夏季賞与の季節に ― 介護法人の賞与を「ねぎらい」で終わらせないために

夏季賞与の季節に ― 介護法人の賞与を「ねぎらい」で終わらせないために

はじめに ― 6月、賞与の支給を控えて

おはようございます。木下です。

本日5月30日、土曜日。多くの介護事業所では、6月の夏季賞与の支給を控え、その算定や支給通知の準備が進む時期だと思います。株式会社MCL、そしてNPO法人ちとせの介護医療連携の会でも、ちょうど今、賞与に関する判断と向き合っています。

賞与は、経営者にとって毎年悩ましいテーマです。限られた原資をどう配分するか。誰に、いくら、どういう理由で渡すのか。そして渡したあと、それが本当にスタッフの力に変わっているのか。今日は土曜日ということもあり、少し腰を据えて、介護法人における賞与を「ただのねぎらい」で終わらせないための考え方を整理してみたいと思います。

介護現場の賞与が抱える、構造的な難しさ

一般企業であれば、賞与は業績連動が基本です。会社が儲かれば多く、厳しければ少なく。シンプルです。

ところが介護事業の場合、この単純な図式が成り立ちにくい。理由は、収入の大半が介護報酬という公定価格で決まっているからです。現場のスタッフがどれだけ良いケアをしても、それが直接「売上の大幅増」には結びつきにくい構造になっています。以前のブログ(「うちは黒字なのになぜ昇給が薄いのか」)でも触れた通り、介護経営における収益と賃金の関係は、製造業や小売業のようには動きません。

すると、賞与の原資をどう考えるかが難しくなります。

この板挟みの中で、多くの介護法人が「結局、前年並みの一律配分」に落ち着きがちです。それ自体が悪いわけではありません。しかし、前年並みを「思考停止で」続けると、賞与は単なる年中行事になり、経営からのメッセージが何も乗らなくなる。ここが問題だと、私は考えています。

賞与に「のせる」べき3つのメッセージ

賞与は、原資の配分であると同時に、経営者から職員への一年で最大級のメッセージ機会です。私が賞与にのせるよう意識しているメッセージは、3つあります。

1. 「あなたの仕事を、経営は見ている」というメッセージ

賞与の金額そのもの以上に効くのが、支給時の一言です。明細を渡すだけでなく、「この半年、◯◯の場面で本当に助かった」という具体的な事実を添える。これがあるかないかで、同じ金額でも受け取り方がまるで変わります。

人手不足のなかで、中堅・ベテランほど「自分の頑張りは当たり前と見なされている」と感じやすい。先日のキャリアプラトーの話(5月27日)とも重なりますが、「見られている」という実感こそ、金額に勝るメッセージになり得ます。

2. 「法人は、どこに価値を置いているか」というメッセージ

賞与の配分は、無言のうちに法人の価値観を表現します。新人の定着支援に尽力した指導役、難しいご家族対応を引き受けた相談員、夜勤の負担を黙々と担った職員 ― どこに厚く配分するかが、「うちの法人は何を大事にする組織なのか」を語ってしまうのです。

だからこそ、配分の根拠を経営者自身が言葉にできなければなりません。「なんとなく前年並み」では、この大切なメッセージが空白のままになります。

3. 「これから、どこへ向かうか」というメッセージ

賞与は過去半年への報酬であると同時に、次の半年への前払いでもあります。法人として今後伸ばしたい領域 ― たとえば多職種連携、AI・ICT活用、教育・人材育成 ― に挑戦した職員を、賞与の場面でも評価する。すると賞与は「過去のねぎらい」から「未来への投資」へと意味が変わります。

処遇改善加算との関係を、賞与で混同しない

介護経営に特有の論点として、処遇改善加算と賞与の関係を整理しておく必要があります。

処遇改善加算は、その性質上、賃金改善に充てることが定められた財源です。これを賞与原資にどう反映させるかは、各法人で工夫されていると思いますが、ここで大事なのは、「加算による賃金改善」と「法人の判断による評価的賞与」を、職員に対して混同させないことです。

「これは制度上、賃金改善として支給される分」「こちらは、法人があなたの仕事を評価して上乗せする分」 ― この区別が職員に伝わっていないと、せっかくの加算も、せっかくの評価も、どちらのメッセージも薄れてしまいます。明細や説明の工夫一つで、同じ金額が持つ意味は大きく変わります。

土曜日に、経営者自身へ問いを

最後に、賞与を支給する側である経営者・管理者自身への問いを、いくつか置いておきたいと思います。

これらに即答できれば、その賞与は「年中行事」ではなく「経営のメッセージ」になっています。逆に詰まる問いがあれば、支給日までの数日が、それを考える時間です。

おわりに ― 賞与は、お金であり、言葉である

賞与の原資には限りがあります。介護報酬という枠組みのなかで、潤沢な原資を用意できる法人は、決して多くありません。だからこそ、限られた金額に、どれだけ意味を込められるかが問われます。

賞与は、お金であると同時に、言葉です。金額だけを見れば前年並みでも、そこにのせるメッセージ次第で、受け取った職員の次の半年は変わります。土曜日の今日、賞与の準備に向き合っておられる経営者・管理者の方がいらっしゃれば、明細の数字を整えると同時に、「この賞与で、何を伝えるのか」を、ぜひ一度言葉にしてみてください。

良い土曜日を、お過ごしください。

木下 浩志
NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長
株式会社MCL 取締役
北海道介護福祉学校 非常勤講師

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