はじめに ― 昨夜、北ガス文化ホールで
おはようございます。木下です。
昨日5月20日(水)の夕方、北ガス文化ホール3F視聴覚室で、連携カレッジ「ACP実践コース①『ACPと意思決定支援の基本 ~本人の願いを聴く・届ける多職種連携~』」を開催しました。講師は、北海道家庭医療学センター 向陽台ファミリークリニックの 鈴木 喬之 先生 です。
参加無料、介護・医療・福祉に関わるすべての職種・職員がどなたでも参加できる会として案内したところ、介護士・社会福祉士・看護師・ケアマネジャー・訪問介護員・理学療法士・保健師・精神保健福祉士・施設長・管理者・生活相談員、さらには司法書士や行政の方まで、まさに多職種の皆さまにお集まりいただきました。年代も20代から60代まで幅広く、地域全体でACPを考える場になりました。
今日は、研修の内容と、参加者の皆さまから寄せられたアンケートの声を振り返りながら、この研修が地域連携にとって何を意味したのかを書き残しておきたいと思います。
ACPという言葉に、私たちは身構えていた
研修の冒頭、鈴木先生が投げかけたのは、こんな問いでした。
「もし心臓が止まったら、心臓マッサージをしますか?」
「呼吸が苦しくなったら、人工呼吸器は使いますか?」
「口から食べられなくなったら、胃瘻はどうしましょう?」
ACP(アドバンス・ケア・プランニング)と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、こうした「終末期の延命治療をどうするか」という重い問いです。だからこそ私たちは、ACPという言葉に身構えてしまう。「いつ切り出せばいいのか」「早すぎたら現実味がない」――そう感じて、つい先延ばしにしてしまいます。
ところが鈴木先生は、ここではっきりと方向を変えました。ACPは「終末期だけ」「治療のことだけ」を話すものではない、と。
ACPの定義が教えてくれたこと
研修で紹介されたACPの定義は、とても示唆に富むものでした。
ACPとは、年齢や健康状態を問わず、すべての成人が、自らの価値観、人生の目標、および将来の医療に関する意向を理解し、共有することを支援するプロセスのこと
(Sudore RL, et al. 2017)
ここには2つの大切なメッセージが込められています。
- 終末期だけではなく、成人であればどんな健康状態でも話し合う
- 話し合う内容は治療のことだけではなく、自分の価値観・人生のゴール・好みといった、より広いもの
つまりACPの中心にあるのは、延命治療の選択ではなく、「人生観・価値観をシェアする会話」 だということです。鈴木先生は「将来のことを決めるには、今の自分を知る必要がある」と語られました。「今、どう生きるか」を語り合うことが、そのまま「将来、どう生きるか」につながっていく。ACPは未来の話であると同時に、今日この瞬間の話でもあるのです。
「医師免許はまったく必要ない」
私が特に多職種の皆さまに届けたかったのは、この一節です。
意思決定支援には3つのステージ――①病状の説明、②治療ゴールの設定、③治療オプションの相談――があります。このうち①と③は医師がメインで担います。しかし、②の治療ゴールの設定、すなわち本人の人生観・価値観を探る部分(ここがACPの核心)には、医師免許はまったく必要ない と、鈴木先生は明言されました。
これは、介護職・相談職・看護職・リハ職、そして地域で本人と関わるすべての職種にとって、大きな意味を持ちます。本人の価値観に最も多く触れているのは、実は日々の生活を支える私たちなのですから。だからこそ、ACPは多職種でアプローチしていく ものなのです。
何を聞き、どう膨らませるか ― 持ち帰れる「型」
研修では、明日からすぐ使える具体的な「型」も示されました。
まず聞くべき4つの質問(ポジティブな問いから、ネガティブな問いへ)
- 「自分が楽しみにしていることって何ですか?」
- 「自分の生きがいって何ですか?」
- 「今後状態が悪くなったとき、一番気がかりなことは何ですか?」
- 「〇〇になったら生きていたくない、という考えはありますか?」
話を膨らませる3つのフォローアップ
- 「もう少し詳しく教えてください(Tell me more)」
- 「どうしてそう思うんですか?(Why?)」
