローチです。地域包括ケアシステムの理念は「地域全体で支え合う」ことにありますが、それは利用者へのサービスだけでなく、人材を育てるという営みにおいても同じはずです。

合同研修がもたらす3つの効果

1. 視野が広がり、自事業所の強みに気づく

同じ介護職でも、事業所によってケアの方針や業務の進め方は異なります。他事業所の職員と学び合うことで、「うちではこうしている」「そのやり方は参考になる」という発見が自然に生まれます。

特に中堅職員にとって、この刺激は大きな意味を持ちます。自分の事業所しか知らないまま何年も過ごすと、仕事がマンネリ化しやすく、キャリアの展望が狭まりがちです。キャリアコンサルタントとして面談する中で、「自分のやり方が正しいのか分からない」「他の事業所ではどうしているのか知りたい」という声を数多く聞いてきました。合同研修は、こうした閉塞感を打破するきっかけになります。

2. 研修の質と幅が向上する

A事業所には認知症ケアに長けたベテランがいる。B事業所にはICT導入の先進事例がある。C事業所には看取りケアの豊富な経験がある。それぞれの事業所が持つ「得意分野」を研修テーマとして持ち寄れば、一事業所では到底カバーできない多彩なプログラムが実現します。

外部講師に頼らず、現場の実践者が講師を務めることで、机上の理論ではない「使える学び」が共有されるという利点もあります。教える側にとっても、自分の実践を言語化し、他者に伝える経験は大きな成長機会です。

3. 地域のケアの底上げにつながる

合同研修を通じて事業所間の顔が見える関係が築かれると、日常の連携にもよい影響が波及します。退院調整やサービス担当者会議の場で、「あの研修で一緒だった方」という関係があるだけで、連絡の取りやすさがまったく違ってきます。

人材育成が地域連携の入り口になる。これは、私自身がちとせの介護医療連携の会の活動を通じて実感してきたことです。事業所の壁を越えた学びの場は、結果として地域全体のケアの質を引き上げる力を持っています。

【実例】私たちが取り組む「連携カレッジ」

抽象論だけでは伝わりにくいので、私自身が関わる取り組みを一つご紹介します。NPO法人ちとせの介護医療連携の会では、千歳市在宅医療・介護連携支援センターとともに「連携カレッジ」という医療・介護の多職種合同研修を運営しています。2026年度は5月から2027年3月にかけて、年9回・参加費無料で開催します。

2026年度のプログラムは、次の2つの柱で構成しています。

大切にしているのは、知識を増やすことだけではありません。「顔の見える関係」づくりそのものを研修の目的に据えている点が、連携カレッジの特徴です。研修の前後や休憩時間に交わされる雑談、名刺交換、一緒にグループワークをした時間 ― こうした積み重ねが、退院調整や在宅支援の現場で「あの人に相談してみよう」という一歩を生み出します。

参加費を無料にしているのも、「学ぶ要求」を持つ現場の専門職が、費用のハードルなく集まれる場にしたいという思いからです。多職種が一緒に学ぶことで、千歳が「安心して長く住み続けられる街」になる ― この理念を共有する仲間が少しずつ増えていることに、地域で活動を続けてきてよかったと心から感じています。

連携カレッジの詳細はこちらのページでご覧いただけます。同じような仕組みを地域で立ち上げたいとお考えの方には、ぜひ一度ご見学にお越しいただければ幸いです。

合同研修を始めるための4つのステップ

「やってみたいが、どこから手をつければよいか分からない」という方のために、実践的な手順をご紹介します。

ステップ1:仲間を見つける(まずは2〜3事業所から)

同じ地区の地域包括支援センターの圏域内、あるいは同じケアマネ事業所と関わりのある事業所に声をかけてみましょう。最初から大規模に始める必要はありません。気心の知れた2〜3事業所で試行するのが成功の秘訣です。

ステップ2:テーマと役割を決める(各事業所の”強み”を棚卸し)

各事業所が「うちはこれなら教えられる」というテーマを1つずつ出し合います。年間で4〜6回のプログラムが組めれば十分です。会場は持ち回りにすれば、施設見学も兼ねることができます。

ステップ3:小さく始めて振り返る

第1回は90分程度の勉強会形式で構いません。終了後に参加者アンケートを取り、次回に反映させる。この小さなPDCAを回すことが、継続の鍵です。

ステップ4:行政・地域包括との連携を視野に入れる

実績が積み上がったら、市町村の介護保険課や地域包括支援センターに活動を報告しましょう。自治体によっては、こうした自主的な取り組みに対して会場提供や広報支援を行っている場合があります。地域ケア会議との連動も検討する価値があります。

「育てる」は一事業所の仕事ではない

介護人材の確保・育成・定着は、いまや一事業所の経営課題であると同時に、地域全体の社会課題です。自事業所だけで抱え込むのではなく、地域で育て合うという発想への転換が求められています。

新年度を迎えて間もない今だからこそ、「今年は他の事業所と一緒に何かやってみよう」と声を上げてみてはいかがでしょうか。その一歩が、職員の成長を支え、地域のケアの未来をつくることにつながります。

介護という仕事は、地域で暮らす一人ひとりの人生を支える仕事です。その担い手を育てることもまた、地域全体で取り組むべき大切な営みだと考えます。

明日から始める3つのアクション

  1. 近隣で連携実績のある事業所の管理者に「合同勉強会」を提案してみる — ランチや電話でも構わない。まず「一緒にやりませんか」の一言から
  2. 自事業所の”教えられる強み”を3つ書き出す — 職員に聞くと、経営者が気づいていない強みが見つかることも多い
  3. 地域包括支援センターに「事業所間の合同研修に関心がある」と伝える — 同じ思いを持つ事業所をつないでもらえる可能性がある

筆者:木下浩志(NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長/株式会社MCL 取締役/北海道介護福祉学校 非常勤講師/キャリアコンサルタント)

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