令和8年度(2026年度)の「北海道介護事業所等及び介護施設等に対するサービス継続支援事業費補助金」の申請受付が、4月28日から始まっております(締切は6月12日(金))(専用ホームページ/北海道庁ページ)。物価上昇、猛暑、線状降水帯災害、そして雪害や停電 ― さまざまな困難下でも介護サービスを途絶えさせないために用意された補助金です。
経営者として申し上げたいのは、この補助金を「使える物品を買うための財源」と捉えてしまうと、せっかくの機会を取りこぼすということです。本来この補助金は、自施設のBCP(事業継続計画)の実効性を点検し、足りない備えを埋めるための設計図として活用すべきものだと考えております。本日は、そのための具体的な動き方を整理しておきます。
補助金の骨格 ― 3つの支援メニュー
まず制度の枠を簡単に確認いたします。本補助金は、北海道内に所在する介護サービス事業所・介護施設等を対象とし、次の3つの支援が用意されています。
- 支援①:介護サービス継続のための対応 ― 燃料費、ネッククーラー、スパイクタイヤ、業務用スポットクーラー、業務用加湿器、サーキュレーター、遮熱カーテン等
- 支援②:災害備蓄等への対応 ― 飲料水・食料、ポータブル発電機、蓄電池、衛生・医療用品、簡易浄水器、簡易トイレ等
- 支援③:物価上昇への対応(食料品購入費等) ― 入所系サービスの一部のみ
基準単価の主な目安は次のとおりです。
- 通所介護(延べ利用者数 301〜600人/月):30万円/事業所
- 通所介護(601人以上/月):40万円/事業所
- 訪問介護(201〜2,000回/月):40万円/事業所
- 認知症対応型共同生活介護、地域密着型通所介護、居宅介護支援等:20万円/事業所
- 介護老人福祉施設・介護老人保健施設・介護医療院等:6千円/定員(食料品購入費等はさらに18千円/定員)
事業所単位の補助となるため、1法人で複数事業所を持つ場合は事業所ごとに申請可能です。20万円〜数十万円という金額は、単独で見れば決して大きくはありませんが、複数事業所合算で、BCPで特定された弱点を埋めるには十分な原資になり得ます。
介護事業所のBCP ― 「策定済み」で止まっていないか
ご承知のとおり、介護事業所では令和6年4月から自然災害BCP・感染症BCPの策定が義務化され、現在はすべての事業所が両BCPを保有している状態にあります。問題は次の段階、すなわち「策定したBCPを実際に運用できる装備が整っているか」です。
私自身、複数の事業所のBCPを見比べてきて感じているのは、書面上の手順は立派でも、
- 停電時の電源確保が「ポータブル発電機を使用する」と書いてあるが、発電機が無い
- 断水時の対応に「飲料水を確保する」とあるが、ローリングストックが回っていない
- 避難準備の章に「簡易トイレを使用する」とあるが、現物の備蓄が無い
という乖離が珍しくないということです。BCPは「書類審査が終わっているから完成」ではありません。書かれた手順を実行できる装備が現場にあって、はじめて機能する計画です。
今回の補助金は、この「書面と現場のギャップ」を埋めるために、北海道が用意した予算と捉えるのが最も実態に即した活用法です。
設計のステップ ― BCPを開いてから物品を選ぶ
申請書類を書き始める前に、ぜひ次の手順で「BCPからの逆引き設計」を行っていただきたいと考えます。
ステップ1:BCPを物品リストに翻訳する
自然災害BCPの「初動」「応急対応」「復旧」の各章を順に開き、「○○を使用する」「○○で対応する」と書かれている資機材を、すべて付箋やExcelに書き出してください。発電機、蓄電池、簡易トイレ、飲料水、非常食、毛布、ランタン、衛生用品、無線機やトランシーバー ― この棚卸しが出発点です。
ステップ2:現在庫と照合する
書き出した資機材を、現在の在庫と照合します。「ある/無い/古い」の3区分で十分です。古いとは、消費期限切れ、バッテリー劣化、サイズ・人数が現状と合わない、というケースです。北海道では加えて、「冬装備として機能するか」の観点を必ず入れてください。本州仕様の発電機や毛布が、−15度の停電下で使えるとは限りません。
ステップ3:補助金の対象品目とすり合わせる
