連休明けの朝、こんなニュースが目に入りました。
2000年の新成人、2020年の新成人、そして昨年生まれた新生児を並べてみると、20年ごとにおよそ40万人ずつ減っている
出典はYahoo!ニュースの特集記事です。世代をまたいで「人がいなくなる速度」を可視化したグラフは、経営者として何度見ても背筋が伸びます。
そして、ほぼ同じタイミングで厚生労働省が示している介護人材不足の見通しがこちらです。
- 2025年度末:約243〜245万人が必要、約32〜37万人不足
- 2026年度:第9期介護保険事業計画ベースで 約240万人が必要
- 2040年度:高齢者人口がピークを迎え、約272万人が必要 ― 2022年度(約215万人)から 約57万人の増員、つまり 約4人に1人が不足
新成人が20年で40万人減る世の中で、介護現場だけ57万人を増やす ― 普通に考えて成立しません。「人を増やす」だけでは詰みです。経営者は早めに、別の前提に切り替える必要があります。
詰みを回避する3方向
ここから先は、私が法人として実際に手を入れている、あるいは手を入れようとしている3つの方向を整理します。
① 生産性向上で「業務の質」を上げる
人を増やすのが難しいなら、一人あたりの仕事の中身を変えるしかありません。ポイントは「業務量を圧縮する」ことより、「介護職にしかできない仕事」に時間を寄せる ことです。
- 記録・申し送り・シフト・請求などの間接業務を、ICTと標準化で削る
- ケア計画やアセスメントは、データに基づいて短時間で精度を上げる
- 移乗・入浴・見守りはリフトやセンサー機器で身体負担を減らす
ここで生まれた時間を、利用者さまとの関わりや、新人・実習生への教育に充てる。これが「業務量を減らす」ではなく 「業務の質を高める」生産性向上 だと考えています。介護報酬のプラス改定が望めない以上、付加価値の総量は人ではなく仕組みで増やす時代に入っています。
② 外国人材を「補充」ではなく「戦力」として迎える
技能実習・特定技能・EPA・育成就労 ― 制度は年々整理されてきました。私が代表を務める北海道千歳のエリアでも、ベトナム・インドネシア・ミャンマー出身の職員と一緒に働く場面が増えています。
経営者として強く感じるのは、「人手が足りないから外国人」ではうまく回らない ということです。日本語教育、生活支援、住環境、ケアの価値観のすり合わせ ― ここに法人が投資できないと、定着しません。逆に、ここに腰を据えて投資できる法人にとっては、外国人材は介護現場の「将来の中核」になります。
特に2027年度から本格運用が予定されている 育成就労制度 は、「最初から長く働いてもらう」前提で設計されています。短期の労働力ではなく、5年・10年単位のキャリアパス を法人として描けるかが分かれ目になります。
③ 生成AIとロボットが「届く範囲」を見極める
ここからが、今日いちばん書きたかった話です。
私は普段、Claude Code というAIエージェントを業務に使っています。コードを書くだけでなく、議事録・通知文・シフト原案・研修資料・補助金申請書のドラフトまで、かなりの範囲を任せています。1年前にはできなかったことが、できるようになっている。 その肌感覚から、こう感じています。
介護業務のかなりの部分は、今後数年以内に生成AIで「下書き」までは到達する。
具体的には、
- 記録の口述からの自動整形
- アセスメントの初稿作成
- 家族説明資料の個別最適化
- 新人教育の対話型シミュレーション
- 多言語対応(外国人職員・利用者さま双方に効く)
このあたりは、もう「導入するかどうか」ではなく 「いつ・誰が・どう運用設計するか」 の段階に入ったと見ています。
そしてロボット。トヨタの工場では、組み立て工程の大部分をロボットが担っています。介護現場で同じ絵は描けないと言われがちですが、私はもう一段先まで想定しておく必要があると感じています。
触覚センサーとヒューマノイド型ロボットの進化を見ていると、移乗・搬送・見守り・清掃・配膳 といった「定型動作の領域」だけでなく、これまで「人にしかできない」とされてきた 触れる・判断する の部分まで、AI機能を搭載したロボットが届く未来は、思ったより早く来るのではないか ― 私はそう感じています。トヨタの工場が「人にできないから」ではなく「ロボットのほうが速くて安全で安いから」自動化されてきたのと、構図はおそらく同じです。
未来のことは正確には分かりません。けれど、こうしたシナリオを想定して経営判断をしておくことは、必ず後で効いてきます。
「できる/できない」から「選んでいる」へ
そこで経営者として問い直したいのは、「人間にしかできない仕事は何か」ではなく、
AIやロボットにもできるけれど、それでも人がやることに意味がある仕事は何か
だと思っています。
看取り、寄り添い、家族との対話、利用者さまの人生史への共感 ― 技術的には代替可能になっても、「私たちはあえて人がやる」と法人として宣言する領域。それを明示することが、職員の専門性の根拠を「できる/できない」から「選んでいる」へと変えていきます。
「AIにできない仕事をしている」ではなく、「AIにできても、人がやることに意味があると私たちは決めている 仕事をしている」 ― この立て方は、職員の誇りの持ち方そのものを変えるはずです。経営者の役割は、その線を引いて、そこに資源を注ぎ込むことだと思っています。
経営者として、どこから手をつけるか
3方向すべてを一気にやる体力のある法人は、そう多くありません。私自身、毎年順番に重点を入れ替えながら進めています。今年度に絞って言うなら、
- 生成AIの業務適用:記録・通知・教育の3つに絞り、年内に標準フローを作る
- 外国人材の長期キャリア設計:育成就労制度を見据え、住環境と日本語学習支援の枠組みを整える
- 介護ロボット・センサーの再点検:補助金が使えるうちに、移乗と見守りの2点に投資する
この順番にしているのは、生成AIの整備が 他の2つの土台 になるからです。多言語の教育資料も、ロボット導入時のマニュアルも、AIがあれば作るコストがまったく変わります。
終わりに
新成人が40万人ずつ減っていく社会で、介護現場が57万人を増やす ― この前提のままでは戦えません。「人を奪い合う経営」から「人を活かしきる経営」へ ステージを変える必要があります。
生産性向上、外国人材、生成AIとロボット ― この3つは、それぞれ単独では足りません。組み合わせて、法人ごとに最適解を設計する。今年から来年にかけて、経営者の力量が一番問われる領域だと感じています。
連休明けの今週、ぜひ自法人の3年後の人員構成を、一度紙に書き出してみてはいかがでしょうか。足りないところが見えれば、打ち手は必ずあります。
木下 浩志
NPO法人ちとせの介護医療連携の会 理事長
株式会社MCL 取締役
北海道介護福祉学校 非常勤講師


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