- 「ほかには?(What else?)」
そしてACPは「折に触れて」「繰り返し」行うこと、「できるだけ多くの人に」共有すること。気持ちは状況によって変わるのが自然であり、繰り返し尋ねるからこそ会話に「文脈」が生まれます。
アンケートから ― 33名の声が語ったこと
研修後、33名の方からアンケートにご回答いただきました。「研修は参加目的に合致していたか」という問いには、全員が「合致していた」または「概ね合致していた」とお答えくださり、開催時間についてもほぼ全員が「適当」と評価してくださいました。講義とグループワークのバランスを評価する声が多く寄せられたことを、主催者として大変うれしく思っています。
何より印象的だったのは、「今日の気づき」として書かれた言葉の数々です。
- 「ACPと聞くと難しいイメージを持っていたが、大事なことであり身近なこと だと改めて理解できた」
- 「元気な時から考える とわかり、勉強になった。価値観の情報収集の大切さがわかった」
- 「価値観はひとつではない、2つの価値観があることもある、という先生の話が印象に残った」
- 「日常の雑談 から本人の価値観を知り、それがACPにつながっていくのだとわかった」
- 「知らずに活用していたことがわかった。1回15分の会話も、何人分も集まれば数時間の会話内容になる。情報共有することで、自分の知らない本人がみえてくる」
- 「ACPは終末期だけのことではないと知ることができた」
- 「ACPはグリーフケアにもつながっている」
そして、「その気づきを今後どう活かすか」という問いには、ほぼすべての方が 「日々の業務・支援の中で実践したい」「利用者・家族との関わりに活かしたい」「ほかのスタッフと共有したい」 と書いてくださいました。学びが、その日のうちに「明日からの行動」に変わっている。研修を企画する立場として、これ以上の手応えはありません。
「コーチングの研修があればまた受けたい」「ACPの考え方を支援者と共有できる機会が有り難い」といったご要望・ご意見も、今後の連携カレッジの企画に必ず活かしてまいります。
連携カレッジが目指していること
なぜ私たちが、この連携カレッジを続けているのか。アンケートの一つの声が、その答えを言い当ててくれていました。
「ACPの考え方を、支援者と共有できる機会が有り難いです」
ACPは「できるだけ多くの人に共有する」ものだと、鈴木先生は強調されました。本人と自分だけが知っていても意味はない。家族に、そして地域の多職種に共有してこそ、ACPは機能します。
ところが現実には、職種ごと・事業所ごとに、ACPという言葉の捉え方も、関わり方もバラバラです。だからこそ、同じ言葉・同じ考え方を、地域の多職種が一緒に学ぶ場 が必要なのです。昨夜の会場で、介護士もケアマネも看護師も司法書士も行政職員も、同じ4つの質問、同じ3つのフォローアップを聞きました。これからそれぞれの現場で本人の価値観に触れたとき、私たちは「同じ地図」を持って動けます。これこそが、連携カレッジという場の値打ちだと考えています。
おわりに ― ACP made easy
鈴木先生のスライドの最後の言葉は、「ACP made easy!」でした。
ACPは、構えて切り出す特別な面談ではありません。本人が楽しみにしていること、生きがいにしていること――そうした何気ない会話の積み重ねが、そのままACPになる。アンケートに「身近なものだと感じられるようになった」と書いてくださった方が何人もいたことが、この研修の成果をよく表しています。
ご参加くださった33名の皆さま、そして温かく柔らかな語り口で大切なことを伝えてくださった鈴木喬之先生に、心より御礼申し上げます。連携カレッジ「ACP実践コース」は、今後も続けてまいります。次回もぜひ、職種を超えてお集まりください。
本人の願いを聴き、想いを届ける。その多職種連携を、千歳の地で一歩ずつ育てていきたいと思います。
良い木曜日を、お過ごしください。
木下 浩志
NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長
株式会社MCL 取締役
北海道介護福祉学校 非常勤講師
国家資格キャリアコンサルタント


コメントを残す