不足が見えたら、補助金の対象品目リスト(手引き)と照合します。今回の補助金は、ポータブル発電機、蓄電池、簡易浄水器、簡易トイレ、衛生・医療用品、飲料水・食料、サーキュレーター、業務用スポットクーラー/ヒーター、業務用加湿器、遮熱・遮光カーテン等を、明示的に対象に挙げております。冬場の停電・暖房途絶対策、夏場の熱中症対策の双方を視野に入れた品揃えになっていることが、北海道版の特徴です。
ステップ4:見積取得 ― 単価30万円・事前着手の壁に注意
補助金には3つの実務上の制約があります。
- 単価30万円以上の設備・備品は対象外 ― 大型蓄電池などは複数台に分けるか、機種選定で工夫
- 交付決定前の発注・購入は対象外 ― 必ず通知を受けてから動く
- 見積書は「一式」表記不可・項目別明細が必要 ― 取引業者には早めに依頼を
特に2点目の事前着手不可は、毎年必ず申請後の取り下げ理由になります。「先に買ってから後で申請」は通りません。
北海道の介護事業所ならではの想定シナリオ
北海道で事業を営んでいる以上、BCPに織り込むべきは「全国共通の災害」だけではありません。地域特性に即した3つのシナリオを、補助金の活用と合わせて再点検したいところです。
シナリオA:真冬の停電(暴風雪・送電鉄塔倒壊)
ブラックアウトは記憶に新しく、また毎冬の暴風雪では局地的な停電が発生し続けています。暖房途絶は、北海道では即座に利用者さまの生命に関わります。ポータブル発電機、蓄電池、ポータブル石油ストーブ、毛布の追加配備は、補助金で整えるべき筆頭項目です。
シナリオB:夏場の猛暑・線状降水帯
近年の北海道は、夏場の30度超え・35度超えが珍しくなくなりました。エアコン未設置のユニットや浴室、脱衣所、相談室で熱中症リスクが顕在化しています。業務用スポットクーラー、サーキュレーター、遮熱カーテン、ネッククーラー等は、利用者さまだけでなく職員の労働環境改善にも直結します。
シナリオC:地震・津波・道路寸断による孤立
4月の三陸沖(震度4)、日高の震度5強に続き、千島海溝・日本海溝沿いの巨大地震切迫性は政府も指摘し続けています。施設・事業所が最大3日間孤立する想定で、飲料水・食料・簡易トイレ・衛生用品を備蓄しているか。ローリングストックの初期費用が補助対象に明記されているのは、まさにこの想定に応えるためです。
申請を「補助金獲得業務」で終わらせない
最後にお伝えしたいのは、申請プロセスそのものをBCP訓練の一部として位置づけていただきたい、ということです。
- 管理者・現場リーダー・事務担当が一緒に物品リストを作る ― 普段BCPを読み込む機会が少ない事務担当も、自然と内容を把握できる
- 見積もり段階で「これを使うのは誰か」を全員で確認する ― 発電機の取扱いや簡易トイレの組み立てを、納品後すぐ訓練に組み込む
- 次年度のBCP改訂時に「補助金で整備した装備」の章を新設する ― 装備一覧と保管場所、点検サイクルを文書化
補助金は通知から実績報告まで(実績報告期限は2026年12月28日)の数か月の業務ですが、装備は5年・10年と現場で使われます。整備の入口で巻き込んだ職員の輪が、運用フェーズでの定着を左右します。
6月12日までの逆算スケジュール
本日5月13日から締切までちょうど1か月です。間に合わせるための目安は次のとおりです。
- 今週中(〜5/16):BCPの棚卸し、不足資機材リストの作成
- 来週(5/19〜5/23):取引業者への見積依頼(項目別明細・有効期限内)、EC購入予定品のスクリーンショット保存
- 5月最終週(5/26〜5/30):申請様式(補助金等交付申請書・事業計画書・算出調書・配分調書・事業予算書・資金収支計画書・事業実施計画書)の作成
- 6月第1週(6/2〜6/6):法人内決裁、書類精査
- 6/12(金)必着:電子申請または郵送(簡易書留等の追跡可能な方法で)
判断に迷う品目は、事務局(011-500-9435/平日9〜17時)に必ず事前相談されることをお勧めいたします。
「BCPは作って終わり」ではなく、「装備を伴って、初めて意味を持つ」 ― そのことを改めて自分たちに問い直す、よい機会だと捉えております。今年度この補助金を受けるすべての事業所において、書面のBCPと、現場の現実とのギャップが、ひとつでも多く埋まる申請になりますことを願っております。
木下 浩志
NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長
株式会社MCL 取締役
北海道介護福祉学校 非常勤講師


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