厚生労働省は「仕事と育児・介護の両立支援対策」として、育児休業・介護休業の制度周知と取得促進を進めています(厚労省ページ)。介護・医療の事業所を運営する立場から、この制度を現場で本当に使ってもらうために何が必要か、今日は書いておきます。
育児休業 ― 男性取得の流れは確実に来ている
育児休業は、もはや「制度を知らない」職員はほぼいないところまで浸透しました。論点はむしろ、男性の育児休業取得にシフトしています。
2022年の産後パパ育休(出生時育児休業)創設、2023年の育休取得状況公表義務化(従業員1,000人超企業)を経て、2025年4月からは公表義務の対象が従業員300人超企業に拡大されました。介護・医療業界でも、法人規模によっては既に対象になっている事業者があります。
男性育休の壁は制度ではなく、「うちの職場では取りにくい」という空気です。シフト勤務が前提の介護・医療現場では、「自分が抜けたら同僚に迷惑がかかる」という遠慮がさらに強く働きます。経営者・管理者の側から「取って当たり前」という前提でシフト調整を組み立て直すことが、いま一番の課題だと思っています。
介護・医療業界は、働く女性が多い ― だから両立支援は経営課題
介護・医療業界は、女性比率の高い業界です。介護職員の約7割、看護職員の約9割が女性とされ、ライフイベントと仕事との両立は、個人の問題ではなく事業継続そのものに関わる経営課題です。
育児期だけでなく、その先には介護期が待っています。40代後半から50代にかけて、親の介護が始まる職員は確実に増えていきます。介護・医療の仕事を担う中堅・ベテラン層が、自身の家族の介護で離職してしまう ― 業界全体にとって、これほど大きな損失はありません。
介護休業は「言い出しにくい」 ― 育児休業との根本的な違い
育児休業に比べて、介護休業は圧倒的に取得率が低いのが現実です。理由は単純で、
- 「親の介護」は職場でオープンに語りにくい
- 育児と違って、いつ始まりいつ終わるかが読めない
- 制度の存在自体を知らない職員も多い
という3点に集約されます。とくに最初の点は大きい。育児休業は「おめでとうございます」と祝福される文脈で取得できますが、介護休業は「家族が大変なんです」とこちらから切り出す必要があります。職場の側から声をかけない限り、本人は黙って疲弊し、最終的に離職を選んでしまいます。
「93日・3分割」の本当の意味
介護休業は、対象家族1人につき通算93日まで、3回までに分割して取得できる制度です。この「3分割できる」というルールは、ただの便宜ではなく、介護という出来事の性質を制度が映し取った設計になっています。
育児と違って、介護は計画が立てられません。だからこそ、まとまった93日を一度に使い切るのではなく、3つの局面で使えるように分割可能にしてあるのです。具体的には、次のような使い方が想定できます。
① 要介護状態になったとき(初動)
親が脳梗塞で倒れた、認知症の診断が出た、転倒骨折で入院した ― そうした最初の混乱期に介護休業を使う場面です。入院手続き、リハビリ病院の選定、退院後の在宅サービスの調整、ケアマネジャーとの面談、介護保険申請。この時期にやることは膨大で、しかも本人が一番動揺しています。ここで2〜3週間の介護休業を使えば、その後の生活設計が大きく変わります。
② 途中で状態が変化したとき(再調整期)
在宅介護が始まって半年・1年と経つと、必ず状態の変化が訪れます。デイサービスを増やす、ショートステイを定期化する、施設入所を検討する、医療処置が必要になる ― そのたびに本人や家族の生活は再調整を迫られます。この山場でもう一度休業が使えれば、職員は仕事を辞めずに済みます。
③ お看取りのとき(最終局面)
そして最後に、お看取りの局面です。終末期の数週間、親のそばにいたい ― この願いを叶えるために介護休業を温存しておけるかどうかは、職員のその後の人生満足度を大きく左右します。私たちの仕事は、利用者さまのお看取りに関わる仕事です。職員自身が親のお看取りを十分にできなかったとしたら、その喪失感は仕事への向き合い方にも影響してしまいます。
この3つの局面にそれぞれ1回ずつ休業を当てられるよう設計されている ― これが「93日・3分割」の本当の意味です。
経営者・管理者に求められること
両立支援を制度の話で終わらせないために、経営者・管理者の側でやることは次の3つだと思っています。
- 管理者から声をかける ― 「ご家族の介護で困っていることはありませんか」と、年1回の面談で必ず聞く項目に入れる
- 制度の周知を繰り返す ― 育児・介護休業のしおりを配るだけでなく、朝礼や研修で年に数回触れる
- シフトの組み替え経験を積む ― 突発的な休業申出に対応できるよう、平時から代替シフトのシミュレーションをしておく
介護・医療業界は、人を支える仕事です。その担い手自身が家族を支えられなくなるような働かせ方では、職員も利用者さまも幸せにはなれません。今日の厚労省ページを、自法人の両立支援を見直す入り口にしていただければと思います。
木下 浩志
NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長
株式会社MCL 取締役
北海道介護福祉学校 非常勤講師


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