津波警報が鳴ったあの夕刻 ― グループホーム17名の避難から考える、介護サービス事業所の災害対応

津波警報が鳴ったあの夕刻 ― グループホーム17名の避難から考える、介護サービス事業所の災害対応

昨日4月20日(月)16時53分頃、三陸沖を震源とするマグニチュード7.7の地震が発生し、北海道太平洋沿岸にも津波警報が発令されました。新冠町では震度4を観測。株式会社MCLが運営する新冠町のグループホーム「ゆーあい天馬」では、利用者17名とスタッフ10名が近隣の新冠小学校へ避難。けが人はなく、誘導も迅速かつ的確でした。現在も後発地震注意報が発令されており、今後1週間程度は緊張感をもったサービス提供が必要です。現場での経験を経営者・管理者の視点から整理し、介護サービス事業所の災害対応について考えます。

あの夕刻、現場で起きたこと

揺れが襲い、警報が鳴り響いたのは夕方16時53分頃。グループホームにとっては、夕食の準備が進み、日勤から夜勤への引き継ぎが間近に迫る、一日のうちでもとりわけ手が回りにくい時間帯です。日が傾き、屋外の視界も徐々に失われていく中での避難行動となりました。

それでも現場スタッフはただちに避難準備に入りました。17名の利用者のうちには、認知症で状況理解が難しい方、車いす利用の方、介助なく歩行できない方も含まれます。10名のスタッフは役割を分担し、必要な薬や名簿、連絡手段を持ち出しながら、近所の新冠小学校へと避難を完了させました。

「全員無事」という結果は偶然ではありません。その裏側には、日頃からの備えと、地域との関係があります。とりわけ夕刻という条件下で迅速に動けたことは、現場の実力の高さを物語っています。今回の対応が迅速で的確であったと評価できる理由を、現場に敬意を払いつつ分析してみます。

「迅速で的確」を支えた4つの要素

1. 繰り返された避難訓練

机上ではなく、実際に利用者を小学校まで誘導する訓練を重ねてきたこと。これが最大の強みです。訓練は「やらされるもの」ではなく、「自分の役割を確かめるもの」として積み上げてこそ、本番で動ける体になります。

2. 役割分担の明文化

誰が利用者の誘導を担当し、誰が薬や記録を持ち出し、誰が家族や本部に連絡するのか。この分担が事前に決まっていたからこそ、警報下でも混乱せずに動けました。特に夜勤帯・休日帯の分担まで想定しておくことが鍵となります。

3. 利用者一人ひとりの状態把握

「Aさんは車いすで誰が押す」「Bさんは薬を忘れてはいけない」――こうした情報を全職員が共有していることは、災害時に決定的な差を生みます。日常のケアの質が、非常時の安全を支えるのです。

4. 避難所との「顔の見える関係」

新冠小学校という避難先が事前に想定されており、学校・行政・地域との関係ができていたこと。これは単なる協定書ではなく、普段からの交流の積み重ねでしか生まれません。

後発地震注意報期、この1週間をどう過ごすか

気象庁からは後発地震注意報が発令されており、同程度の地震が続けて起こる可能性があります。介護サービス事業所として、この1週間に特に意識したい点を整理します。

第一に、情報収集体制の維持です。 管理者はテレビ・ラジオ・気象庁アプリ等で情報を受け続ける体制を組みます。スタッフ間でも情報を共有し、不確かな情報に振り回されないよう「誰が一次情報を確認するか」を決めておきます。

第二に、非常持ち出し品の再点検です。 一度避難を経験した今こそ、「足りなかったもの」「持っていてよかったもの」を棚卸しする絶好の機会です。記憶が鮮明なうちに記録し、BCPに反映しましょう。

第三に、利用者ご家族への丁寧な説明です。 「無事に避難できたこと」「今後の備え」「家族としてお願いしたいこと」を書面またはメールで共有します。家族の安心は、利用者の安心に直結します。

第四に、スタッフの心理的ケアです。 避難誘導を無事に終えたスタッフも、実は大きな緊張を経験しています。「よくやってくれた」とまず言葉にすること。そして、不安や疲労を口にできる場を用意すること。これは管理者の重要な仕事です。

地域で暮らし続けるために、地域で備える

NPO法人ちとせの介護医療連携の会の理事長として、また株式会社MCLの取締役として、今回改めて実感することがあります。災害時、単独施設で全てを抱えることはできないという事実です。

避難先となる学校、連携する医療機関、物資を融通し合える同業施設、声をかけてくれる近隣住民――。介護・医療は「地域で暮らす一人ひとりの人生を支える仕事」であり、事業所の壁を越えた連携なしには成り立ちません。平時の顔の見える関係が、非常時の命綱になるのです。

キャリアコンサルタントとして ― 現場スタッフへの敬意

最後に、キャリアコンサルタントの視点から一言添えます。

災害対応は、マニュアルや制度で完結する話ではありません。最終的に利用者を守るのは、現場で判断し、身体を動かすスタッフ一人ひとりです。今回避難を担った10名のスタッフは、自らの不安を抱えながらも、職責を果たしました。

こうした経験は、スタッフ自身のキャリアにとって大きな意味を持ちます。「自分はあの時、人の命を預かり、やり遂げた」という事実は、介護職としての誇りそのものです。経営者・管理者は、この経験を丁寧に言語化し、評価に反映し、組織の記憶として残していく責任があります。誇りを持って働ける職場こそが、利用者への最良のケアに直結するからです。

明日から始める3つのアクション

  1. 今週の職員ミーティングで、地震時の自分の行動を各人が振り返る時間を設ける ― 成功体験も不安も含めて言語化することが、次の備えを生みます。

  2. 避難協力先(学校・医療機関・同業施設)と、今週中に一報の連絡を入れる ― 「今回ご協力ありがとうございました」「次もよろしくお願いします」の一言が、関係を厚くします。

  3. 非常持ち出し品の内容を、写真付きで記録し直す ― 記憶が鮮明な今こそ、BCPを”生きた計画”に更新する最大の機会です。


災害はいつ、どこで起きても不思議ではありません。今回無事に避難できたという経験を、MCLの一事業所の話で終わらせず、地域全体の学びとして共有していく。それが、介護・医療の連携に関わる者の責任だと考えています。後発地震注意報期を乗り越えながら、現場で奮闘する全ての皆様に、改めて敬意を表します。


木下浩志(NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長/株式会社MCL 取締役/北海道介護福祉学校 非常勤講師/キャリアコンサルタント)

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