令和8年度の診療報酬改定で、入退院支援を担う病院にとって重要な見直しが入りました。
従来の介護支援等連携指導料(400点)が「指導料1」として残り、新たに「指導料2」(500点)が新設されています。100点高い上位評価です。
この改定は単なる「点数の上乗せ」ではなく、診療報酬を通じて「平時からの地域連携体制」を病院に求める、という構造的な見直しです。NPO法人ちとせの介護医療連携の会の理事長として、千歳市から在宅医療・介護連携推進事業を受託している立場から、今回の改定をどう受け止めているか、書いておきます。
「指導料2」の3つの体制要件
指導料2(500点)を算定するためには、以下の3つの体制要件をすべて満たす必要があります。
- 【ア】院内規程の整備 ― 入退院支援部門に、ケアマネへの情報提供のタイミング(入院7日以内・退院7日前まで等)を含む規程を作成し、院内に周知する
- 【イ】平時からの多職種連携体制の構築 ― 地域ケア会議・在宅医療介護のサービス担当者会議・院内施設の多職種連携会議のいずれかに出席し、連絡先や担当者を平時から共有しておく
- 【ウ】かかりつけ医機能に基づく事前の取り決め ― 都道府県や市町村等が策定する規定に基づき、入退院支援部門と介護支援専門員等が事前に取り決めを行う(病状急変時の入院支援、退院後療養への移行支援)
注目すべきは【イ】と【ウ】です。これらは病院の中だけでは満たせない要件であり、病院が地域の連携基盤に組み込まれていることが前提になっています。
「市町村等が策定する規定」とは何を指すか
【ウ】の「都道府県や市町村等が策定する規定」とは、各地域で策定されている入退院支援ルールを指しています。入院時の情報提供のタイミングや書式、退院調整面談の進め方などを、地域の医療機関・介護事業所・ケアマネジャー・地域包括支援センターで共通化したものです。
千歳市では、このルールはNPO法人ちとせの介護医療連携の会が窓口となり、関係者と協議を重ねて整備し、共通書式を3種類公開しています。
- 入院時情報提供書(ケアマネジャー → 医療機関)
- 退院時情報提供書(医療機関 → ケアマネジャー)
- 医療とケアマネジャー連絡シート
これらは千歳市在宅医療・介護連携支援センターのページからダウンロードでき、市内の病院・ケアマネ・サービス事業所が共通で使えます。
つまり、千歳市内の病院は、(ウ)の要件を満たすための地域基盤がすでに用意されている状態です。指導料2(500点)を算定する際、ゼロから「市町村と一緒に規定を作る」必要はありません。
「平時からの連携体制」をどう作るか ― 連携カレッジとケアカフェ
【イ】の要件、「平時からの多職種連携体制」は、書式を整えるだけでは作れません。実際に人と人が知り合っていることが必要で、これがいわゆる「顔の見える関係」です。
NPOでは、この【イ】に該当する取り組みとして、2つを継続しています。
連携カレッジ
地域の医療機関・介護サービス事業所のスタッフが、地域課題に基づくテーマで情報交換しながら学べる、情報交換型の研修体系です。一方通行の講義ではなく、参加者同士が現場の困りごとを共有し、解決の糸口を一緒に探す形にしています。研修の場が、そのまま連絡先交換と顔合わせの場になります。
ケアカフェ
医療職・介護職・行政職が、肩書きや所属を超えてフラットに話せる場を定期的に開いています。「あの病院のあのMSWさん」「あのデイのあの管理者さん」が顔と名前で結びつく ― この日常の積み重ねが、いざ入退院連携が必要になったときのスピードと精度を決めます。
これらは目に見えにくい投資です。今回の改定で「平時からの連携体制」が500点という具体的な数字に置き換わったことで、その意味は格段に明確になりました。
関係者それぞれにとっての含意
今回の改定は、関係者それぞれに次のような含意があります。
- 病院(入退院支援部門): 地域ケア会議や連携カレッジへの参加を、「自部門の収益要件」として位置づけ直す
- ケアマネ: 入退院支援ルールへの参画と、医療機関との顔の見える関係づくりが、これまで以上に経営的に意味を持つ
- サービス事業所(訪問・通所等): 入退院時のケアプラン変更に短時間で対応できる体制と、医療機関との情報共有スキルが問われる
- 地域包括支援センター: ケアマネ未決の患者への対応窓口として、病院との連絡体制を点検しておく
おわりに
在宅医療・介護連携推進事業は、市町村事業として始まってから10年近くが経ちます。「地味で効果が見えにくい事業」と言われ続けてきましたが、今回の診療報酬改定は、「平時の連携体制」そのものを点数評価するという転換を打ち出しました。
千歳市で続けてきた、共通情報提供書の整備、連携カレッジ、ケアカフェ ― これらの地域基盤が、令和8年度から、医療機関の経営にも直接効いてくる仕組みに変わります。
地域の医療・介護の関係者の皆さんには、この機会にぜひ、自地域の入退院支援ルールがどうなっているか、そして自分が「顔の見える関係」をどれだけ持てているかを、棚卸ししていただければと思います。
木下 浩志
NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長
株式会社MCL 取締役
北海道介護福祉学校 非常勤講師


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