はじめに ― 6月は、静かに「進路」が揺れる月
おはようございます。木下です。
本日6月4日、木曜日。私の周りの介護事業所や医療機関では、夏季賞与は6月の中旬ごろに支給されるケースが多いように感じます。ちょうど、その時期を目前に控えた頃ですね。明細を心待ちにしている方も、少し不安な思いで待っている方も、いらっしゃるでしょう。
キャリアコンサルタントとして長く相談を受けてきて、毎年強く感じることがあります。それは、賞与の時期にあたる6月から7月にかけて、「そろそろ辞めようか」という気持ちが、静かに芽を出す ということです。
これは介護の世界に限った話ではありません。賞与という一つの区切りを迎えると、人は無意識に「これまで」と「これから」を天秤にかけます。「この職場で、この働き方を、あと何年続けるのだろう」――そんな問いが、ふと胸に浮かぶ。とても自然なことです。
今日は、いま少しでも「辞めようか」と心が揺れている介護職の方に向けて、経営者ではなく、一人のキャリアコンサルタントとして 書きたいと思います。辞めることを止めるためでも、引き止めるためでもありません。その揺れを、後悔のない選択につなげてほしい ――ただ、それだけの願いからです。
「辞めたい」の中身は、たいてい一つではない
まず最初に、お伝えしておきたいことがあります。
「辞めたい」という気持ちは、ひとかたまりに見えて、ほどいてみると、たいてい 複数の異なるもの が絡まっています。
- 今の職場(人間関係・働き方・処遇)から離れたいのか
- 今の仕事内容(介護という仕事そのもの)から離れたいのか
- ただ今は疲れていて、少し休みたいだけなのか
この3つは、まったく別の話です。ところが、強い感情のなかにいると、これらがひとつの「辞めたい」に溶け合ってしまう。そして、本当は「この職場の、この一点」がつらいだけなのに、「介護の仕事そのもの」を辞めてしまう ――そういう、もったいない選択を、私は何度も見てきました。
逆もあります。本当はもう介護そのものから離れたいのに、「次の職場を探す」だけで終わってしまい、転職先でまた同じ壁にぶつかる。ほどく作業をしないまま動くと、同じ景色を繰り返す ことになりがちです。
だからこそ、揺れているいまこそ、立ち止まって、自分に問いを投げてほしいのです。以下の3つは、私が相談の場で必ず一緒に考える問いです。
問い1 ― 「3年前の自分」は、今の自分を見て何と言うか
一つ目は、時間の問いです。
私たちは、つらい時ほど「今この瞬間」だけを切り取って、自分を評価してしまいます。キャリアを「点」で見てしまう のです。
そこで、少し時間を巻き戻してみてください。3年前のあなたは、今のあなたを見て、何と言うでしょうか。
- できなかった介助が、当たり前にできるようになっていないか
- 怖かったご家族対応を、今は落ち着いて受けられていないか
- 後輩に教える側に、いつのまにか回っていないか
「何も成長していない」と感じている人ほど、3年前と並べてみると、実は驚くほど多くを積み上げています。点で見れば「停滞」でも、線で見れば「前進」だった――そういうことは、本当によくあります。
この問いの目的は、無理にポジティブになることではありません。自分のキャリアを「線」で眺める視点を取り戻す ことです。線で見えてはじめて、「この成長を、次にどこへ持っていきたいか」という、前向きな問いに進めます。
問い2 ― 「これだけは、人としてやりたい」と思える瞬間はあるか
二つ目は、仕事の中身に踏み込む問いです。
5月27日のブログで、中堅職員のキャリア面談について書いたとき、私はこんな問いを紹介しました。
「AIにもできる仕事は増えていく。そのうえで、あなたが『これだけは、私が人としてやりたい』と思える仕事は何ですか?」
これは、辞めるかどうかを考えるときにも、まったく同じように効きます。
毎日の業務の中に、ほんの一瞬でも、「この時間は、嫌いじゃない」「この関わりは、自分がやる意味がある」 と感じる瞬間はありますか。
- 認知症のご利用者が、自分の声かけでふっと笑ってくれた時
- 看取りの場面で、ご家族に「あなたで良かった」と言われた時
- 新人が、自分の助言で一歩前に進んだ時
もし、こうした瞬間が 一つも思い浮かばない なら、それは「この職場」ではなく「介護という仕事」との距離を、正直に見つめるサインかもしれません。無理に続けることだけが誠実さではありません。
逆に、つらさの中にも、こうした瞬間が 確かにある なら――問題は仕事の本質ではなく、それを覆い隠している「職場の環境」のほうにある可能性が高い。その場合、まず動かすべきは、自分の進路ではなく、環境のほうかもしれません。
問い3 ― その悩みを、まだ「誰にも言っていない」のではないか
三つ目は、いちばん大切な問いです。
「辞めたい」とまで思い詰めている方の多くが、その気持ちを、まだ職場の誰にも、まともに話していない のです。一人で抱え、一人で結論を出し、ある日「退職します」とだけ告げる。
私はこれを、決して責める気持ちで言っているのではありません。真面目で、責任感が強く、周りに迷惑をかけたくない人ほど、そうなる のを知っているからです。新人の「静かなSOS」について5月18日に書きましたが、これは新人だけの話ではありません。経験を積んだ方ほど、弱音を飲み込む癖がついています。
でも、どうか思い出してください。あなたの揺れを受け止める場所は、職場の中にも、外にもあります。
- 信頼できる上司や、少し離れた部署の先輩
- 法人内のキャリア面談の仕組み(もしあれば)
- そして、私たちのような 国家資格キャリアコンサルタント
キャリアコンサルタントは、あなたを引き止める立場の人間ではありません。あなた自身が納得できる答えにたどり着くのを、伴走するのが仕事 です。「辞める」という結論であっても、十分に考え抜いたうえでの選択なら、私はその背中を押します。大事なのは、一人で決めないこと です。
おわりに ― 揺れは、あなたが真剣に生きている証
「辞めようか」という揺れは、決して弱さではありません。むしろ、自分の人生とキャリアに、真剣に向き合っているからこそ生まれる揺れ です。何も考えていなければ、揺れることすらないのですから。
だからこそ、その大切な揺れを、勢いや疲れだけで消費してほしくないのです。
- 問い1:自分のキャリアを「点」ではなく「線」で見てみる
- 問い2:「人としてやりたい」と思える瞬間が、まだあるかを確かめる
- 問い3:その悩みを、一人で抱えず、誰かに話してみる
この3つを、賞与の時期の前後、少し立ち止まれるこの季節に、ゆっくり自分に問いかけてみてください。そのうえで出した答えなら、それが「続ける」でも「進む」でも、きっと後悔の少ない選択になります。
介護の現場で、今日も誰かの暮らしを支えているあなたへ。その仕事には、確かな意味があります。どうか、自分自身のことも、少しだけ大切にしてあげてください。
木曜日の朝、よい一日となりますように。
木下 浩志
NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長
株式会社MCL 取締役
北海道介護福祉学校 非常勤講師
国家資格キャリアコンサルタント


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